第25話【もう一つの闘い】
「遅い!」
稽古から帰ると母さんがいきなりこうだ。まずお帰りなさいが先じゃない?
「なんでこんなに遅いのよ」
「普通に部活だよ」
「剣道でなんでこんな時間になるのよ!部活が終わるのが6時でしょ?」
今は8時だ。まあ家から10分かからないのにこの時間はちょっと遅いかも。
「ちょっと稽古が終わってから先生に質問してたらいい時間になっちゃたのかな」
「ちょっと?2時間がちょっとって言うの?」
最近母さんはしつこい。というのも僕が試験で成績を落としたからだろう。
「あなた家じゃちょっとですら勉強してないじゃないの」
「まあまあ。母さん、そこらへんで。せっかく剣道頑張ってるんだからさ」
父さんが待ったをかけてくれた。ナイスじゃないっすか。
「何言ってるの?あなただって幸弘の成績を見たでしょ。いい学校に入ったのに部活部活って」
立て板に水。矢継ぎ早。油田かよというくらい尽きず沸いてくる母さんの不満。中東の国も真っ青で、エネルギー問題もたちまち解消してしまうんではないかというくらい無限に続く話を無視して、僕はお風呂に入る。
「はー。文武両道、文武両道」
そういえば光誠学園とか南和橘はスポーツ推薦の寮があったはず。彼らは試験勉強とかを部活の仲間と集まってやってるのかな。やれって言われると余計勉強する気がなくなるのがわからない親の目を離れてさ。
母さんが心配して言ってくれているのはわかる。僕は将来剣道でご飯を食べていくわけでも、それどころか大学に行くわけでもない。何なら高校を出て剣道を続けるかもわからないのだ。
山内章領はあくまで進学校。そこで部活をする僕にとっては剣道というのは生き方に通じる武道ではなくて、勉強の気晴らしにやるスポーツに過ぎない。それに熱を上げて本業の勉強を疎かにしてしまっては本末転倒。
剣道が出来なくて高校をクビになることはなくても、勉強が出来なければ卒業に必要な単位は取れなくなる。
明日やる小テストの範囲を思い返しながら湯船に口まで浸かる。そのまま息を吐くと、水面には浮かんでは消えるあぶく。こんな風に煩わしいものが弾けていけばいいのに。




