第二話 モルゴン族長アラビナの決断 その二
ウインランド王国に来て三日目に、王城から亡命の許可が出ました。
早い。この国では、決めるのが我が国、いや、かつての我が国よりも、何倍も早い。
そしてもう、受け入れてくれる土地まで、決まったという。王国の東部ハーベスト領という領地の草原地域だとのこと。
新たな居住地への出発は、さらに三日後から毎晩200人ずつ、5日間に渡り、鉄道という大型の馬車を繋いだようなもので行くという。500頭の羊も100頭ずつ、一緒に運ぶのだとか。
2日後には、ハーベスト領から受け入れ世話をしに来たという、宰相の弟、ロッド殿とラナ嬢がやって来た。そして、居住地の詳しい説明を聞けました。
「初めまして。ハーベスト領から、お迎えに来ました、ロッドといいます。兄の宰相から、皆さんの居住地の世話を、申しつかりました。
不便なことや不満なことがありましたら、遠慮なく言ってください。」
「同じく、ハーベスト領から参りました、ラナといいます。
未経験の土地に来て、不安や心配なことが、多いと思いますが、できる限り、相談にのりますので、よろしくお願いします。」
「モルゴン族を率いる《アラビナ》です。この度は、我らの願いを聞き届けていただき、お礼を申します。
隣にいるのは、私の弟で9才になります。」
「アラビナ族長の弟の《テジン》です。よろしく。」
「族長の補佐をしている戦士長の《ギスハ》です。お見知りおきください。」
「さて、これから皆さんが向かう場所は、ウインランド王国の東部にあるハーベスト伯爵領です。
領都ブルータスは、商売と農作の街ですが、それより東に、50キロ、鉄道で一時間少しのところの草原地帯です。
これまで、人が住んでいない地域で、全くの草原ですが、小川が何本か流れていて、羊を飼うのに支障はないかと思われます。
皆さんの家は、今までどおり、《ゲル(テント)》に住んでもらうことになります。
食糧は、皆さんが自活できるようになるまで、ハーベスト伯爵から、小麦や野菜が無償で提供されます。
少し時間をいただきますが、井戸や橋も作ります。
それと、その場所には、皆さんだけが暮らすことになりますが、居住地の名前は、《モルゴン村》。
族長のアラビナさんは、村長という名前で、これまでどおり、部族の取りまとめをしてください。
皆さんが行くまでには、仮建物の駅と道ができているはずです。
いずれ、村長さんの住居兼公民館の建物を建てますが、すぐには無理なので、了解してください。」
ラスカル伯爵領に来て、6日目の夜、私はロッド殿と共に、第一陣として、ハーベスト領に向かうために、列車の人となりました。
ギスハとラナ嬢が最終便で、それまで、皆の世話をしてくれます。
駅には、ラスカル伯爵の娘のティアナさんが見送りに来てくれました。滞在中、炊き出しや病気、怪我人の世話など、なにかとお世話してくれた方です。ロッド殿とは親しいようで、二人で軽口をきいていたのが、微笑ましかったです。
列車が駅を出発すると、飲み物と駅弁という食事が皆に配られ、物珍しさと美味しさに、皆が騒ぎ立てています。
飲み物は、男達にはビールという酒が、女と子供達には、果実水という果物の汁の水が配られ、駅弁には、驚くほど柔らかな肉料理だというハンバーグに野菜を煮たもの、それに、麦飯という穀物が入っていました。
どれも、具材をさらに美味しくする、味付けがされていて、皆、幸せな笑顔をしています。
良かった。どうしようもなくて、国を捨てる決断をしたのですが、不安しかありませんでした。
移動の道中は、皆に、出会った部族との戦いの恐怖や、過酷な砂漠での生活を強いることになって、この上、悲惨な暮らしが待っていたら、どうしようかと思っていたのですが、この国の方達は、思ってた以上に優しく、私達を受け入れてくれています。
私の傍らでは、母を亡くしてから、塞ぎ込むことの多かった弟が、笑顔で皆と談笑しています。
私の決断が間違いでは、なかったことに安堵しています。
そう、私には部族を守ると同時に、弟を立派な部族長に育てるという、役目があるのですから。




