閑話11 怪傑〘みなしご探偵団〙
僕は、南方マーレ半島から帰ってから、ハーベスト伯爵邸に住んでいる。
コウジ兄上夫妻が王都に行ってしまい、僕まで居なくなると、サナとリミがさみしがるからだ。
サナとリミは、伯爵邸での生活にも慣れ、次第に周囲の人達にも、心を開いて来ているようだ。かと言って、まだ、自分達から話し掛けるまでには、至っていない。
最近では僕に付いて、午前中に孤児院へ出掛け、孤児院の年少組に混ざり、勉強をしている。
幼いリミが、孤児院に行くのを嫌がらなくなったのには訳がある。親友ができたのだ。
親友と言っても、子供達の誰かではない。それは、孤児院のアイドル、山猫の《ミク》なのである。
ミクが自分と同じに、親を亡くしたことを聞かされ、親近感を抱いたのか、リミは孤児院へ行く度、山猫のミクの傍らに、ちょこんと座り、ミクをじっと見つめている。
そんな何もせず、傍らにいるだけのリミを、ミクも不思議に思ったのか、一人と一匹は、次第に距離を詰め、いつの間にか寄り添う間柄になっていた。
一人と一匹は、抱き合ったまま、じっとしている。まるで絵のように、動かないその光景は、孤児院の片隅に、不思議な世界を創り出していた。
孤児院の子供達は、年少組と言えども賢い。自分達よりも、もっと酷い境遇にあったリミのことを、心配し気づかい、そして、静かに見守ってくれた。
帰る時間になると、じっと見つめ合うリミ達。それを見ていた年長組のミリヤが、ある計画を実行する。
孤児院の子供達は、自分の生まれた日を知らない。だけど、聖ナターシャ孤児院では、月ごとに、その月に誕生日を迎えた子供達の誕生会を開いて、お祝いする。
孤児院の子供達の誕生日とは、孤児となって、この孤児院へ来た日が誕生日なのだ。
サナとリミは、当初、孤児として、ここへやって来たのだが、馴染むことができず、コウジ達が引き取ったのだ。
それから、もうじき一年になる。
「サナとリミちゃんの誕生会をやりましょうよ。」
「賛成っ。」「いいと思う。」「異議なしっ。」
「誕生日のプレゼントは、なんにする?」
「私は決めてるの。ミクちゃんのぬいぐるみ。」
「わぁおー、喜ぶね。」
「でもそれって、リミちゃんだろ。サナちゃんは、どうすんだよ。」
「それは、皆に任せるわ。」
「ええっ、ずるいよミリヤっ。」
それから数日後、サナとリミ、孤児院のセーラとノア、ダックの誕生会が開かれた。
皆で、ショートケーキを食べ、誕生日を迎えた子供達に、皆からプレゼントを贈るというのが、聖ナターシャ孤児院の誕生会だ。
しかし、プレゼントは、手作りのもので、決して、お金で買ったものではいけない。それがプレゼントの不文律だ。
セーラには、手編みのマフラー。ノアには、手編みの帽子。ダックには、手作りの木刀が贈られた。
そして、サナには、手作りのエプロン。リミには、ミクを模したぬいぐるみだった。
ぬいぐるみは、ミリヤ渾身の力作だけあって、なかなかの出来栄だ。
リミは、それがミクのぬいぐるみとわかったのか、嬉しそうに抱きしめている。
事件が起きたのは、それから数日後のことだった。
その日、孤児院へやって来た、サナとリミがいつものとおり、勉強を終えて帰る時になったのだが、リミがあっちこっち、駆け回って、そして終いには、座り込んで泣き出したのだ。
いくらなだめても、泣き止まないリミに、サナがやっとの思いで、聞き出したところによると、勉強中、ミクの傍に置いた、ミクのぬいぐるみが、なくなっていたのだという。
皆で、大騒ぎで探したが見つからなかった。
仕方なく、泣き止まないリミを連れて帰った。
ロッドが、サナとリミを連れて帰った後、孤児院では、子供達が集まり、事件についての話し合いが行なわれていた。
年長組のジミーが、リーダーになって話し出す。
「これより、《ミクのぬいぐるみ》紛失事件の捜査会議を行ないます。
それでは、ラナから、事件の経過を話してください。」
「皆も知ってのとおり、リミちゃんの誕生日プレゼントの《ミクのぬいぐるみ》が紛失しました。
事件が起きたのは、午前の学習の時間です。その時間、リミちゃんは、いつもと同じに、ぬいぐるみを、1階リビングのミクのお家に置いて、2階の談話室で学習に参加していました。
昼食前に、リミちゃんがその場所に、取りに戻ると、なくなっていたのです。」
「その時間に、一階にいた人は、誰なの?」
「シスター·メリーサさんが、学習が始まってまもなく、一度一階に資料を取りに来たのですが、その時はぬいぐるみがあったと言っています。
そのあと、家政婦のミタおばあちゃんが、リビングの掃除をしていますが、この時もぬいぐるみを除けて、掃除をしたと言っているから、間違いなくあったはずです。
おばあちゃんは、リビングのあと、一階の他の部屋を掃除していたけど、特別、物音を聞いたりしていないそうです。
この時間、一階にいたのは、この二人だけです。」
「う〜ん。もう一度、《ミクのぬいぐるみ》があった場所と、出入口に向かうリビングを調べよう。さっきは、ぬいぐるみばかり探していたから、犯人の手掛りを、見落としているかも知れない。」
「よし、皆で並んで、足あとや泥、そのほか落ちているものがないか、探そう。」
リビングでは、皆、四つん這いになって一列に並び、捜査を開始した。
「ねぇ、この毛、ミクの毛じゃないみたい。」
「うん、色は白で同じだけど、少し汚れてるし、ミクの毛より長いみたいだ。」
「なんの毛だろう? 考えられるのは、犬か猫だね。」
「おいっ、裏口のドアにも、毛があったぞ。あおまけに、うっすらだけど、泥のついた足あともあった。」
「俺、ミタばあちゃんに聞いてくるっ。」
「ばあちゃんに、聞いてきたぜっ。今まで、孤児院に入って来たことのある動物がいないか。そしたら、いたよ。小型の野良犬が餌を狙って入って来たことがあるってさ。しかも白い毛だって。」
「決まりだな。よし、皆で手分けして、街の人に聞き込みだ。どこで見かけたか聞いて、その野良犬のねぐらを見つけるんだ。」
それから一週間後、聞き込みから、その野良犬は孤児院の北東にある材木置場の辺りに、ねぐらがあるらしいことがわかった。
夕方、その材木置場を大きく取り囲むように、子供達が配置についた。
夕暮れ時、現れたその野良犬の後をつけ、ねぐらを発見! 付近を捜索の結果、真新しい埋めた場所見つけ、掘り起こしたところ、ついに、ミクのぬいぐるみを発見した。
《みなしご探偵団》の勝利である。
ちなみに、その名称は、聞き込みに回っていることが、街の人達に広まり、探偵ごっこかと評判になっていたらしいのだが、見事盗まれたものを、捜査と推理で発見したことで、探偵ごっこじゃなく、本物の探偵だと皆が讃え、パン工房をもじって付けられたようだ。
発見されたぬいぐるみは、ところどころ、破れていたが、ミリヤが修繕しきれいになって、無事、リミの元に戻った。
それからのリミは、片時も《ミクのぬいぐるみ》を離すことがなかったのは、言う間でもない。




