第16話【これで終わってもいいくらい】
そういうわけで我らが山内章領高校は目標なんか忘れて決勝戦の舞台にまで行っちゃって、何ならインハイ進出まで決めてしまったのだ…とはいかず、南和大橘に4-0で血祭りにあげられました。
とくに僕は相手のデカい人に2分と持たず2本負け。正直剣道の能力で言えば外田くんの方が上だったけど、なんだろう。橘の人は理合もクソもなくて一方的に打ってはガタイでぶっ飛ばす、プロレスみたいにな剣道で為す術なくやられました。
で、中堅戦を挟んで他は全員2本負けの完敗。橘12年ぶりのインハイ出場おめでとー。
決勝ですさまじくボコられたけど清々しい。やっぱり県で準優勝はすごいことだし、なにより外田くんに勝てたのが嬉しかった。
力の強い人やスピードのある人がものすごい連打をしてくるのは対戦経験の中にもある。それでも外田くんほど考えが伝わってくる手数の出し方は初めてだった。それを耐え凌いで一発を決めれたのは自分の剣道の思考力が上がったのを確認出来て、なんかいいなって思えた。やっぱり剣道ってただの体力勝負じゃないよね。たぶん負けてても外田くんなら全部納得ずくで素直に、やられたー!ってなると断言できる。
じゃあ外田くんはどうなんだって表彰式の列で光誠学園を見て驚いた。
なんじゃこりゃ。お葬式?光誠の並んでるところだけ重力が100倍になってるんじゃないかってくらい負のオーラで沈み込んでる。外田くんなんて目が真っ赤で焦点が定まってない。鍔迫り合いで貫通するくらいガンを飛ばしてきてたのに。
でも、そっか。常勝軍団だもん光誠学園は。そりゃ3位じゃ落ち込むよね。ただ、その落ち込みはインハイを逃したからなのか、たかが章領ごときに負けたからなのか。
いや、うちなんか眼中にないよね。でも外田くんは今日僕と戦った感想とかってないのかな?こんなヤバい空気じゃなかったら話しかけたかったけどな、僕より外田くんの方が強いけど、その分頑張ったし僕の一生懸命は伝わったかなって。いや、違うな。ただ一言、楽しかったよって。
改めてわかった。光誠学園は強い。準決勝で負けてここまで悔しがれるほど一個の試合に全身全霊を傾けられる自信がない。まあどっちが正しいとかはないと思う。思いたい。
また外田くんと戦ったら負けるんだろうな。そんなことを思いながら会場を後にした。
「幸弘やっぱ強いじゃん」
喜田先輩が帰りの電車で言ってくれた。
「いや、それでもやっぱり強いですよ。光誠学園は」
「光誠?橘じゃなくて?」
「はい。実力は外田くんの方が上だけど10回やって1回勝てるくらいで、でも、その1回をきちんと引き出せた気がするします。今日は準優勝がどうとかじゃなくて、そこを持って帰ろうと思います」
まるで優勝インタビューのようなことを言って、ホクホク気分のまま家に帰った。




