第ニ話 砂漠を越えて、特命大使カルロ そのニ
ペルシナ王国の第二王子シャルダンに案内されて、王のいる野営地にやって来た。
そこは、葦の生い茂る湿地帯の側で、およそ1,500人程の人々が野営していた。
半数以上が兵士で、常に警備についているようだ。偵察を繰り返しているのか、50名くらいの一隊が戻って来ては、別の一隊が出て行く。
王子と王女の前に、身なりの良い年配の男が進み出て、話し掛けて来た。
「シャルダン王子殿下、ルビー王女様、お帰りなさい。ずいぶん、遅かったですな。途中で何かありましたか?」
「ただいま、ライオネル。うん、途中で奴らに襲われたよ。」
「それは、よくご無事で。奴らは、どうして王子殿下の動向を知り得たのでしょうか。
まさか、間者が紛れ込んでいるのでは。」
「ライオネル、詳しい話はあとだ。客人を連れて来た、襲撃された時に助けてもらったのだ。」
「おお、これは失礼を致しました。王子殿下と王女様をお助けくださり、ありがとうございます。
宰相のライオネルといいます。」
「客人は、父上を訪ねて来られたのだ。話しは、父上のもとで行う。」
警備の兵士達に囲まれた、一際大きなゲルに案内された。
「父上、只今戻りました。途中100名ばかりに襲撃され、この方々が助けに入りってくれて、事なきを得ました。」
「おお、そうか。無事で何よりじゃ。
客人、余がこの国の王、へラークじゃ。
王子達の危難を助けてくれたこと。礼を申す。」
「ウインランド王国から参りましたカルロと申します。王子殿下達をお助けできたのは、襲撃の場に偶然に通り掛かったので、幸いでした。
私は、ウインランド国王より、ペルシナ王国と友誼を結ぶために、遣わされました。
これが我が国王からの親書にございます。」
「拝見しよう。···· 確かに趣旨は受けとつた。
こちらとしても、異存はないが。 一つ事情があってな。
今、この国は二つに割れておる。儂と、儂の息子で争うておるんじゃ。」
「立ち入ったことをお聞きしますが、原因は何でしょうか。」
「廃嫡したからだ。儂の本当の息子ではないことがわかったのでな。
だが、あ奴はそれを嘘だと主張し、母親の実家の豪族の後ろ盾を得て、儂を倒そうとしておる。」
「その争いは、どうなるのですか。」
「どちらか、倒れるまで終わらぬ。もう、三年も争うておる。」
そこへ、将官らしき男が入ってきた。
「陛下、よろしいでしょうか?」
「モルツ将軍、急報か?」
「はっ、モヒナ殿下が動きました。兵を集めております。既に1万ほども集まって、ございます。」
「なに、直ぐにこちらも兵を集めよ。」
「はっ、直ちに伝令を送ります。」
「戦いは、明後日の朝じゃろ。こちらの兵が揃うまで、持ち堪えねばならぬ。
お客人、お聞きのとおりじゃ。直ぐにこの地を離れられよ。」
私は、去ろうかとも考えたが、このまま去れば、コウジ様の使命を果たすことができなくなると気付き、へラーク国王に答えた。
「陛下、私は陛下と友誼を結ぶべく、この地に参りました。陛下が負ければ、私の使命は達成できなくなります。
微力ながら、陛下に助成させていただきます。」
「なんと。構わぬのか、敵は我が方の倍以上ぞ。勝ち目は薄い。」
「それでも、構いません。」
王のゲルを出て、皆の元へもどると、戦になることを伝えた。
「マーカス隊長、済まない戦に巻き込んでしまって。」
「なにを言われる。我々はカルロ殿の護衛、あなたと行動を共にするのが役目、全力で守って見せますぞ。」
「戦いは、明日の朝。遊牧の民の戦は、騎馬戦らしい。ならば、我らの戦い方が役に立つかもしれませんね。」
へラーク国王に、もう一度会い、湿地帯の中に簡易な砦を築き、籠城戦をすることを提案した。国王は、時間を稼いぐには、よい方法と受け入れてくれ、さっそく朝から、堀を造り、土砂を積んで、砦を築いた。
そして、兵士達に持ってきた手投げ火炎瓶の使い方を教え、砦の前には、同じく持ってきた100個のトラバサミのワナを仕掛けた。
簡易な砦とは言え、背面を水深のある湿地に背負い、全面は高さ2メートルほどの土塁と、幅5メートルほどの堀に囲まれ、なかなか堅牢なものになっている。
2日目の朝、ついに敵兵が姿を現した。
私の一団は、息子のシルクを初め、人夫も、皆、ボウガンを構えている。このボウガンは、コウジ様から渡されたもので、矢が2本打てるものだ。
敵兵は、勢揃いすると一斉に突撃を開始した。だが、湿地帯を多勢で攻め寄せるには、無理がある。
沼地に馬の足を取られて、転倒する者も少なくなく、おまけに、仕掛けたトラバサミに馬の足が掛かり、周囲を巻き込んで転倒する者が続出している。
ようやく、堀まで辿り着いた者達は、堀に躊躇し、立ち止まるが、そこに弓矢が降り注ぐ。
「馬の首を狙えっ、兵士は鎧を着ているから、馬を狙うんだっ。」
マーカス隊長の激に、味方の兵士達が驚いている。
ああ、そうか。草原の民には、馬が大切な財産だから、できるだけ殺さないようにしているのだろう。しかし、生きるか死ぬかの瀬戸際で、マーカス隊長の言葉が正解だろう。
やがて、味方の兵士も馬の首を狙って、弓矢を射ていった。敵兵は、馬から振り落とされる者が続出し、味方の馬に蹴られて、もはや同士討ちの体である。
多勢の敵兵もさすがに、怯んでいるとき、騎馬の一隊が敵の本陣目掛けて、突撃して行った。
マーカス隊長率いるウインランド王国の騎馬隊だ。寄せ来る敵兵達に火炎瓶を投げ付け、進路を確保すると、あっと言う間に敵の本陣へ突入して行く。火炎瓶の上げる炎で、敵本陣一面は、火だるまと化した。
そして、戦いは終わった。敵本陣へ突入したマーカス隊が敵の王子を討ち取ったのだ。
直後に、周辺から現れた味方の軍勢に囲まれ、敵兵達は投降したのである。




