第33話【あれからどうよ、そっちは】
そして待ってました、山内章領。
「一応傍目ではあるが章領の試合を追っていた。それで分かったのは普通に強いということ。ようはベスト8止まりでも、実力的には組み合わせ次第ではそれ以上に上がる可能性があり得る。それはお前たちが足をすくわれる可能性も、ということだ。それは章領が特別というより他の上位の学校とやってもあり得ることで、少なからずここで負ける程度なら選抜本番でもお前らは勝ち上がる力がないだろう。いつも通り試合をしていつも通り勝て」
突き放すようで、おそらくそれなりに気を使った徳田の一言。続いて矢野もまあ似たようなことを言った。
すんません、みんな。俺は個人戦のつもりで行かせていただきやす、と俺は自分勝手な、だけどこれ以上なく1本に貪欲な気持ちを心の中で反芻させた。
さて、迎えた準々決勝戦。8あるコートがジグザグに半数使って争われる。両校さらりさらりと9歩の間合いに入って礼。今回は先鋒じゃないから、俺も一場も面を着けていない。
こいつの面構えを脳に刻み込んでやらあ。そう思って一場を見た。なんというか普通の表情をしていた。美形だ醜男だというんのを言いたいじゃなくて、授業に出たり買い物に出かけたりするときのように俺と対面している。
なんか、こう、ねえのかよ。神奈川の1年生で一番強いだろう俺をお前は倒して、それで俺はリベンジに来たんだろ。それに対してもう1度倒してやるとか、負けたくないな、とか。そういう気負はないのかよ。
思わず視線が感情的になって睨んでしまうが、相変わらず柳に風、一場にガン飛ばしだ。とにかく目を逸らさない。あんときの鍔迫り合いでもそうだったな。
さりとて副将、団体戦では後ろのポジションなれば、スコア次第でチームの勝利を優先するため思い通りにならないところがある。そして中堅戦が終わった時点で光誠学園の勝利が確定した。
予想以上というかなんというか。倉富や矢野はともかく、柴田がすごかった。こんなに圧倒的に勝ちにいくとは。やっぱり下級生で試合に使われたから、レギュラー定着に向けて気合が入ってたのか。
そのお陰でと言ってはなんだが、スコアを気にせず一場と試合をすることになった。
「ほいやー!」
「さあさあさあ!」
相変わらず張りがないくせに纏わりつくようにして中心を取らせてくれない。斜めから間合いに入ってみると、ぬるりと間合いを切られる。
ここで焦るまい、イラつくまい。なにせ一場、足捌きから以前より地力が増しているのが伝わる。そう言えば体の厚みも少しでてきた。まあ、もともとがうらなり青瓢箪だっただけかもしれんが、栄養失調にはならなそうだ。
「テェアッ!」
おっと。向こうから仕掛けてコテに来た。やっぱりは筋が鋭くなっていやがる。いいじゃん。
「セァッ、メンダ!」
こっちだってアホみたいに稽古してんだ。中心をはたいて一場が竹刀を戻そうとしてきたところを裏からメンに跳ぶ。へえ、ボクシングみたいな避け方をすると思ったが、落ち着いて前で捌いてきた。
そこから何合かやりとりをしていく。そこまで決定的な技を出してはいないが、やっぱりさすがに俺の方が地力は高い。
「テェ!コテッ、メンコテェア!イヤッカテァコテコテァ!ォメンッ、ンダラァアア!」
こうやって詰まったところで連打に持ち込むと、一見ついていってるようには見えるが、俺と違ってあいつは手だけの振りになって足が置いてけぼり。もうちっと筋力を付けて竹刀を自在に触れるようになったらもっと厳しい剣道が出来るだろうよ。
そう思いながら連打からメンを打って体当たり、そこから体勢を崩して引きドウを打って下がる。
そうしたら そうしたら一場が追いかけてくる。そら、待ってましたで一場の動線にめがけてメンを放つ。
は!?
一場が予想外に離れた位置から、俺より早くメンを打ち始める。こいつ、腕が長すぎ…。
「メェ、オメーン!」
タッパ。リーチ、そして始動。そのすべてで負けていれば当然、相メンは負けた。白旗3本ごっつぁんです。
ピイイイイー!!!
ホイッスルが鳴って時間終了。あ、やべえ。普通に負けたぞ。




