第37話【夏への扉】
徳田が激怒しているのは俺たちに対してではない。しかしやり場のない怒りに沸騰するところを見せたくないのだろう、集合をすぐに解いて、さっさとどこかへ行ってしまった。
「…これは、どうしたらいいんすかね」
「とりあえず保護者んとこ行くか。俺もさっきまでイラついていたが、自分よりキレた人を見て頭が冷めた」
福岡マリンメッセのうだるような喧騒と熱の中、俺たちは置いてけぼりにされていた。
「やっと俺の足元にまで来たか」
インハイ予選明けの月曜日、レスリング部の吉田がへらへらと話しかけてきた。
「俺にそうやって気安く話しかけてこられるのもあと少しだと思うと、ちっと寂しいもんだな」
「おっと」
俺の言い返しに吉田はたじろいだようになる。
「今日は随分と言ってくるな」
「あのな、さすがに今回はテンション上がってんだよ。やっとインハイ行けるんだ。ほれほれ、もっと軽口叩いてくれ」
「ちぇっ。嫌がんねえんなら面白くないわ」
こちらの調子が良いときに限って、吉田のやつはとっとと内部進学で帰宅部の連中のところへ行って、大した必要もない用事でパシらせにかかる。
去年よりも暑い夏が待っている。それに備えて、また2重の胴着にストーブで汗だまりを作る日々になるだろう。それでいい。聞いてて虫歯になるような甘ったるい労りの言葉なんて知らない。胸焼けするようなこってりした、それでいて饐えた匂いのするものが、暗くて灰色の汗を流してのたうち回ることこそが、俺たちの青春なんだ。




