閑話10 コウジとレイネとサナとリミ
俺の公共事業政策は、聖ナターシャダム建設、マーレ半島の河川改修工事、それに鉄道の複線化など、大規模なものを次々と行う中、孤児院や育児院、病院や学校といった個々の施設建設も、そして、幹線道路の整備事業も着々と進んでいる。
俺が宰相として、王都へ行くにあたり、懸案となったのは、サナとリミのことだった。
二人は、対人恐怖症から、まだ立ち直れておらず、苦い思い出の残る王都に、連れて行くことには、抵抗を感じていた。
だからと言って、俺達と離れて暮らすのは、もっと心配しかない。
悩んでいると、サナとリミが俺達の次に懐いている義母のシモーネが、助け舟を出してくれた。
毎週末に、二人を王都に連れて来てくれると。2泊くらいして帰れば、王都暮らしではないし、嫌な思いも少なくて済むだろうし、俺達と、そんなに離れている気もしないだろう、ということだ。
サナとリミに聞いてみると、義母と一緒にいるという希望だったので、そのようになった。
レイネがハーベストに毎週帰るという選択肢もあったが、それだと俺に会えなくなるから、嫌だそうだ。
そのうち、王都での嫌な思いが払拭されたら、王都に住むことも可能になるだろう。
今日も夕刻に、シモーネに連れられ、二人が王都の駅に着いた。俺はまだ執務が終らず、レイネだけが迎えに行っている。
まだ3才のリミは、レイネにおぼつかない足取りで駆け寄ると抱きつく。レイネは、リミを抱き上げ、片手でサナを抱き寄せる。
「二人とも、元気だったかしら。食事はちゃんと食べてる?」
「会いたかったの。」
「お姉ちゃんがいないと、やっぱり寂しい。」
「まあ、相変わらず、二人とも甘えん坊さんね。」
俺が帰宅すると、二人が駆け寄って来る。
二人を両脇に抱えながら、コアラみたいだなと、ほくそ笑みながら、リビングに入る。
メイド達は、挨拶を控え目にしている。ほんのちょこんと頭を下げる程度だ。
それは、俺が命じた。多勢が声を出したり、大袈裟な態度をとると、サナとリミが恐がるからだ。ついでに、俺も仰々しいのは嫌なので、普段からなしにしている。
メイド達も、微笑ましく二人を見つめ、小さなしぐさでのコミュニケーションを楽しんでいるようだ。
王都へ来て、3ヶ月経ち、小さな来客にも慣れたのだろう。二人も優しいメイド達の視線に安心感を抱いてきている。
お菓子や飲み物を出してもらうと、小さな声で『あ·り·が·と。』って言ってるし、すれ違う時に微笑みの視線を受けると、笑顔で応えている。
さて、夕食の時間だ。リミの大好物は、俺の作る半熟玉子とろとろのオムライスだ。ケチャップの掛かったオムライスに、満面の笑みで、口の周りにケチャップのヒゲを生やしながら、食べてる。
サナの好物は、茶碗蒸し。レイネが作るその味は、甘い栗と甘納豆が入っていて、デザートみたいな茶碗蒸しだが、とても気に入ってる。
これが二人を迎える定番メニューだ。
二人がやって来た翌日も、俺は執務で王城へ行く。ただ、夕方は陛下との報告会見が終わり次第帰宅する。
サナとリミは、俺の帰りを待ちきれないかのように、門のところまで迎えに来ている。
ちなみに、玄関から、門まで2キロもあるのだ。レイネが一緒だが、護衛も遠巻きについて来ている。まあ、夕方の散歩みたいなものか。
ここでまた、恒例の抱きつきに会うわけだが、さすがに2キロは、コアラ抱っこはできないので、サナをおんぶし、リミを抱っこして、門から帰宅する。
ついでに言うと、その横には、リミを抱く俺の腕に、腕を組んで歩くレイネがいるんだが、その光景は、護衛達にいったいどう言うふうに、思われているだろうか。
この3ヶ月で、サナとリミに変化が訪れていると、義母のシモーネから聞いた。
時々、孤児院へ連れて行っているのだそうだ。孤児院で年少組に混ざり、菓子パン作りに参加し、自分の作ったパンを食べたり、お土産に持ち帰ったり、しているそうだ。
そのお土産にありつく幸運を享受しているのは、主に義父ハーベスト伯爵であるが、最近はメイド達がその幸運を得ることもあるようになったそうだ。
メイド達に抱きついたり、甘える様子はないが、優しい人達と理解し始めているのだろう。
周りに何人もいても、気にならないようになったという話だ。
そんな中、義父が二人に、2匹の仔犬をプレゼントしたそうだ。
雄の方は、サナが《クロ》と名付け、雌はリミが《シロ》と名付けて、朝夕に散歩をさせているんだとか。
二人にとって、愛情を注ぐもの達ができたことは、対人恐怖症から立ち直るのに、きっと役立つことだろう。




