第3話【有力株】
食って寝てを繰り返し、気付けば帰りのホームルームが終わろうとしている。背伸びをして腰を回すと「パキパキ」と小気味よい音がした。腹も落ち着いてきたし、本業の剣道と行こうじゃないか。
鞄を引っつかんで道場に駆け込み、着替えてからお付きの先輩の胴着と防具出しをやって備える。
「おう、最近はしっかりやってるみたいだな」
「あっ、おざっす!はい」
2年の序列1位、矢野公太が1年生の様子を見て行ってきた。
「1年だけになって早速雑用やらかしやがって、もう怒られてから直すのが許される立場じゃなくなってくるからな。それで痛い目見るのはお前だぞ」
「はい!」
矢野が俺に対して念を押してくるのは、俺が1年の序列1位だからだ。
序列というのは学年内での順位付けで、中学での実績と入学前に行われた新入生の総当たり戦の順位で決定される。
1位になったものは学年のまとめ役となり、いずれ最高学年になった際には主将を任される。そのため矢野は次期主将として、また、お付きの系列であるために目を尖らせている。
光誠学園の稽古はシンプルをモットーにしている。切り返し30分、追い込み30分、掛かり稽古30分、地稽古30分、日によっては技練少々。
関東大会の神奈川県予選が先週は個人戦、今週末には団体戦があるのだが、インターハイ予選までは試合前の調整稽古は行わない。
すでに行われた個人戦は本選出場枠4つのうち光誠学園からは3年の渡会と金本の二人が出場を決めた。
そこで喜んだのも束の間、団体戦に向けては申し訳程度にBチームとの練習試合を少しする程度。
大会を前にしても監督の徳田博光の口癖である「最初の一本目から全力をささげよ」との言葉通り、稽古の頭から身を粉にした。
新しい環境に慣れてきた頃、一つの疑問が浮かんできた。俺はこの稽古で強くなっていけるのか?
他校が独特な練習で技術を磨いていると聞く中で、光誠のこのシンプルな稽古。現代スポーツと逆行している練習方法に誰も頭をかしげないのが不思議に考えたが、先輩たちのキレのある動きや華々しい活躍を思い返して疑念を振り払う。
「おい!ぼうっとしてないでタスキ着けてくれよ」
「あ、すみません」
序列1位の役得で俺はBチーム相当の扱いをされている。Aチーム相手にいい試合をできたら今後の大会で補欠くらいには入れるかもしれない。
学年1位と言っても数カ月前までは中学生だった身。センスだけで対応するも、やはりレギュラークラスとの地力の差は大きい。今は余計なことは考えず目の前のことに集中していかねば。




