第三話 南国の宵闇の中で
兄上がこの国の宰相になるとは、夢のような出来事で、僕は初め、ただ呆然としていました。
でも、兄上から、ある使命を命じられて、僕は決意も新たに、行動を開始したのです。
僕が頼りにできる仲間がいる《聖ナターシャ孤児院》へやって来た僕は、年長組の最上級生を集めて、協力を頼みました。
「皆に聞いてほしいことがあるんだ。僕は、近いうちに南方地域マーレ半島に行くことになった。
兄上から、その地域の特性を見つけて、開発するように命じられたんだ。
けれど、僕一人では広いマーレ半島をどうにもできないと思う。
だから、皆に一緒に行って、僕にちからを貸してほしいんだ。」
「私は、孤児院で、皆の世話をすることが生きがいなの。せっかくだけど、ロッド兄の頼みは聞けないわ。」
ラナは、そう言って、目を伏せた。
「ラナ、向こうでは、以前の孤児院のように、貧しい暮らしにあえいでる人々が、子供達がいるんだ。
その人達を助けてあげなければいけないと思う。僕達だけが豊かな暮らしをしているのは、いけないことだと思うんだ。
そのために、兄上は宰相を引受けた。僕も兄上のやろうとしていることを、どんな困難があっても応援したい。」
「俺は、行くよ。コウジ兄には、小さい頃から世話になった。ロッド兄にもね。
俺に、何かできることがあるか、わからないけど、やってみる。」
「ありがとう、ハルク。」
「ボクも行きます。この街から出たのは、《杜のくまさん鉄道》の開通の時に、王都に行った一度きりだし、他所の領地を見てみたいもの。」
「テムジン、ありがとう。」
「仕方ないわね、私も行ってあげる。だって、ハルクとテムジンだけじゃ、頼りないわ。私が二人を見てなくちゃね。」
「なんだよ、ニーナ。俺たちが頼りにならないってのは、泣き虫のニーナには、言われたくないなっ。」
「そんなの、小さい頃の話しでしょっ。」
「私、行くことにします。困っている子供達がいるなら、行って助けてあげなくてはならないわ。」
「そうか、ラナも行ってくれるか。ありがとう。」
「ロッド兄、これで四人全員だな。聖ナターシャ孤児院のちからを見せてやろうぜっ。」
という訳で、夕食の時に孤児院の皆に、四人が行くことを報告した。
「パン工房の方は、大丈夫だよ。年長組に加わった5人も慣れてきたし、ハルク兄の作るブサイクなブタパンが無くなるぶんだけ、パン工房の品質が良くなるしさ。」
「なんだとてめえ、あのブタパンの良さがわからねぇか。あの顔のふっくら感が難しいんだぜっ。」
『『『あはははっ。』』』
「でもよく決心しましたね。コウジさんもあなた達が行ってくれると知ったら、きっと喜ぶわ。
向こうで、なにが待ってるかわからないけど、皆でちからを合わせて、がんばってきてね。」
「姉上、僕が責任を持って、この四人のことは守ります。
しばらくの間、留守にしますけど、土産話を楽しみにしていてください。」
数日後、僕ら5人は《杜のくまさん鉄道》で、王城へやって来た。
「陛下、こちらから、ロッド、ラナ、ニーナ、ハルク、テムジンです。
今回、俺の代理として、南方地域マーレ半島に行かせます。」
「おお、若い者達ばかりだのう。余が国王のアレクじゃ。この度は、宰相の頼みを聞き入れてくれたこと、儂からも礼を言うぞ。
礼ではないが、この度の任を行うにあたり、そち達を《宰相補佐官》に任ずる。よろしく頼むぞ。」
「陛下が言われたとおり、5人は俺の補佐官として行ってもらう。身分は男爵と同じになる。がんばって来い。」
『『『『『ええっ。』』』』』
こうして僕達は、再び王都から鉄道に乗り、21時間の旅をして、南方地域マーレ半島の中核都市、スフラン伯爵領の領都マーロンに到着した。
