第三話 シャルダン王子の決断 その一
区切りが長くなり、遡って、章を区切りました。
それから、誤字脱字のご指摘をいただきました。ありがとうございます。
その日、ペルシナ王国に激震が走った。ウインランド王国から手紙が届き、モルゴン族が亡命を希望してきたこと。それを受け入れることしたとの内容が知らされたからだ。
へラーク王のゲルには、多勢の部族長達が集まっていた。
「陛下。反逆した部族を亡命で受け入れるなど、ウインランド王国は、我がペルシナ王国に敵対する気ですぞ。」
「即刻、シャルダン王子殿下と、ルビー王女殿下を帰国させ、砂漠を封鎖して、ウインランド王国の侵攻に備えるべきです。」
部族長達の言葉に、宰相のライオネルが反論する。
「なにを馬鹿なことを言っているのだ。もし、ウインランド王国が我が国を攻める気なら、王子殿下とルビー殿下を帰す訳がないではないか。
しかも、わざわざモルゴン族の亡命を知らせて来たのだぞ。黙っていればわからぬことをな。
手紙には、殿下方は、早急に帰国されるとある。
殿下の帰国を待って、ウインランド王国の真意を聞くべきだ。」
「お前達に問う。なぜ、モルゴン族は、亡命したのだ? その理由によっては、他の部族も亡命するやも知れぬ。」
「陛下、戦いに負け、我らに復讐を企んだに違いありません。ウインランド王国の庇護を受け、我が国に攻め入る時には、案内役となるつもりです。」
「なぜ、我らに復讐するのだ? モヒナを討ち、戦いを勝利にさせたは、ウインランド王国の兵士ぞ。その国に復讐せぬのか?
全く、理由になっておらんな。すぐに亡命の理由を調べよ。」
その頃、ウインランド王国の王城では、アレク国王、コウジ宰相、シャルダン王子、ルビー王女がモルゴン族の亡命について、話していた。
「シャルダン王子。モルゴン族の話では、所有する羊の半数を、敗戦の賠償として召し上げられたとのことですが、これはへラーク国王が、命じられたことですか?」
「コウジ宰相。詳しくはわかりませんが、所有する羊の半数を奪うなどすれば、部族の生活が立ち行かなくなります。父上が命じるはずがありません。」
「では、誰がそのようなことをしたのでしょう。」
「おそらく、直接にモルゴン族に賠償をさせた部族長が、父上に秘密裏に行なったのだと思います。」
「もしそうなら、どうされますか? 羊を返しても、モルゴン族は、ペルシナ国に戻ることはないでしょう。」
「モルゴン族の亡命は、承認します。そして、モルゴン族に、そのような賠償を命じた部族に、モルゴン族と同じく、羊の半数を召し上げます。我が国には、『目には目を、歯には歯を』という不文律がありますので。」
「· · · · 、悪しき不文律ですね。すぐに廃止してください。でなければ、貴国との国交は、取り止めます。」
「何故ですか、我が国の昔からの不文律ですわ。それを他国に言われても。」
「ルビー王女殿下。貴国では部族同しの争いが絶えませんね。
父親を殺された子が、相手を殺す。殺された相手の子が殺した者を殺そうとする。それを繰り返すことが正しいとする不文律ですね。
たとえ殺しでなくとも、盗みでも、意地悪でも同じことです。
いつまでも、復讐の続く人達の国とは、恐ろしくて、付き合えないと言っているのですよ。」
「「 · · · · · 。」」
「シャルダン王子。モルゴン族から、半数の羊を召し上げた部族から、同じように半数の羊を召し上げたら、その部族の生活は立ち行かなくなるのでしょう。
その部族は、どうするのでしょうね。また、亡命ですか? 我が国に亡命を求めても、今度は受け入れませんよ。
なぜなら、その部族を恨む、モルゴン族がいるからです。我が国の中で争いが起きてはたまりませんから。
亡命がだめなら、甘んじて死に絶えるか、反乱するかしかありませんね。」
アレク国王が怒りの言葉を吐いた。
「シャルダン、ルビー、お前達は我が国で、いったい、なにを見てきたのだ。
ただ、美味いものと便利なものを見てきただけか?
