第一話 砂漠を越えて、特命大使カルロ その一
私の名前は、カルロ。ハーベスト領の領都ブルータスの街で酒造りと、日用品の商売を手広くやっている。
特に酒造りは、コウジ様から様々な種類と醸造方法を、独占的に伝授されたおかげで、王国内でも有数の商人と呼ばれるようになることができた。
コウジ様とは、もう長い付き合いになる。6年前に、護衛をお願いしたのが縁の始まりで、今では家族ぐるみで親戚のような間柄になっている。
コウジ様は、天才とも言える才能の持主だ。
この6年間、みるみるうちに才能を発揮され、周りの人々を危難から救ったばかりか、国王陛下からも認められ、護国卿なられたことですら驚きなのに、さらに宰相にまでお成りになった。
最近では、南方地域の水不足を解消するために、巨大なダムの建設を始められ、その建設に王国中から10万人もの人手を集めたというのだから、驚きを禁じ得ない。
しかも、一ヶ月働くごとに一週間の休みを与えるというのに、感心する。
人夫達は、王国中から来たもの達だ。一週間も休みがあれば、皆《杜のくまさん鉄道》に乗り、各々の故郷へ帰省する。
そして、稼いだ金を故郷で使うのだ。故郷の街や村もさぞかし、潤うことだろう。
まるで、政治とは、このように行うのだと、見本を示されているような施政ぶりで、今や、王国中から尊敬を集めていらっしゃる。
そのコウジ様から頼みがあると呼ばれ、私は王城へやって来た。
そして案内された広間には、驚いたことに、コウジ様だけでなく、国王陛下と数人の大臣の方達までいた。
「カルロさんお久しぶりです。忙しいところお呼び立てして申し訳ない。
信頼できる商人のカルロさんでなければ、頼めないことなので来てもらいました。」
「カルロ、余がアルクじゃ。そちの造った酒は、儂も毎晩楽しましてもらっておるぞ。」
「それは光栄にございます。帰ったら職人達に伝えさせてもらいます。皆、喜びます。」
「カルロさん、カルロさんに頼みたいことというのは、西方の砂漠の先にある国へ行って、国交を結んで来てもらいたいのです。
以前から、テントハウスの《ゲル》を購入してもらったりして交易実績のある、カルロさんなら彼らに信用もあり、向こうの王に会うことも可能だと思うのです。
どうか頼まれて、くれないでしょうか。」
突然の話に、思考を巡らせる。西方の国、かの国は、草原地帯の遊牧民の国だ。
常に移動して暮らしているから、その時々でいる場所が違い、王に会うというのは、困難を極めるだろう。
下手をすれば、一年、二年かかるかも知れない。もしかすれば、その地で果てることもありうる。
もし、私が断われば、違う誰かが行くことになるだろう。地理も、伝手もない誰かに負わせてもいいのか。
私は、コウジ様のおかげで、ここまでやってこれた。大商人になる夢もかなった。
あとは息子に、、そうだ、息子に父親の生き様を見せてやることだ。
「私は、コウジ様に返し切れない大恩があります。その頼みは、どんな無理難題でもやり遂げなければと思っています。
ましてや、王城の皆様からの頼みとなれば、このカルロの身に余る、お役目です。
生涯最大の大仕事、全力でやらせていただきます。」
「カルロ、よくぞ申してくれた。儂からも礼を申す。
それでな、そちを派遣するにあたり、ウインランド王国の《特命大使》に任命するので、よろしく頼む。」
「陛下から言われたとおり、《特命大使》として行ってください。身分は伯爵と同じになります。
それから、陛下からの親書を持って行ってください。
あっ、それと、伯爵なので、王国騎士団から20名の護衛が同行しますから、驚かないでくださいね。」
「ええっ。ええっ。驚かないでということだけは、聞けませんよ。無理です。」
『『『『あはははっ。』』』』
こうして私は、砂漠を越えた西方の国へ向かうことになった。
同行するのは、16才になった息子のシルクと、以前ゲルを購入しに西方へ派遣した三人の使用人、ルドル、キャリー、バリー。
そして、王国騎士団の第三小隊長、マーカスさん以下20名の騎士の皆さん。
商隊の荷物を運ぶ人夫が15名で、総勢40名の多所帯となった。
王国の最西端、ラスカル伯爵領を出ると、そこは果てしない砂漠が続く。商隊は、途中にある数カ所のオアシスを経由しながら、一路西方を目指す。
「カルロ殿、砂漠も今日で五日目、そろそろ遊牧の民達が住む、草原地帯に着く頃ではありませんか?」
「マーカス隊長、次のオアシスで砂漠は終わりです。騎士団の皆さんには、不便を掛けますが体調を悪くした方はいませんか?」
「はははっ、ちょうどいい訓練ですよ。いずれこのような場所で戦う時に、この経験が役に立つでしょう。」
最後のオアシスを出て3時間程進んだとき、前方で砂塵が舞っているのが見えた。
近づいて行くと、円陣を組んだ一団に、それを取り囲んだ一団が攻撃をしている。
「囲まれている一団は、この国の王族のようです。以前この国へ来たとき、あの旗を見たことがあります。」使用人のキャリーが旗を見て教えてくれた。
「マーカス隊長、囲まれているのは、この国の王族です。助けましょう。」
「わかりました。小隊2組縦隊っ、突撃する。周囲で攻撃している者共を追い払う、続けっ。」
騎士団は、マーカス隊長率いる10名と、テラス副隊長率いる10名に別れ、攻撃をしている100人ばかりの族に襲い掛かった。
族達もこちらに気づくと隊列を組み向かって来たが、馬のスピードと操る者の差が明らかに勝る騎士団に、あっという間に蹴散らかされ、半数を討ち取られて退散していった。
使用人のルドルを先頭に、ウインランド王国の旗を閃かして、円陣の一団に近づくと、中から身分の高そうな男が出て来て、うやうやしく一礼された。
俺は、馬を降りて、その男に話し掛けた。
「言葉はわかりますか、私達はウインランド王国の者です。」
「分かりますよ、我々は、ペルシナ王国の者です。危ないところを助けてもらい、礼をいいます。」
「あなた達を襲っていた者は、何者ですか。」
「あの者達は、たぶん私と妹を亡きものにしようとしたのでしょう。」
「失礼ですが、あなた様は?」
「ペルシナ王国の第二王子、シャルダンといいます。」
「兄様、私にもお礼を言わせて。」
横から、どうやらお姫様が口をはさまれたようだ。
「これは、私はウインランド王国から、あなたの国ペルシナ王国と、国交を結ぶために遣わされましたカルロと申します。」
「まあ。ペルシナ王国の王女、ルビーといいます。危ないところを助けていただき、ありがとうございました。」
「いえ、むしろ、お訪ねしようとしていたところです。助けになれて、幸運でした。」
ペルシナ王国のお二人に同行して、王のいる野営地へ辿り着くことができた。
ペルシナ王国とは、どんなところかな。
息子のシルクは、いきなり王子様と王女様に会って、オタオタしているが、身分などで慌てていると、コウジ様にお叱りを受けるぞ。
あの方は、〘話すときは、誰もが一人の人間どうし。そこに身分の垣根などあってはならない。〙という考えの方だからな。
シルクもこの旅で経験を積み、一人の男として、成長してほしいものだ。




