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閑話八 俺とレイネの王都暮らし

 ウインランド王国の宰相になってしまった。 

 レイネは、『こんなに若くして、大出世してしまって、老後はどうするのかしら。はあ。』 

 なんて、訳のわからないため息をついているが、俺の中では、二年程で終わらせるつもりなんだ。


 王都の暮らしは、たまらなく窮屈だ。いちいち護衛が付いて来るし、その数も半端じゃない。

 おまけに、王都の屋敷には、執事にメイドや使用人が100人位いる。

 俺がレイネと、二人きりになれるのは、夜のベッドの中だけだ。


 レイネは日中、俺が王城にいる間、ほとんど毎日、王都の孤児院に出掛けている。

 孤児院の子供達の世話をしていると、心が休まるのだとか。

 もちろん、護衛付きだ。半端ない人数の。

 おかげで、孤児院が王都で一番安全な場所と言われているらしい。

 

 俺のもとへは、逐一各地から、事業の進捗状況やトラブル、要望などが届く。

 それを整理し、午前11時頃と午後3時頃に、陛下に報告し、必要な許可をもらう。

 最近の南方地域の開発の状況など、すこぶる上機嫌で聞いている。


「ほう。あの若者達もやるものだのう。

 しかし、ダムに10万人も、しかも国中から動員するとは、儂は、初めてひっくり返ったぞ。

 今、借金をしても、何倍にもなって返ってくるか。恐れ入るな、そちでしか考えつかぬ。」


「陛下、俺を宰相にしたのが運のつきですよ。

 普通のことをやっていても、この国から貧困はなくなりません。

 物を、金を、民を動かすのです。国中が混ざり合ってこそ、良質な国造りが進むのです。」



 週に一度、午後の執務を休みにして、もらっている。それでも緊急な知らせがあれば、遠慮なく届くのだが。

 そんな貴重な休みは、レイネが予定を組んでる。二人(ごえいつき)で、王都の街をぶらついたり、するのだ。

 街の店主達も慣れたもので、護衛など目に入らないかのように接してくれる。


「レイネ様、今日は旦那様とデートだね。相変わらず仲がおよろしいことで。」

「あら、私達はまだ新婚なのよ。おばちゃんにもあったでしょ、新婚時代。」

「あはははっ、あったかも知れないけど、思いだせないね。」


「コウジの旦那、たまには、美人の奥様に、プレゼントでもどうです? 各地から新しい商品が届いてますぜ。」

「妻を褒めてくれるのは、嬉しいが、誰にでも言ってるじゃないのそれ。」

「そんなことないすよ、レイネ様のはほんと。他のお客さんのはお世辞でさあ。」


「ねえ、コウジさん。屋台で飲み物を買って、公園に行きましょうよ。

 最近、公園の池にね、鯉ばかりでなく、鴨がやって来たのよ。えさをやると、寄って来るの。」

「へえ、この季節は渡り鳥が南へ行くのか。」


「そうよ、ラナちゃん達のいるところへ向うはずよ。

 ラナちゃん元気かな。妹や弟と離れてさびしいだろうな。」

「ラナは、責任感の強い娘だから、歯を食いしばって、頑張っていると思うよ。」


「ニーナちゃんも、ハルク君も、テムジンちゃんも居なくなって、孤児院の皆も、特にナターシャさんが寂しがっているわね。」

「うん。だけど、いずれは皆、孤児院を巣立っていくからね。

 ナターシャさんは、お母さんの気持ちで心配して、帰って来るのを心待ちにしていると思うよ。」



 公園でくつろいだ俺達は、王都に3つある孤児院の一つにやって来た。レイネが午前中行った孤児院とは別の孤児院だ。

 レイネは、自分で焼いたクッキーをお土産に持って来てる。

 俺は初めて来た孤児院だ。《聖サウス孤児院》それがここの名前、王都の南地区にある。

 

「わぁー、レイネお姉ちゃんだあ。」

「お姉ちゃん、抱っこしてぇ。」

「クッキーだあ、バンザイっ。」

 若干、勘違いしている子供もいるようだ。


「まあ、宰相様、レイネ様には、いつもお世話になっています。」

「シスター、ちょっとおじゃまするよ。」


 レイネの周りには、子供達が群がって、抱き付いたり、ぶら下がったりしている。微笑ましい。

 聞くと、この孤児院では、年長組が陶芸の皿やコップを作っているそうで、現代風にいうと、100円ショップのような工房兼店舗をやって、経営の補助にしているとのこと。

 レイネがここに来てから、遊びで教えて、工房にまで発展したらしい。

 出来栄えは程々だが、安価なため、お客が絶えないのだとか。


「レイネ様には、感謝してもしきれません。

 子供達に自立の道を示してくださりました。

 それに、宰相様のご指示でしょう。食糧の配給がされるようになりまして。

 それよりなにより、建物の新築が決まり、来月には工事が始まります。

 なんと感謝申し上げてよいのやら。」

「シスター、俺じゃなくて、国がやっているのですよ。もっと以前からやっていなくては、ならないことでしたからね。」


「この前、子供達が私の誕生日に、歌をうたってくれて、陶芸で焼いたカップをプレゼントしてくれたんですよ。

 初めてなんです、誕生日を祝ってもらったのは。」

  

 そう言って、シスターは泣き崩れた。これまで、苦労されてきたのであろう。その制服はツギハギだらけで、貧しさと戦って来た歴戦の勲章に見えた。


 俺は、シスターのその姿に、この人達の努力に報いてあげなければと、切実に思った。

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