第24話【インテリ剣道開眼なるか】
脳筋はほっといて外田の場合。
夏休みに入ると僕らはいろいろな学校と手合わせをした。それで思ったことは光誠学園の外田くんほどの1年生はいないということ。やっぱりあの攻めと読み、速さのバランスの良さは近畿や関東、あと東北のいくつかの学校を見ても出会うことはなかった。
でも確か彼は去年の全中で優勝したわけではなかったような。すると九州の方かな、やっぱり。世界は広い。
それにしても本当に外田くんはすごい。なんでも勝ち抜きの大会で15人抜きしたとかなんとか。それでその大会は光誠学園が3位になったらしいし、インハイも大将をやってた人が個人戦でベスト8だって。
それで8月の下旬、神奈川県1年生大会で光誠学園がぶっちぎりの優勝。見てないけどそりゃそうだと思ったよ。うん、うちは1年生が4人しかいなくて、そのうちの1人がケガ、あと1人が風邪で欠場です。いやー、無理はいかんですよね。僕もケガしたとき堂々と休みたいから責めません。
ということで山内工業の次なる目標は新人戦のベスト8。当然去年はシードなんて獲れてないからトーナメントのどこになるのかは謎。外田くんと試合したいけど1回戦は避けたいですな。まあ3ヶ月後の試合なんですけど。
そして僕が最近粉河先生から言われているのが
「ほら、また変なとこから手を出してる!変態打ち変態打ち」
という具合で、粉河先生の言うところの変態打ちを強制されている。なんて不名誉な呼び方をしてくれているんだろう。これは僕が中学生のときに体の柔らかさと手足の長さとを利用して、相手が届かないところや普通の人が打ってこないような体制からも手を伸ばして打っている癖のようなものだ。
それにしても変態打ちはあんまりなので抗議をした。
「先生。その変態打ちって言い方はよしてくださいよ」
「いやだね。変態打ちは変態打ちだよ」
「そりゃ変な打ち方なのは認めますけど、そこまで言うことはないじゃないですか」
「ダメダメ。君はこの打ち方のダメなとこを自覚してないのかな?
「剣道はまっすぐじゃないとダメ的なアレじゃないんですか?」
「一場くんにしてはそこに屁理屈を持ってきたりしないんだ?まっすぐじゃなくて何がダメなだって」
言われてみれば。確かに変態呼ばわりが気になって深く考えてなかった。僕は先生にまがった打ち方の何がダメなのか聞いてみた。
「早い話、高校生の試合だと体勢が崩れたまま打って一本になるのが難しくなるからね。中学生よりは審判の基準が上がったでしょ?しっかり体制が整ってないままだと強いうちは出ないから、旗は上がりにくいよね」
なんだ、ふたを開けたらそんな話か。
「で、2つ目。君の大好きな掛かり稽古をする理由と結びつくけど打って防がれたときに次の技に行けないってこと。無理に届かせようとするとどうしても上半身を倒していきがちでしょ。それで下半身が置いてけぼりじゃ2本目3本目って続けられないし、最悪相手に崩されて逆にピンチになっちゃう。一場くんなんて普通に打っても外田くんにひっくり返されてたじゃん」
「なんか言い方酷いですね」
「事実じゃん」
痛いところを。確かに十分な跳び方をしてメンをとったのに見事に転倒したなあ。
「逆に正しい姿勢だといくらでも技を繋げられるのも外田くんに嫌というほど教えてもらったでしょ?」
「あー。あれをやれたらいいですね」
「とどのつまり剣道だって点を取る競技なんだから、攻撃の時間が長くて防御の時間が短い方が有利なんだよ。耐えて耐えて最後に研ぎ澄ました一本っていうのもかっこいいけど、自分が打てて相手は手を出せないって状況が長ければ長いほどそれに越したことはない」
「そりゃそうですな」
長話をしている他の部員がまた一場か、と笑っている。いいじゃん。こういうのをしたくてこの部に入ったんだから。まあこの部にいる以上、こういうやりとりを本気でバカにはしてないんだろうけど。
「最後。点取りゲームって性質についてだけど審判に認められないと一本にならないじゃん」
「審判の先生たちは曲がった打ち方が嫌いで旗を挙げないってことですか?」
「それもある。ただそれ以上に旗を挙げる準備ができないんだよ」
「準備ですか?旗を挙げる準備…」
「例えば際どい相メンなんか君たちみたいな若い子でもどっちの竹刀が先に当たるか見切れないことがあるでしょ」
「そうですねー。達人じゃないんで」
「別に注意したいわけじゃないんだよ。偉い先生なんてもっと見えない。年をとってるんだから」
「でもスローで見たら旗の通りってのがたくさんあるじゃないですか」
「それは技前に何となくこっちだなって旗を挙げる準備をしてて、その通りになってるからだよ」
「なんとなくですか」
「何となくってバカにしちゃいけないよ。それは試合の流れを見てどっちが優勢とか、どういう技を狙っているとかを読んだりさ。あと直前の体制の充実度から同時に跳んだらこっちが勝つなって見当をつけるのさ」
なんか話が見えてきたかも。
「だから審判はその場その場で打ちが出そうな場面で予測をしながら見ているわけ。そうすると変なタイミングで予想外の打ち方をされると戸惑っちゃうんだよ。まあ誤審は嘆かわしいことではあるけどさ。とにかく審判は予想して試合を見ると。そうなったら一番わかりやすいのは自分が打つタイミング、自分が打てる技だと判断が楽になるんだよ。そういう意味で誰にでも共通して教えられてるまっすぐな打ちが一番なの。あと理屈が見て取れたりね」
「理屈…」
「まあ簡単な話、片方がさんざんメンばっか打ってもう片方が手元を上げて避け続ける。それでメンを打ってた方がフェイント入れてコテを打ったら簡単に判断できるでしょ。そういう感じで試合の流れで確信をもって攻めて打った一本。これもやっぱり見てて挙げやすい」
「なるほどー」
「となるとですよ。一場くんの例の打ち方はよろしくないんです。変態打ちなんです。変態の打ち方なんです」
「ぐぬぬ」
「安心してください。僕は君を見捨てません。変態を矯正するのが教師の職務の一つですから。直るまでは普通に怒るので」
こういう感じでダメなところを散々あげつらわれた上での変態呼ばわりをされたために、まあ徐々に僕の打ち方は矯正されていった。粉河先生って基本自由にやらせてくれるけど、ダメなときは徹底的にやるんだよ。納得してるからいいんですけどね。




