第八話 ロッドの施策 兄上を超えろ
ラナが孤児院、育児院、病院施設の設置を進めてくれ、ニーナ、テムジンが海岸部の果樹栽培を、ハルクが内陸部のサトウキビ畑の開拓を進めてくれている頃、
僕は、それとは違う他の施策を行うべく、マーレ半島を駆け巡っていた。
さて、僕は兄上のこれまでの施策を振り返って考えてみる。
東部では、漁業組合の設立。ドリームランドの建設。北部では、キノコ、もやし栽培や酪農からの乳製品製造、石炭や鉄鉱の鉱山開発。
どれも、その地域の特性を最大限に活かしたものだ。
方や、マーレ半島に当てはめて考えると、銅や錫の鉱山はあるものの、大規模な開発は望めない。
漁業は、食用に適した魚種が少なく漁獲量も期待できない。
遊園地を造っても、王都から遠く、ハーベストのドリームランドの利便性にかなわない。
考えろ、考えるんだっ。この地域にしかない特性はなんだ ?
僕がこのマーレ半島に来て、一番多く目にしたものは何だ ?
椰子の木 ? いや、海岸部には多いが、内陸部にはそれほど見かけない。
道は白っぽい砂地が多い。白っぽい砂 ? 石灰岩が多いせいだろう、道が白くなるほどの石灰岩があるのか。
石灰岩、ハーベスト領で行なった舗装道路のローマンセメントの原料になる。
そうだ、兄上が造るダム工事のセメントは、ここから供給しよう。
ほかにないか ? 風光明媚な海岸線、ほかでは見られないものだ。
海、海水浴。兄上に連れられ、孤児院の皆と行った、サマール男爵領の海辺の海水浴、楽しかったなあ。
ここは海辺としては、王都からは、サマール男爵領より近いぞ。
前に兄上に聞いたことがある。リゾート地といって、夏の避暑に海辺で何泊か過ごす場所があると。
そうだ。この地域をリゾート地として開発しよう。
この地域の人々は、貧しいせいか、家は、ヤシの葉で葺いた、木造のあばら家だ。台風が来る度に家を吹き飛ばされる人々が多勢いる。
ようし、家を石灰岩の石造りにしよう。白い家並みは、風光明媚な土地にピッタリだ。
ついでに道も砂地では、雨が降るとぬかるんで悪いから、石畳みの道に改造だ。
観光の目玉がいるな。珊瑚礁の浅瀬で遊んだり、椰子の木の公園は、造るとして。
そうだ、食べるのに不向きな魚でも、色とりどりの熱帯魚は、観る価値があるのだから、水槽に入れて水族館を造ろう。
僕は、ハーベスト領の鍛冶ギルドに依頼を出し、石工の鍛冶師を派遣してもらうことにした。
そして、海岸部三領から、集めた人々に、石造りの家の造り方の講習会を開いた。
「お集まり皆さん、こちらがハーベスト領の鍛冶ギルドから、石造りの家の造り方を教えに来てくださった《ストーンズ》さんです。」
「儂がストーンズじゃ。これから、一番簡単で早く作れる、石造りの家の造り方を皆に教える。最も大事なことは、崩れないように、頑丈に造ることじゃ。」
「おい、石の壁が崩れたりしたら、下敷きになって死んじまうぜ。自分達で造って大丈夫なのかよ。」
「ここは、東部と違って火山もねぇし、地震なんかないから、大丈夫だ。造り方が下手なら、分からんけどな。」
「いろんな構造や石積みの方法があるが、ここでは切積みと言って、四角に切り出した石灰岩を積む方法でやる。出入口や窓は、半円アーチ型でやる。家の中の間仕切は、木材だ。屋根は、錫と銅の合金の薄い板を木の板の上に張って作る。
さあ、皆、やってもらうからな。まずは、切積みだ、角石を湿らせた石膏を繋ぎにして、石を交互に股がるように積む。
水平になるように、調整しながら積むんだ。傾きができると、崩れる原因になるぞ。
半円アーチに使う石は、角石を削って作るんだ。大きさは適当でいい、最後の石で調整するんだ。」
僕は、ストーンズさんに用意するように言われた、石灰岩の切り出しと、銅と錫の合金の薄板を作る指示に、新しくできた建材組合に行く。
もう研修用に、試作はしているのだが、これから本格的に家造りが始まると、大量に資材が必要となる。
素人達が造るだけに、角石も規格をできるだけ揃えてやらなきゃ出来栄えに影響する。
椰子の木の公園は、構想を示して、領主達に任せた。ベンチや水飲み場を作ることと、売店の建物を指示しただけだ。
珊瑚礁の海辺は、深くて危険な場所にブイを浮かべて、分かるようにさせた。
また、櫓を組んで遊泳者の監視塔を作ること、溺れたりする人を救助するボートと人の配置を指示した。
最大のイベントは、水族館の建設だ。建物はいい、ローマンセメントで石造りにすれば良いから。
問題は、水槽だ。ガラスは窓やコップならあるが、大きな水槽など作れるかどうか。
そこで、ローマンセメントで造った石壁に、幾つものガラス窓を付けることにした。その際のガラスも極厚の特注品ではあるが。
敷地は、タイナ子爵領の《杜のくまさん鉄道》駅から近い場所を選んだ。タイナ子爵は、大喜びで、《ロッド水族館》と名付けると言って聞かなかったが、丁重にお断りした。
結局、水族館の名前は、《マーレ熱帯水族館》に落ち着いた。
その年、海岸部三領には、石造りの家が立ち並び、異国情緒溢れる景色が見られることとなった。
秋に台風が来たが、石造りの家は、何の被害もなく、台風が去った翌日には、人々の笑顔が見られた。
僕達5人は、マーレ半島で一年を過ごし、故郷ハーベスト領へ帰還したが、帰る日のことは、永遠に忘れないと思う。
コウジ兄上が、北部から帰る時、多勢の領民に手を振られ、見送りを受けたそうだが、それに勝るとも劣らない、見送りを受けたのです。
別れの挨拶に、7領の駅に立寄ったのですが、どこも領民すべてが集まったのでは、と思うくらいの人々で溢れ、涙を流して別れを惜しんでくれたのです。
ラナもニーナも、『ワンワン』泣いて、涙を流しているし、ハルクとテムジンだって、潤んだ目をして今にも涙が溢れそうです。
僕も涙を必死に堪えて、僕達の果たした役目が、マーレ半島の皆に、喜んでもらえたことに、安堵していました。
こうして、僕達5人のマーレ半島の旅は終りました。