マーロンの駅を降りると、晩秋の季節だというのに、生暖かい夜風が顔をなぜ、南国の薫りを漂わせていた。
駅には、数人の男達が僕達を待っていました。
「ハーベストから来られた、ロッド様でしょうか?」
「そうです、一緒にいるのが、ラナ、ニーナ、ハルク、テムジンです。こちらへは、この5人できました。」
「遠路ご苦労様です。舘でスフラン伯爵がお待ちです。どうぞ、あちらの馬車にお乗りください。」
『なんだ、子供ばかりではないか。ばかにしているのか、あんな子供になにができる。』
そんな陰口が聞こえて来た。これは前途多難だです。
スフラン伯爵の舘に着いた俺達は、広間に通され、多勢の男達に迎えられた。
「よくお出でくださった、儂がスフランじゃ。」
「陛下から、手紙を預かってきております。こちらです。」
伯爵は、受け取った手紙を読み終えると、顔を上げ、皆に向かって言った。
「この方々は、陛下に任ぜられた宰相補佐官の方々である。年若いと見縊ると、陛下の怒りを買うぞ、心せよ。」
『『『おおっ。』』』『まことか。』『あんな子供が。』
『女子供になにができる、足でまといになるだけではないか。』
「ラナ、皆さんにラナが経験したことを話してくれないか。皆さんは、ラナをただの女子供と蔑んでいるようだ。そんな馬鹿な大人達の目を覚ますことから、始めなければいけないようだからね。」
「皆様、初めまして、私はラナと言います。
北方のナーキスの村に、父と四人の弟妹達と住んでいましたが、帝国の侵略に会い、父は戦場に行ったため、私が2才の妹を抱き、4才の弟の手を引き、8才の妹と10才の弟に荷物を持たせ、大人の足で5日、私達では倍以上かかるハーベスト領を目指して、逃亡の旅をしました。
5日目には食べ物がなくなり、6日目には飲み水もなくなり、草原を彷徨いながら歩いているとき、空から鳥のような人が乗ったものから、食べ物と飲み物を落としてもらい、再び避難を続けることができました。
しかし、あと少しでハーベストというところで、帝国軍に追いつかれ、私と弟妹たちは襲われたのです。それでも諦めず、帝国兵に皆で石をぶつけ抵抗を続けました。
もうだめかと思ったとき、ハーベストの領軍が敵兵を倒し、私達は助けられました。
私を鳥のような乗り物で助けてくれたのは、聖ナターシャ孤児院の子供達が乗るグライダーというものです。
大人が乗れば重くて荷物を積めませんが子供なら積めると、敵地の中を子供達が、避難する人々に食糧と水を届けたのです。
その食べ物は、ハーベストの街の女の人達が作りました。
飲み水も漏れない袋に詰め、寒さと疲労と恐怖に怯えながら、避難する人達の無事を祈りながら作りました。
ひとつお尋ねしますが、その時、皆様はなにをしていらしゃいましたか。
その腰に下げているものは、飾りですか。
伯爵、伯爵というものは、黙って何もしないでいても偉いものなのですか。
コウジ兄様は言われました、そのような役立たずのものは、無用であると。
子供だから、女だからと、見た目でしか、ものごとを捉えられないのなら、いつまで貴族でいられるかわからないですよ。
現に、帝国軍に破れた貴族は、廃爵されているのは、ご存知ですよね。
明日から、皆様のやる気と男のちからを拝見させていただきます。女子供にはできない大人男のちからとやらを。」
静まりかえったその場で、僕は追い打ちを掛けるように僕は言いました。
「陛下から、役立たずの貴族を潰すので、報告を上げるように言われております。」
さて、これで貴族達の尻は叩いた。反発して、僕達を襲って来る者達との戦いだな。
皆のことを護らないと。さあ、襲ってきやがれっ。