我が国の人々の、心は見えなかったのか?
誰もが、笑顔で優しくなかったか?
我が民は、恨みを重ねることなく流し、相手に優しさを伝えるのだ。
そんな民が、恨みを繰り返す民と交流すれば、我が国の民は、皆、殺されたり、酷い目に合わされるばかりではないか。
そんなことも、わからぬなら、とっとと国へ帰れ。そして、国の中だけで争え。
宰相が言ったとおり、悪しき不文律を廃止せぬ限り、ペルシナ国とは国交をせぬ。帰って、へラーク国王にそう伝えよ。」
それから、宿舎である宰相邸に帰り、荷物をまとめ、護衛の者達と駅に向かい、列車に乗せられた。
その間、誰も必要最低限のことしか話さず、レイネ奥様も、一言『お元気で』と言ってくれただけだ。
こんなにも、態度の変わったウインランド王国の人達に失望しながら、俺達は、帰国の途についた。
ペルシナ王国に帰国した翌日、王のゲルには、再び部族長が集められた。
「皆の者。シャルダンとルビーがウインランド王国から帰った。
この度のモルゴン族の亡命の理由は、敗戦の賠償に、所有する羊の半数を召し上げられ、部族の生活が立ち行かなくなったからだと、判明した。
タイナ族の族長ナンク、相違ないな。」
「陛下。半数とは承知しておりません。単に500頭を召し上げただけです。」
「儂は、所有する羊の2割を召し上げろと命じたはずだ。2割とは500頭のことか?」
「モルゴン族は、私の弟の命を奪いました。それ故に、滅ぼすつもりで、召し上げました。
立ち行かなくなれば、反乱を起こします。それを討つのです。目には目を、歯には歯をです。」
「王の命に叛き、私怨を晴らすことが正しいと申すか。そちには、モルゴン族にしたことをそのまま申しつける。半数の羊の召し上げじゃ。
他の部族に言うが、敗戦の賠償をした部族に召し上げた羊の数と残りの数を報告させておる。
王命に叛いた部族は、行なったものと同じ処罰とする。」
「お待ちください。確かに王命に叛き、多くの羊を召し上げましたが、我らは王に味方し、勝利を上げたのです。敗者と同じ処罰は酷過ぎるのではないかと。」
「父上。皆様にも伝えなければならないことがあります。
今回、ウインランド王国から、国交は結ばないと言われました。
それは、今言われた我が国の不文律のせいです。
この不文律がある限り、この国から争いや戦いは無くならないと。
今回タイナ族がモルゴン族にしたことも、父上が罰として、しようとしていることも、この不文律が正しいとしているからです。
しかし、皆わかっているとおり、それじゃ解決しないのです。
仕返しに、仕返し。我が国の不文律は、永遠の争いを許容しているのです。
国の民の平穏無事を望むなら、国の中での争いを無くさなければなりません。
ならば、この不文律を廃止することが、絶対に必要なのです。
また、自分の部族だけの、幸福を求める、部族長達の考えを、改めさせなければなりません。」
「シャルダン。儂らは、この不文律のもとで、暮らして来たのじゃ。今さら、変えることなどできぬ。」
「お父様。ならば、私も亡命させて、いただきますわっ。」
「なんと、ルビー、正気か?」
「ウインランド王国に行って、気がつきましたわ。この国は最低です。奪い合い、憎しみ、殺し合い、それしかない国。
お父様も、殺されて死ぬでしょう。
決して、天寿を全うできない。
こんな国、滅んだほうが民にとって、幸せです。」
「父上、俺も亡命します。父上は勝手に争いを続けてください。
部族長ども、聞け。ウインランド王国の民に聞いた言葉だ。
『天に唾する。』
わかるか? 空に向け、唾を吐けば、その唾は自分に掛かるのだ。」
そう言って、シャルダンとルビーは、立ち去ろとする。
「待て、シャルダン。お前は、この国を継ぐ者ではないか。」
「要りません、父上。滅びるしかない国など、継ぐ者など不要でしょう。
さらばです、父上。」




