第十話 王子と王女の北方視察 その4
翌日、北方スカンジナ三領の最終日。今日の夜には夜行列車で、この地を去る。
朝食後は、この地域の孤児院の視察をして、
昼食は三領の領主との会食がある。
オスロ村にある孤児院にやって来た。ウルトから聞いた話では、三領内では、孤児よりも、先の戦争で父親を亡くした母子家庭の方が多いが、そういった母親は優先的に、温室栽培やキノコ栽培、酪農牧場で雇用しているので、子育てができているのだとか。それらの職場には、幼児のための保育園も併設しているそうだ。
そして最も感心することは、それらの知識を国中の領主の子弟である者が、ハーベスト農業学校で学んでいて、知っているということだ。
学校や教育というものの重要性を、否応なしに教えられる。
孤児院は、真新しい三階建の建物で、木造だが一階の床がコンクリートで、地面より俺達の背丈よりも高くなっている。
冬の積雪を考えて、高くしているのだ。
「殿下、姫様、ようこそ、スカンジナ孤児院へのシスターソフィアと申します。
この孤児院は、年長組が24名、年少組が35名で、総勢59名の孤児がいます。
シスターは私のほかに4人、下働きの年寄りが12名で、交代で働いています。
スカンジナ地方に、元々あった5ヶ所の孤児院を、去年、統合して一つにしたものです。」
「この孤児院では、他の孤児院と違うところは、あるのですか?」
王都の孤児院を見ている、ルビーが問いかける。
「そうですね、統合されてから始めたことは、孤児院の自立のために、年長組の皆で《ピザ》と《ナン》を焼く、工房を始めたことでしょうか。
ご覧になりますか、工房は地下にあります。
ここの工房では、ライ麦のパン生地に、ルイーズ様からモッツァレラチーズを供給していただき、トマトなどの野菜や燻製肉を、いろいろ組み合せて、5種類の《ピザ》と、チーズやミルク、トマト、ハチミツなどを練り込んだ、5種類の《ナン》というパンを作っています。
おかげ様で、人気商品となって、孤児院の経営に寄与してくれています。」
いつの間にか、ルイーズとルビーが、幼い子供達に囲まれ、なにやら話している。
「ルイーズお姉ちゃん、お土産はあるの?」「あるわよ、お待ちかねのシュークリーム。」
「「「わぁーい。」」」
「ねぇねぇ、カスタードのシュークリームはあるの? 私、カスタードの方が好きっ。」
「あるわよ、皆に2種類のシュークリームを一個ずつ。カスタードだけをほしいなら、生クリームが好きな子とカスタードを交換してもらえばいいわ。」
「お姉ちゃん、抱っこ。」
「いいわよ、よいしょっ。」
「あ〜ん、ずるいよ。あたしも。」
「ボクも。」
さすが、ルビーは王都の孤児院へ、行ってただけあって、幼い子供達に慣れているな。
まだ、よちよちの子供ばかり抱いて、服がよだれだらけになっているぞ。俺は、僻んでる訳じゃないが、人気がなくて、一安心だ。
そろそろ昼食の時間なので、領主達との会食に向かう。場所は、俺達の宿だ。
宿に戻ると、皆、来て待ってくれていたようだ。三人仲良く談笑している。
さっそく、昼食会の席に着くと、ヒーロー男爵から、順に挨拶を受ける。
「殿下、姫様、視察はいかがでしたか。我々がこの領地を拝領した当時は、北国の僻地で領民共々、貧しい暮らしでしたが、2年前に、コウジ宰相に来ていただき、開拓の指針を示されたことで、考えられないほど、順調に発展を続けております。」
「我がノルエー男爵領も、ご覧になったように、石炭と鉄鉱の鉱山開発、キノコなどの特産品を得て、今後は、山林資源を使った製材や木工家具の開発に取り組むこととしております。」
「我が領地も、ご覧のとおり、畜産業で活路を見出し、躍進を続けております。これも娘達がハーベストに留学した成果ですな。これは、私個人の悩みですが、娘が嫁にも行かず、仕事にのめり込んでしまって。いやはや、愚痴ですなあ。はははっ。」
「ルイーズさんは、素敵な女性ですわ。そのうち、きっと良いお相手が現れると思います。
だって、あんなに料理が上手なんですもの、お兄様のお嫁さんに、ほしいくらいですわ。」
「ルビー、勝手に俺の嫁さんを、決めないでくれっ。ルイーズが困っているではないか。」
「「「あはははっ。」」」
「俺は、皆さんに、心から礼を言いたい。見知らぬ外国の者に、親切丁寧に、この地を案内してくれたこと。
俺ばかりではなく、一緒に来た者達も、得難い知識と、努力する人々の姿を見させてもらった。
ここでの経験は、生涯忘れないものであると思っている。本当にありがとう。」
「もったいないお言葉、こちらこそ、ありがたく存じます。聞けば、殿下のお国も家畜と深い繋がりのある国とか。我らとは似た環境にあるかと。されば、これを機会に末永く交流ができれば、幸いでございます。」
その日の夜、俺達はスカンジナの地に、別れを告げた。オスロの駅には、この地に来て出逢った人々が多勢、見送りに来てくれた。
わずかな期間の出逢いであったが、なぜか胸にくる別れであった。
寒い北国に住む、温かい心の人々。この人達のことを、俺は生涯忘れないだろう。




