第一話 モルゴン族長アラビナの決断 その一
ペルシナ王国の王子シャルダンと、王女ルビーがウインランド王国に来ている頃、モヒナ殿下に付いて敗軍となった部族は、賠償として多くの羊を、勝利者の部族に召し上げられ、その生活地域も辺境に追いやられていた。
その中に、族長である父を戦いで亡くし、父の跡を継いで族長となった、モルゴン族のアラビナがいた。
彼女はまだ18才、弟がいるが9才で幼いため、彼女が族長を継いだのである。
「アラビナ様、この数の羊では、到底、部族の者達を養い切れません。保って二年、あとは飢えるか他の部族に戦いを挑み、羊を奪うしかありません。しかし、そんなことをすれば、他の全部族から、報復を受けモルゴン族は、死に絶えるでしょう。」
部族の戦士長、ギスハの言葉に沈黙しかできないアラビナは、ある考えを実行するしかないと決意した。
「ギスハ。我らは国を捨てます。この国に我らの未来はありません。」
「国を捨てる? どうなさるのです?」
「砂漠を越え、かの国へ亡命するのです。」
「もしかして、話に聞く、ウインランド王国ですか? かの国が果たして、我らを受け入てくれましょうや?」
「わからない、でもそうしなければ、死を待つしかないのです。」
「そう、そうですね。でも、ここから東の砂漠に向かうには、幾つもの部族の間を抜けねばなりませんぞ。戦いになるやも。」
「我らは、国を捨てるのです。他の部族とはできるだけ、戦いを避けます。通り過ぎるだけです。でも、それを阻むなら、我らの未来を阻むなら、力づくで通るまでです。」
「わかりました、皆に用意させます。アラビナ様のことは、このギスハが護り通してみせます。」
こうして、翌日からモルゴン族1,000名余は、東へ向かって移動を開始したのである。
移動開始から5日目、羊の放牧をしながら、西へゆっくりと移動するシン族に遭遇した。
慌ただしく、防御隊形を取るシン族から、一騎が駆けて来る。
「止まれっ、何事だ。我らと戦うつもりか。」「いや違う。我らは東の国へ向かうところだ。迷惑は掛けぬ。おとなしく通してほしい。」
「ほんとうか。国を出て行くと言うのか。」
「そうだ。戦いに負け、羊の数が足りぬようになった。このままでは、部族を養っていけぬ。」
「わかった。通るがいい。ただし、羊を50頭置いてゆけ。」
「断る。ならば、力づくで通るぞ。死人がでるなあ。
全員、突撃隊形を取れ。我らの行く手を阻む者は、容赦するなっ。まず、お前からだっ。」
そう言うが早いか、使者の首をはねた。
だが戦いにはならなかった。こちらの覚悟を知ったシン族は、ただ通ることを許可したからだ。羊50頭は、こちらが戦いを避けるだろうと思って吹っかけただけだ。
こうした邂逅を、6度繰り返して、砂漠に辿り着いた。
砂漠横断の道案内は、商隊を護衛すると言うことで、苦労しなかったが、女子供と羊を徒歩で連れて行ったため、横断には20日を費やし、苦難の連続であった。
だがしかし、ようやく、ウインランド王国に辿り着けた。
着いたのは、ラスカル伯爵領と聞いた。
着いてすぐ、ウインランド王国の兵士に囲まれたが、隊長と思しき人物に、亡命してきたことを話すと、少しの時間待たされただけで、川の傍に野営を許された。
私は、数名の護衛を引き連れ、伯爵の住む屋敷に案内され、謁見して、亡命に至る経緯を話し、受け入れてもらいたいと、お願いした。
それに対し、王城の判断を仰ぐので、しばらく、野営をして待機してほしいとのことだった。
野営地に戻ると、周囲に伯爵の兵士がいて、監視と護衛を兼ねているようだ。
驚いたことに、野営地では、大きな鍋で料理が作られ、私の帰りを待っていた。
「お帰りなさい、アラビナ様。勝手に料理を食べる訳にも行かず、お帰りをお待ちしていました。数人の者に毒味をさせておりますが、まったくなんでもないようです。」
「そうですか、ギスハ。皆、お腹を空かせていることでしょう。食べるように言ってください。」
王城に第一報がもたらされたのは、モルゴン族の到着から8時間後のことだった。
ペルシナ王国のモルゴン族1,000名余が、ラスカル伯爵領に来たこと。亡命を求めているらしいこと。詳細は、伯爵が謁見して聴取するとのこと。
おそらく、最初に接した指揮官からの報告だろう。
すぐ様、アレク国王陛下に謁見し、報告する。
「亡命とは、やっかいな。コウジ宰相、いかがする。」
「亡命は、我が国の民となりたいとの希望です。それが真実で、害をもたらす恐れがない限り、受け入れてかまわないかと、思います。
また、ペルシナ王国に対しては、亡命を受け入れた旨を、事後、知らせる必要があります。」
「ペルシナ王国に敵対した者を、我が国が受け入れるのは、どうなのじゃ?」
「我が国は、ペルシナ王国に敵対していません。亡命した者は、我が国の者です。
ペルシナ王国にとっても、敵対した者が国内に居るより、外国でその管理下に居る方が良いでしょう。
国としては、恥ですね。民が逃げ出したのですから。」
「良かろう、その者達に問題がなければ、亡命を受け入れよう。
しかし、具体的には、どのように受け入れるのだ?」
「ハーベスト領に、未開の草原があります。彼らには、当面、今までの暮らしである、羊の牧畜を続けさせましょう。
ただし、移動する遊牧ではなく、定住する牧畜です。いずれ、彼らがどういう生活を選ぶかは、彼ら次第です。
子供達には、ハーベストの学校に通ってもらいます。子供達の方が我が国に馴染むのが早いと思いますので。」
「ふむ、ハーベスト領ならば、そなたの領地。他の貴族に預けるより、よほど安心じゃの。
しかし、あそこは、王国一の先進地域。大丈夫かの、あまりの文明の違いに、戸惑わぬかのぉ。」




