第六話 ペルシナ王国、王女ルビー
ウインランド王国は、兄シャルダンにとっても、私にとっても、初めての外国です。
この国に入ってからというもの、見るもの聞くもの、すべてが驚きであり新鮮です。
滞在中は、宰相のお屋敷にお世話になることになりました。奥様のレイネさんは、親身に私の世話をしてくれます。
姉妹のいない私にとって、姉のように感じられる方です。
私は、兄とは別行動で、レイネさんと視察をすることになりました。
「レイネさん、私のことは、ルビーとお呼びくださいね。私も敬語は使いませんから。」
「ふふっ、わかりましたわ。それでは、ルビーちゃんと呼ばせてもらうわね。」
「ルビーちゃん、これから案内するところは、孤児院といって、親のない子供達を育てているところなの。
シスターという、神様に仕える女性が面倒をみてるの。」
孤児院へ案内されて、シスターはすぐにわかりました。黒い地味な洋服に、頭にも黒い被り物をしているんですもの。
多勢の子供達が、レイネさんが来たと、歓声を上げながら寄って来ます。
レイネさんは、王都にある3つの孤児院へ順に回っているそうで、子供達とは顔馴染みなんです。
それにいつも、お土産に手作りのクッキーを持ってくるので、子供達は大喜びなんです。
『『このお姉ちゃん、誰?』』
「外国のお姫様、ルビー様よ。」
「「えっ、外国? どこ? 遠い国? どんな国?」」
「皆さん、こんにちは。私の国は、西の砂漠を越えたところにあります。草原の中で羊を飼いながら、暮らしている国なんですよ。」
「「砂漠の向こう? 羊を飼ってるの?」」
子供達は天真爛漫、皆、のびのびと育っているようです。
「ルビーちゃんの国では、親のない子供はどうしてるの?」
「私の国では、親のない子供は、部族全体で育てます。子供は、部族の宝だからです。
この国には、そういう習慣がないのですか?」
「ええ、この国では、親子の家族がそれぞれ、仕事をして暮らしているの。だから、親のいない子供は、誰かが保護しないといけないのよ。」
「そんな。豊かに見えても、幼い弱い者達が生きてゆくのに、悲惨な国ではないですか。」
「そうね。冨が家族や個人によって、格差の生まれる国ではあるの。
だけど、夫はそんな国の歪みを無くそうと努力しているわ。」
「私の国では、部族単位で皆を守るという、良い利点がありますが、その部族という単位同士では、干ばつの時など、羊の餌となる水や草地を争い、部族間の戦いが絶えません。」
「そうね。結局は国全体が豊かになり、その豊かさが人々に行き渡らなければ、皆が幸せに暮らせないのよね。」
私は、一見、我が国よりも豊かに見えるこの国が、人によって格差があるということに、考え込んでしまう。
国のあり方というものが、どうあるべきなのか、答えはなかなか見つからない。
孤児院を出て、街を見て歩いた。食べ物の屋台がたくさん並ぶ広場で、美味しいものをたくさんいただいた。
楽しそうな親子連れが多く見かけられる。その中の一人の子供に声を掛けられた。
「お姉さん、とても変わったお洋服を着ているね。どこか遠くから来たの?」
「そうよ。ずっと西の遠い国から来たのよ。
あなたが食べている果物、美味しそうね。」
「うん、バナナなの。とっても甘くて美味しい。お父さんが遠くのダムの工事に働きに行って、お休みで帰って来て、お金をいっぱいもらってきたから、普段は高くて買えないバナナを買ってもらったの。このお洋服も。」
見れば、真新しい可愛いい洋服を着ている。屈託のない笑顔で、洋服を自慢げに見せるその子供は、今、とっても幸せを感じているのだろう。
普段は買えないというところを見ると、そんなに裕福な暮らしではないのだろうが、これも宰相がされた公共事業のおかげなのだと、わかりました。
宰相のお屋敷では、もう一つの出会いがありました。週末にレイネさんのお母さんと幼い姉妹がやって来たのです。
聞けば、穢れと呼ばれ、忌み嫌われていた、犯罪を犯した人の子供だそうで、宰相夫婦の姉妹として、引き取ったそうです。
物心ついた頃から、人々に迫害されてきたせいで、対人恐怖症になった子供だそうです。
この姉妹も、この国の歪みから生まれた被害者で、宰相夫婦はそんな姉妹に、お二人の愛情を注いでいます。
私も姉妹がほしいと思っていましたから、上の娘のサナちゃんが可愛くて、そっと抱き寄せると、私の国の話をして聞かせました。
「お姉ちゃんの国はね、果てしない草原が続くところで、羊さんをたくさん飼っているの。
お母さん羊のお乳からチーズやお酒を作るの。春と秋に毛が生え替わるの、抜ける前に毛を刈り取って、糸を紡いで布を織るの。
お姉ちゃんの着ている服、綺麗でしょう。こんなふうにカラフルな服をいっぱい作るのよ。」
「お姉ちゃんの匂い、いい匂い。羊さんのお乳を飲んでいるからなの? だったら、サナも羊さんのお乳を飲みたい。」
えっ、私、匂うのかしら。昨日もお風呂できれいに洗ったはずよ。でもまあ、いい匂いならいいかな。
「サナちゃん、大きくなったら、お姉ちゃんの国へ遊びに来てね。羊さんといっぱい遊べるわよ。」
「うん、行く。レナも連れて行く。」
「あらあら、サナをルビーちゃんに取られちゃったわね。だけど、レナは私のものよ。ねえレナ。」
「うん。レイネちゃんが好き。」
「まあ、レナはいい子ねえ。うふふ。」
この国に来て、改めて思った。優しい人がたくさんいるのだと。
人は、たくさんの人と出会い、生きていく。
けれど、優しい人達と出会えることが、どんなに幸運なことだろうか。
たくさんの優しい人達と出会い、私も優しい人になろうと思うから。




