第21話【疲労は吐き出す】
「お前、結構ケロッとしてるんだな」
素振りが終わって面を並べて整列する中で、隣に並ぶ柴田が驚いたように言ってくる。なるほど、一場のことを考えていたらあっという間に素振りが終わっていた。これは思わぬ効果だ。
「へっ。こんなもん博多の平均気温ばい」
「嘘にもほどがあるだろ。まあその調子で立切も頑張ってな」
げっ。そうか、お前はレギュラーじゃないからやらないんだな。
これからいつも通り全員で切り返しに追い込みと掛かり稽古をやった後、レギュラーだけ立切稽古をする。立切稽古とは一人の元立ちに対して複数人の掛かり手が交代で互角稽古をするというもの。
このクソ暑いのにありがたいことで都内の大学に進学したOBが来ているので、掛かり手に交じってくれる。そいつらが3分交代なのに対してこっちはぶっ続けで30分やり続ける。
なんでもその昔、山岡鉄斎が始まりなんだか有名なんだか知らないがバカな稽古を考えやがって。今でも秋田で3時間立切をやってるところがあるそうだが、向こうは冬の寒稽古。こっちは真夏にストーブじゃあ事情が違うだろ。
「おいコラァ!新浦、へばってる場合か!」
早いぞ新浦。期待を裏切らないヘタレっぷり。しかし俺も他人をかまってる場合じゃない。柴田がなかなか厳しい稽古をしてくれる。お前、俺のこと嫌いなのか?それはともかく、こいつ新人戦のメンバー入りそうだな。
途中、新浦の場ゲロを挟みつつ本日も稽古が終了。
キツイ。そりゃ新浦が吐いても今回ばかりは矢野も叱責することがない。しかしこの立切、なかなか俺には意味が大きいかもしれん。玉竜旗は剣道の公式戦ではかなり珍しい勝ち抜き戦。俺は序盤戦の先鋒で起用される予定だ。この大会には5人抜き、10人抜きのように抜いた数によって賞が設けられている。自分が勝った後も新鮮な状態の相手と立て続けに試合することは俺にとって有意義なものだ。




