第七話 プランテーション大作戦
ラナが、孤児院や育児院の施策を領主達と推めている頃、ハルクは内陸部のブラッド子爵領に向かい、テムジンとニーナは、海岸部のタイナ子爵領にいました。
「やっぱり主力産品にすべきなのは、オリーブよね。オリーブオイルは、植物油が足りないこの国には、欠かせないわ。」
「うん。でも、パイナップルやマンゴー、バナナにオレンジなんかの果物だって、他の地域では作れないし、いい特産品になると思うよ。」
「海岸部三領に、各々専門のプランテーションを作って、3つのプランテーションを併せた組合を作ろう。
オリーブプランテーション組合とか、パイナップルプランテーション組合とかさ。」
「東部の漁業組合みたいにするわけね。」
「領主の皆さんに、各プランテーションに参加する人選を手配してもらおう。まず、そこから始めようか。
ニーナには、オリーブとオレンジのプランテーションの指導を頼むよ。
僕は、パイナップルとバナナ、マンゴーを
指導するよ。」
「わかったわ。三領の参加する人達をタイナ子爵領に集めましょう。ここのプランテーションで、育成を指導するほうが、効率がいいわ。」
「皆さん、今日から、オリーブの木と、オレンジの木の農業指導をするニーナといいます。
どちらも実が成り、その実を食用としますが、オリーブの実からは、健康によい食用油が採れます。
皆さん、私に付いて来てください。
これがオリーブの木です。オリーブの木は、《挿し木》、つまり、木の枝を地面に直接さして、育てることができます。
ここのオリーブ畑には、大きなオリーブの木を移植しましたが、皆さんには、その木の枝を切って挿し木をしてもらいます。
そうやって、オリーブの木を増やしていく訳です。
こちらにあるのが、オレンジの木です。
オレンジの木は、挿し木ではなく、木の枝を他の生育した木の枝を切断し、同じく切断したオレンジの木の枝を継いで、苗木を育てる《接ぎ木》という方法を取ります。
これが、実ったオリーブの実とオレンジの実です。オレンジは、生でそのまま食べられますが、オリーブは、生ではアクが強くて食べられませんので、水煮や塩漬けにします。今日は、両方用意しました。皆で試食して見てください。
「ああ、オレンジの実って、大きいのね。」「すごくみずみずしいわ。酸味があるけど甘くて、美味しいわっ。」
「オリーブの実は、梅の実に似とるな。」
「ああ、食用油が採れるというから、もっと脂っこい味かと思ったが、そうてもないぞ。」
「でも、独特の味だね。食べたことがない味で、なんと言えばいいか。」
「おい、オリーブの油は、オリーブの風味なのか、ほんのり甘味があって、こりゃいけるぜっ。」
「オリーブオイルは、生で野菜や肉や魚にかけて食べても、美味しいのよ。
オリーブオイルに浸したまま、魚貝やお肉を熱して食べる《アヒージョ》という料理があるの。それは他の油ではできない料理よ。」
「とにかくすげーよ、オリーブもオレンジもよぉ。こりゃ、売れること間違いなしだぜっ。」
「そうね、素晴らしい作物だわ。」
一方こちらは、バナナとパイナップルとマンゴーのプランテーション。
「バナナは皆さん知っていると思いますが、このバナナは、ブラッド子爵のグリーンさんが、品種改良したもので、野生のものより実が大きく甘いバナナです。
このプランテーションでも、育てながらさらに品種改良を続け、美味しいバナナを作りましょう。」
「すげーなあ、このバナナを食ったら、野生のバナナなんて食えねぇぜっ。」
「ああ、まったく。これが同じバナナとは思えん。」
「品種改良って、できるだなあ。パイナップルやマンゴーも品種改良すれば、もっと美味しいものにできるんかなあ。」
「やろうぜっ、俺達で。俺達にしか作れない、美味しい果物をいっぱい作ろうぜっ。」
ブラッド子爵領にやって来た俺は、グリーンさんとサトウキビ畑にする場所を探して、領内を見て回ってる。
「ここら辺りは、森から離れてるし、多少起伏がある土地だが、日当たりは良いし、サトウキビ畑にするには最高だなっ。」
「ああ、問題があるとすれば、日照りの時の水の確保だな。」
「グリーンさん、灌漑用水路の計画では、この辺りはどうなっているんだい?」
「うむ。川が一本もない東側のここら辺りは、川を造るしかないかなと思っているのだが、時間もかかるし、何よりこの領地では、人手が足りないから、悩んでいるよ。」
「コウジ兄に、話してみようぜっ。コウジ兄なら、なんとかしてくれるぜっ。」
「そうだな、ここは教官に頼るしかないな。」
「その教官て呼び方、コウジ兄は嫌いみたいだぜっ。ほかに呼び方ないのかよっ。」
「宰相閣下とでも呼ぶのか? もっと嫌がると思うぞっ。」
「違えねぇ、兄は偉い人って、呼ばれ方が大嫌いだからな。ほんとは、とんでもなく偉いのになあ。」
「「あはははっ。」」
コウジ兄に、グリーンさんが手紙を書き、領地の東部に川を引くための工事に人手が足りなくて、悩んでいると言ったところ、ダム湖の工事が周辺の部分が終わったところで、人手が余るから、そのまま人を送るとのことだった。
でも、その数7万人。グリーンさんは、驚愕して、人夫の人々を受け入れるための準備に奔走してます。
『川を造るんじゃなくて、7万人もの人々の住むところを造るなんて、考えてもいなかったよっ。領地の全人口の3倍もあるんだよっ。 』
なんか引きつってる顔が、妙に可笑しくて、吹き出してしまったけど、
『コウジ兄のやることだから、予想の範囲を超えてるのは、普通のことじゃね?』
そう言って慰めたけど、慰めになってないみたい。
人夫の人々が住む場所には、商売をする人々も集まり、マーレ半島随一の巨大な街ができた。
後年、川の造成工事が終わっても、サトウキビなどのプランテーションで働く人々がいて、街は活況まま商業都市へと発展してゆく。
俺とニーナとテムジンは、知らないところで、補佐官をもじったのか、《ハーベストの三銃士(三従士)》と呼ばれるようになってたのを、後で聞いて絶句したけど。
コウジ兄には、なかなかいいネーミングだね。と言われてしまった。




