第七話 王子と王女の北方視察 その一
王都に来て三週間、病院や孤児院、育児院などの公共施設、商店や飲食店、各種工房などの民間施設、王城や街の施政を行う公民館など、王都をくまなく視察して歩いた。
全部を一人で見て歩いた訳ではなく、ルビーと手分けして視察したのだが、毎晩二人でお互いの視察を報告しあい、思ったことを伝えあったのだ。
コウジ宰相夫婦も、時々話に加わってくれて、詳しいことを補足してくれたりした。
そして、そろそろ王都の外も見られてはどうかと勧められたのだ。
もちろん、喜んでお受けすると、すぐに準備が手配された。
案内役は、カルロ殿の息子のシルク殿。警護は我が国の者のほか、マーカス隊長ほか来国時に同行した者達。
皆、気心が知れていて、良いだろうという配慮だ。
その日の夜、王都の駅を我々だけの臨時専用列車が出発した。専用と言っても客車の2両だけで、貨車が4両、物資を運んでいる。
目的地は、北方スカンジナ三領。王都から、鉄道で11時間の旅だ。
ルビーと護衛達は、再びの駅弁に興奮して騒々しい。それではまるで、我が国の者が皆、食いしん坊に見えるではないか。俺のように、落ち着いて食べたらどうだ。
俺達は、シルク殿を初め、マーカス隊長やウインランド王国の護衛達と、すっかり仲良くなって、和気あいあいと話しながら、旅をしている。
「シルク。スカンジナ地方とは、どのようなところなのだ?」
「王子。僕も行くのは今回が初めてですが、旧帝国領で王国の一番北にあり、冬には屋根まで雪の積もる、厳しい寒さの土地と聞いています。」
「そのような土地では、いったいどのようにして、暮らしているのだ?」
「話しに聞いたところでは、冬は雪に閉ざされ、家の中に閉じこもる生活だとか。
冬の間、人々が何をしているのかは、わかりません。
でも、夏はライ麦や寒さに強い野菜を育てているそうですし、近年、酪農が盛んと聞いています。
冬の暖炉の燃料となる石炭の炭鉱があり、燃料として、各地へ運ばれてもいます。
この地は、かつて、コウジ宰相が開拓を指導して、帝国時代の困窮から抜け出したそうで、かの地では、コウジ宰相とレイネ奥様、それに弟のロッド様への、人々の崇拝が凄いそうですよ。」
夜行列車なので、寝ていた夜のことはわからないが、朝、目覚めたら、幾つもの山間を走っていて、朝食の駅弁を食べ終わる頃、列車はヒーロー男爵領のオスロ村駅に着いた。
王都を夜の9時に出たから、着いたのは、朝の8時だ。
ちなみに、朝食の駅弁は、トマトと葉野菜にチーズの入った野菜サンドと、果物とクリームのフルーツサンドだった。
甘いデザートのようなフルーツサンドに、ルビーが騒いでいたが、俺は関知しないことにした。
ヒーロー男爵の息子ウルト、ノルエー男爵の息子ボルグ、フィンレー男爵の娘ルイーズが出迎えてくれた。
「シャルダン殿下、ルビー姫様、ようこそお出でくださいました。僕はヒーロー男爵の息子ウルトといいます。」
「ノルエー男爵領のボルグです。ようこそ殿下、姫様。」
「フィンレー男爵領のルイーズです。皆、コウジ宰相にハーベスト農業学校で教えていただいた生徒なんです。」
「ペルシナ王国のシャルダンです。皆さんのことは宰相から聞いています。よろしく。」
「ルビーです。私の国では羊を飼って、チーズやバターを作っています。
こちらでは、牛の乳から作られているとか、とても楽しみにして来ましたわ。」
「姫様。チーズは種類がいっぱいありますよ。私が新しいチーズをどんどん開発していますから。」
「まあ、ルイーズさん。楽しみだわ。」
駅からすぐの宿に荷物を置き、お茶をして休みます。
「このお茶は、初めてですね。何というお茶ですか?」
「姫様。寒いこの地では、本来の茶葉は生育できません。それで、野菜や穀物からお茶を作りました。
このお茶は、蕎麦という穀物から作った、蕎茶です。苦味なくて甘いでしょう。
ほかにも、ゴボウ茶やラベンダーという花のお茶が、ここの作物から作れるお茶ですね。
こういうお茶は、健康茶やハーブティーと言って、味だけでなく香りを楽しむお茶なんです。
農業学校で、それぞれの領地に帰ったら、試してみろと言われていたので、作ってみたまでですけどね。
きっと、他の領地でも、いろいろなお茶が作られていると思いますよ。」
「まあ、ウルトさん。ゴボウ茶もラベンダーの花のお茶も、是非、味わってみたいですわ。」
「姫様。休憩の度に、いろいろお出ししますから、楽しみにしていてくださいね。
あっ、菓子も当地の特産品ですから。」
「あら、でも、このクッキーは、宰相のところでレイネ奥様が手作りで作ってくれたのと、同じ味だわ。」
「はははっ。それは実は、レイネ奥様が当地に来られた時に、作り方を教えていただいたもので、形と大きさは違いますが、言わば、レイネ奥様直伝のクッキーなんですよ。味が同じでなくては、困りますっ。」
「まあ、そうなの。お花の形をしているから、違うクッキーかと思ったけど、レイネ奥様が作ってくださったのは、シンプルな形のままなのね。」
やわらかな味の蕎麦茶と、甘いクッキーは、長旅の疲れをとってくれるようだ。
では、そろそろ、北国の生活と知恵を、見せてもらいに行こうか。
ここは、王都とはまるで違う環境にあるが、王都の人々とはまた違う、笑顔が人々のあるようだ。




