第三話 砂漠を越えて、特命大使カルロ その三
戦いが終わって、私達は固まって、事態が終息するのを待っていた。
王のゲルの付近では、慌ただしく、多勢の人の出入りが続いている。
そんな様子をぼんやり眺めていると、ゲルから数人の男がこちらに向かって、歩いて来る。
先頭を歩いて来る男には、見覚えがある。宰相のライオネルだ。私は、立ち上がって、彼らを迎える。
「カルロ殿。へラーク王が、皆さんにお越し願いたいと言っております。」
「わかりました、伺います。」
ライオネル宰相の後に続き、王のゲルに入ると、周囲には、多勢の部族長らしき人達がいた。
「おお、カルロ殿。待たせてしまってすまない。
皆と今後のことについて、話していたのでな。
まず、この度の助成、忝ない。
貴殿の献策と、そこにおられるマーカス殿ほか騎士の皆様のおかげで、勝利することができた。
この恩は、儂が生涯忘れ得ぬものじゃ。」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。
私達にとりましても、この度のことは、ウインランド王からの使命を成すために、避けて通れない戦でした。
へラーク王陛下が勝利を収められて、安堵しております。」
「儂にできることであれば、どのような恩賞でも取らす。望みを言うてみよ。」
「私達の使命は、この国と国交を結び、通商を安心して行うことでございます。
どうか、ご裁可をお願い致します。」
「うむ、異存はない。裁可しよう。ライオネル、何かあるか。」
「陛下。この度のカルロ殿達の働き、何もお礼をせずには置かれません。
カルロ殿には、我がペルシナ王国の族長の身分を。マーカス殿と騎士の皆様には、へラーク陛下の勲章を送ることを進言致します。」
「うむ、それでも十分とは言えぬが、今できることは、そんなところじゃろう。
ライオネル、進言を認める。手配せよ。」
「父上、お願いがあります。」
「なんじゃ、シャルダン言うてみよ。」
「ウインランド王国との国交、誠にめでたいことと思います。国交を始めるには、相手国のことを知ることからと思います。
ついては、このシャルダンに、ウインランド王国への視察をお命じください。」
「父上様、私も外の国を見たいのです。兄様と一緒に行かせてください。」
「むむ、シャルダン。見聞を広めるのに良い機会じゃ。行って来るがよい。
ルビー。シャルダンが一緒ならば、安心じゃろう。一緒に行って来るがよい。
カルロ殿、という訳じゃ。二人を頼めるかの?」
「はい、喜んでお引き受け致します。また、お二人のことは、全力でお守り致します。」
「頼む。国交のことは、あとでライオネルと詰めてくれ。今夜は、勝利の祝宴じゃ。後ほど案内させるから、参加してくれ。」
戦いの勝利を祝う宴は、大きなゲルを5つ繋いだ巨大な広間で行なわれた。
俺達の席は、王族の隣りに設けられ、多くのペルシナ王国の人達の目を引いている。
「初めてお目にかかる。俺は、西端のヤマニ族の族長、マハメドと申す。
カルロ殿の知略と武勇を聞き、是非、カルロ殿のお国の話しを聞きたくて、声を掛けさせてもらいました。」
「儂は、ムジーナ族の族長、メッシだ。儂もそなたの国の話しが聞きたい。」
「俺も。」「儂も。」「私も。」「「俺達も。」」
俺達の周りには、話しを聞きたいと、皆が集まって来る。よし、ここは、息子を売り込むか。
その前に、ここは、商売をするぞ。
「その前に、、皆様に、飲んでいただきたいものがあります。
我がウインランド王国の自慢の酒、ビールと焼酎でございます。
味を見てやってください。」
『『『おおおっ。』』』
使用人達が、ペルシナの人達に、コップに酒をついで、渡してゆく。どの顔も笑顔だ。
一口、口にしたあとは、皆、驚愕の表情を浮かべている。ビールの苦味と、焼酎のアルコールの強さに、驚いているのだろう。
ペルシナの酒は、羊の乳を発酵させて造るから、酸味のある酒だ。普段から飲んでいる酒の味との違いに、戸惑いもあると思う。
「カルロ殿。この酒は、これから我が国に売ってもらえるのか?」
「もちろんでございます。そのために、持ってきました。」
皆、皆、わあわあ、大騒ぎである。少し、落ち着いたところで、シルクに声を掛ける。
「シルク。皆さんに、我が国について、概要を話してあげなさい。」
「えっ、はい。僕達の国は、ウインランド王国という名前で、54の貴族の領地に別れています。南北は馬で5ヶ月、東西は馬で4ヶ月程の広さがあります。
ウインランド王国の主たる穀物は、ライ麦の粉を焼いて作るパンです。ライ麦は王国全土で広く栽培されています。
北方では、冬は雪が降り積もり、近年では、酪農やキノコの栽培、石炭と鉄鉱石の鉱山が行なわれています。
南方は、一年中温かな気候で、近年、南国の果実やサトウキビの栽培が始められています。
東部は、最も栄えている地域で、小麦を中心とした農業、酒から洋服までの商業、鉄器や陶器などの工業も進んでいます。
王都のある中西部は、ライ麦が中心ですが、近年、小麦の栽培も増えています。
王国は、ここ数年の発展が目覚しく、鉄道という乗り物が国中を繋いだおかげで、国中のどこへも、1〜2日で行けるようになりました。
おおよその話しは、こんなところです。」
「ウインランド王国の北にも、国があるのではなかったかな。」
「ええ。二年前まで、ドロシア帝国という国がありました。二年前、干ばつで食糧難に陥り、我が国へ攻め入って来たのですが、逆に我が国が帝国を滅ぼし、現在は王国の一部となっています。」
「おお、なんと。帝国を滅ぼしたとは。」
「ここからは、私が話そう。
我が国は、他国を攻めようとは、考えていません。攻められたので、防衛したまでです。
帝国は、宣戦布告もなしに、攻め入ってきました。そんな国の統治者は、放置すれば何度でも戦争を仕掛けて来るから、攻め滅ぼす。
そして、帝国の民も飢えることのないようにする。
今回、私がペルシナ王国に遣わされたのも、隣国と交流があれば、互いの国の事情も理解でき、飢饉や災害時に助け合うこともできる。
そのような考え方からで、ございます。
そして、これが国王陛下が全幅の信頼を置き、民達からこの上なく敬愛されている、我らがコウジ宰相のお考えです。」




