第六話 聖マザーラナの伝説
マーレ半島地域の七つの領地の貧困層は、底辺が広いものでした。
すなわち、裕福な人はほんの一部で、多勢の人々が皆、貧しいのです。
この地域にも、教会が運営する孤児院があります。
でもそれは、以前の私達の孤児院と同じく、少ない教会への寄付や、シスター達の副業でかろうじて、支えられているに過ぎず、孤児院そのものが貧しいのです。
コウジ兄様は、私達の孤児院に、パン工房と野菜畑からの収入をもたらし、孤児院を自立させてくれました。
でもそれは、全ての孤児院に当てはめることは、できません。孤児院にいる子供達の年齢構成や、孤児院がある場所の環境が違うからです。
国から孤児院へ、経営資金が補助されることは決まっています。
しかし、それは無制限ではありません。あくまで補助であり、できるだけ自立することが望ましいのです。
私は、マーレ半島の七貴族の当主と次期当主を集め、孤児院への補助の方法について、検討することにしました。
「宰相補佐官のラナです。マーレ半島地域の孤児や、親が面倒をみることができない子供達、それから、働くことができない老人達を、受け入れる方法について、皆さんの意見を伺うために集まってもらいました。
まず最初に、皆さんの思っていることを、なんでもいいので、話してください。」
「それでは、俺から話しをさせてもらう。
べナム男爵だ。ひとつどうしても懸念が消えないことがある。
それは、働かなくてもいいとなれば、皆その施設に入りたがり、収拾がつかなくなるのではないかということだ。補佐官殿は、どう考えているのがお聞きしたい。」
「あなたは、どう考えているのですか?」
「俺が補佐官殿に聞いているのだっ。」
「どうしたら良いかをこれから話し合うのです。貴方は、どうしたらいいか、考えが浮かばない無能な貴族なのですか?
なんでも人に聞いて、解決する方なら、貴族の資格はありませんよ。
とりあえず、べナム男爵の話は、何も決まっていない制度に対する懸念、とだけ伺っておきます。」
「カジア男爵だ。うちの領内にある孤児院は、各村々にあり、数ばかり多くて、その割に小さな孤児院ばかりで、教会はいったい何を考えているのか、怒りを感じる。」
「それは、孤児院を設立する時に、男爵が関与しなかったからではないですか?
もちろん、口だけの関与はできませんよね。」
「孤児院は、教会の管轄だっ。」
「それは全く違います。領主が何もしないから、孤児を救うために教会が動いただけです。しかも、組織立って動いたのではなく、個々のシスターが行なったのでしょうね。」
「ユーフス男爵だ。確かにこれまで、孤児院などに関与してこなかったが、それは資金などなく、やりたくてもできなかったのだ。」
「お金以外では、何かされたのでしょうか?
井戸を掘るとか、シスターと子供達には辛かったでしょうね。
孤児院では、成長する子供達の服に困ったのでは? 領民から不要になった服を孤児院へ寄付してやれ、ぐらいは言えたのでは?
孤児院のことを気に掛ければ、もっといろいろな手助けが、できますよね。」
「インダス男爵です。私も皆さんと同じで、孤児院や貧しい者達のことなど、これまで気に掛けたことがなく、何を困っているのか、何が必要なのか、今回の聞き取りで初めて知りました。
その中で、耳にした良い話は、領民の幾人かが孤児達を哀れみ、手助けしていたことです。
それはまさに、補佐官が言われたお金以外ぬのことで、手助けをしていたと聞いております。」
「タイナ子爵じゃ。長年、貴族をやっておると、言い訳ばかり言うようになるのぉ。見苦しい限りじゃ。
儂も年寄りじゃから思うのじゃが、孤児達の世話ぐらいなら、年寄りにもできるのではないかのぅ。シスター達の手伝いをさせては、どうじゃ?」
「初めて、素晴らしいお話を伺いましたわ。
私も、同じことを考えていました。」
「ブラッド子爵家のグリーンです。父から引き継いだはかりで、まだ、領内のことをよくわかっていませんが、
聞き取りの結果を見ますと、領内に仕事が以外と少ないことに驚いています。今まで、領民のほとんどは、農業に従事しているものとばかり思い、農業の生産力を上げれば、領民の生活が豊かになるとばかり、思っていました。
今は、ロッド補佐官の施策を実施して行けば、この問題は解決に近づくと考えています。
もう一つ気が付いたのですが、孤児院が貧しいことの一因に、土地が狭いことがあります。
食糧を自給自足しようにも、畑を作る土地が狭く、それができないでいるのです。」
「さすが、ハーベスト農業学校に行っただけのことはありますね。大切なことに気付いてくれましたわ。」
「最後は儂じゃな。一番身分の高い伯爵でありながら、自分の領地ばかりに気を取られ、皆の領地のことを、支援せなんだこと。この場を借りて、詫びさせてくれ。
ラナ補佐官達が来てくれたおかげで、このように皆で話せたこと。大変良いことだと感謝しておる。
それとな、ラナ補佐官。皆を無能呼ばわりしてくれるな。昔は今よりも、もっと酷い暮らしじゃった。それを曲がりなりにも、今の暮らしにして来たのは、ここにおる皆なのじゃ。
まだまだ、努力が足りぬかも知れぬ。だが、領地を守り、育てる。この者達は、まだまだやれるぞ。はははっ、年寄りの愚痴じゃな。
すまん。儂らに手を貸してくだされ。儂らには、ラナ補佐官のような知恵者の助けが必要なんじゃ。」
「ごめんなさい。私も、女子供と見縊られるのがいやで、言い過ぎました。皆さんごめんなさい。」
「いや、見縊ったのは確か。俺達こそ申し訳ない。」
「気を取り直して、私の考えを聞いてください。
まず、作る施設ですが、孤児を育てる孤児院、親兄弟に事情あって、子供を預かる育児院、病人の治療と介護をする病院。
この3つの施設を作る必要があると考えます。
孤児院、育児院は、集約し、貴族家ごとに分けるのではなく、マーレ半島を均等な地区に分けて、同じような規模のものとします。孤児の人数としては、50人から100人ぐらいまでとするのが、望ましいかと。
これに必要な建物と農地を用意する必要があります。農地は、できるだけ自給自足するためのものです。
さらに、個別の施設の状況に合った、パン工房などの自活を勧めます、
また、両施設には、シスターの元、家事などを仕事として、仕事がない老人達を雇用します。
病院は、各貴族領の領都に作ることにし、症状に応じて、治療の期間、入院させることとし、入院のための病室を病院に併設します。
入院の必要があるかないかは、病院の医師が判断します。」
結局、私のプランがそのまま実施されることになったの。
施設が完成したら、私が個々に生活の仕方や決まりを指導して回るの。それは、完成前の今も、もう始めてるわ。
あのね、一つ困ったことがあるの。
それはね、皆が私を呼ぶときに、《聖マザーラナ》って言うの。私まだ修道女見習いなんだから、やめてほしいのっ。




