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第五話 幸せを呼ぶ、聖ナターシャダム

 マーレ半島の七つの貴族領の調査結果結果を、コウジ兄上に逐一送っていた僕達に、兄上から手紙が届きました。そして、僕達はその手紙の内容に、心底、驚愕してしまいました

 そこに書かれていたのは、来月から、マーレ半島の付け根にあるヒラマヤ山脈の中に、巨大なダム湖を築くというのです。

 驚いたのは、そこではありません。ダム湖の建設のために、王国中から10万人の労働者を派遣するというのです。

 

 相変わらず、兄上のやることは、常道を逸しています。

 それでいて結果を見れば、なるほどと誰もが感心してしまうのだから、(すご)いです。

 10万もの労働者の雇用を図れば、王国中の失業者や収入の少ない者達を一気に、この公共事業で一掃できるのです。


 既に、建設予定地には、先遣隊1陣が派遣され、宿舎や飲料水の確保がされているそうです。

 ダム湖建設の総監督は、ボッシュさんだそうです。あの人は、ほんとうに天才の鍛冶職人だと思います。

 手押しポンプを最初に作り、ドリームランドを実現し、北部て炭鉱や鉄鉱山を開発して、今や王国で知らない人はいないと思いますが、今回、巨大ダム湖を建設すれば、後世の残る偉業です。

 

 コウジ兄上からは、僕達に、もう一つ依頼がありました。

 それは、ダムの名前を5人で決めろというものでした。

「なんで、コウジ(あに)さまは、私達にダムの名前を決めろというのかしら? 造るのはボッシュさん達じゃない。」

「その理由が書いてあったよ。僕達がマーレ半島の水資源の不足を見つけて、報告したからだって。

 それがマーレ半島振興のカギになったからって。」

「まあ、私達、すごいことをしたみたいね。ちっとも実感ないけど。」

「あははっ、そうだな。普通のことしかやってねぇなっ。」

「でも、せっかくだから、名前付けさせてもらおうよ。僕、付けてほしい名前があるんだ。」

「なんだよ、その名前って。」

「僕達が、一番お世話になった人の、名前を付けたい。」

「「「「そっか、聖ナターシャダム。」」」」

「シスター、驚くぜっ。」

「ポカンとして、なんでって叫ぶ、シスターの顔が目に浮かぶわ。」

「でも確かに、シスターは、私達のお母さんだから、お礼の意味でいいかもしれないわ。親孝行らしいこともしてないしね。

 そう言えば、これって、一番いい土産話になるわね。」

「違いないよ。でも、シスターが真っ赤な顔で照れまくると思うなあ。」

「「「「「あはははっ。」」」」」


 後年、マーレ半島を豊かな土地に変えた、このダムは、《幸せを呼ぶ、聖ナターシャダム》と、国中から呼ばれ、このダムに祈りを捧げると、幸せな人生を送ることができると、言われるようになった。


 さて、水資源の問題さえ解決すれば、全てのことがうまく行くはずです。

 その日、マーレ半島の七つの領地の当主と次期当主が集まって、今後の開発計画を話し合いました。

 


 海岸部のインダス男爵領、ユーフス男爵領、タイナ子爵領では、果樹栽培を中心とした農業振興を図ることとし、バナナ、パイナップル、ココナツ、オリーブを主力としてプランテーション方式で育てる。バナナ以外は、コウジ兄上が種子を調達してくれたものだ。

 また、ダム建設に合わせて、灌漑用水路を整備し、小麦や野菜の農地を拡大してゆく。


 内陸部のブラッド子爵領、べナム男爵領、カジア男爵領では、小麦、野菜に加えて、サトウキビの栽培を行い、砂糖の生産を主力産業に育てる。

 そして、スフラン伯爵領では、マーレ半島の鉱山開発を一括管理することで、また、その資源を工業生産に回すことで、銅や錫の金属製品の生産増を図ることとした。

 また、王都やハーベスト領との商業流通の拠点として、発展させることを目指すこととした。

 これで、産業振興の方向性は、決まったけれど、兄上が成そうとしている、貧しい人々を救うということは、なにも始まっていない。

 僕達の戦いは、まだ始まったばかりだ。

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