第26話【俺ら世代のトップですから】
8月23日の神奈川県の1年生大会。この大会は男子が団体戦、女子が個人戦の形式で争われる。
光誠学園は先鋒から夛田(能代第三中)、片倉(光誠学園中)、尾道(郡山北中)、柴田(野田第四中)、そして大将が外田恵一(福岡南中)。
結果発表。優勝、光誠学園。準優勝、南和大橘。
決勝前、徳田からの集合が解けた後に尾道が「橘を血祭りにあげてやろうや!」と発奮してくれたのが効いたか5ー0で圧勝。いや、他の試合も4-0か5-0で楽勝だった。
「俺も神奈川ならそこそこでしょ」
と、得意気なのは片倉。中学で県ベスト8だったという自称を今まで訝しんでいたのは詫びよう。俺より勝率が良かった。所詮は次鋒が図に乗んなや、とも思ったが最近は稽古してても普通に一本を取られることがあるし、片倉なりに頑張った証拠なんだろう。水は差すまい。
しかしこの大会でよく言われるのが「光誠は強い中学生を集めているから現時点での完成だが高くて優勝するのは当然。最終的に伸びないからインハイ予選でたまに負ける」とかいう意見。
ぶん殴ったろうか、というのは3割くらい冗談。雑誌の取材には「勝負の怖さはインハイ予選で思い知ったので、とにかく今回は重圧や周囲の声を気にせず挑戦者の心構えで臨みました」という優等生の模範解答を1週間前から用意していたが、披露する機会があってよかった。
ただそういう諸々を差っ引いても腑に落ちないものがある。山内章領、出場辞退。
おいバカ。なんじゃそりゃ。
「監督。章領が辞退ってどういうことですか?」
開会式後の集合で徳田に聞いた。
「ああ、なんでも直前で選手が足りなくなったらしい。ケガと体調不良だそうだ」
「それは一場ですか?」
思わず英語の教科書の和訳みたいな口調になった。
「いや、彼ではない」
No,he is not.だそうだ。サンキュー、トム。
ふざけんな!お前、敵前逃亡だぞ一場!お前と試合できるからこんな小田原くんだりまで来てやってのに、貴様というやつは! 野球部でも将棋部でも、とにかく頭数を揃えて出てこいや。
それにしてもこの辺が分からん。確か山内章領は進学校だったか。はいはい、お坊ちゃま学校ですからご無理はなさらないと。お風邪をお召しになっては剣道はできまちぇんか。
ふざけんなや。一場の野郎は五体満足なくせに仲間の尻を叩くこともなく敵前逃亡だってのか。ちっとは面白い剣道だと思ったのによ。やっぱりあいつ嫌いだ。
「恵一!いやー橘フルボッコでスカッとしたな」
柴田がご満悦だ。おうおう、俺は苦虫で作ったガムをクチャクチャやってる気分だわ。
あっ、尾道が矢野になんか言われてる。いや、これは怒られてるんじゃなくてソシャゲのストべーをの話をしてるんだな。ストロングベースボールの略。矢野はああ見えて野球系のソシャゲ中毒者だ。あれだけ矢野に殴られて、目の敵のように悪態をついていた尾道がそれなりにやっている。世の中なんとなく噛み合わない同士でも成立するようだ。これも寮生活の深い付き合いだからこそなんじゃないのか。章領さんよ、殴り殴られの上下関係はおたくらのお坊ちゃまどうしの付き合いじゃ出来っこねえだろ? いや、これは浅いか。
せっかく一場を同学年のライバルに据えてやろうと思ったのによ。やっぱりスポ薦と一般生とは感覚が違うんだな。なんだかなぁ。橘と火花散らすのも違う気がする。 とんだ肩透かしを食らったもんだ。
そういうモヤモヤもしょせん個人の感想に過ぎず、チームとしては新人戦に向けて体制を整える期間に移行していった。玉竜旗やインハイではうだるような熱気をたたえた季節も秋に移り変わっていくように、この章領の剣道に対するモヤモヤもいつかは冷めていくのだろうか。




