第一話 アレク国王への手紙
初夏にスカンジナ地方から帰って来て、ひと夏、俺達は、サナとリミに愛情を注ぐ日々を過ごしていた。
真夏の暑い盛りの日、俺の家族と伯爵夫妻の七人で、サマール男爵領の砂浜へキャンプに来ていた。
とは言え、侍女や護衛など、総勢50人ばかりの多所帯になってしまったが。
サナとリミは、侍女や護衛の者にも慣れ、笑顔を隠さなくなっているのも、外出ができた理由だ。
浜辺に《ゲル》のテントを5棟建て、皆で水着になって海で涼む。侍女は水着姿で給仕してるし、護衛達も海パン一丁に、剣だけ下げて歩いてる。
サマール男爵達が挨拶に顔を出したが、気を利かせすぐに帰った。
俺とレイネとサナとリミは、波打ち際で、打ち寄せる波から逃げたり、貝殻を拾ったり、真夏の日射しを浴びながら、楽しく過ごした。
疲れると、ゲルに戻り、伯爵夫妻の元で、飲み物をもらい、サナとリミはお菓子を貰って喜んでいる。
夕方になると、バーベキューを皆で囲み、賑やかで楽しい夕食を取った。
「ゴウジよ、話に聞いたが、あれから陛下は、穢(穢れ)れとされた幼子を保護し、特別な孤児院を作らせたそうだぞ。
それは、陛下も無体なことをしていたと認めているのだと思うがな。」
「伯爵、前にも申しましたが、アレク国王陛下は、賢王です。周りに、陛下に献策できる家臣に恵まれていないだけのこと。
それに、王や貴族は、元々庶民の暮らしを知りません。ましてや、人々の気持ちなど、わかりようがありません。」
「そなたが、庶民の暮らしを豊かにしたいと考えておることは、陛下も承知しておろう。
ならば、庶民の生活に関わることは、陛下の領分と言えども、知恵を分けてあげては、どうじゃ。」
「そうですね。少しは考えないでもありません。だけど、そのことによって、貴族達或は、既得権益を持つ者達と争うことになるのが不安なのです。いえ、俺が狙われることは、心配していません。俺の周りにいる人達を巻き込むのではないかと危惧しているのです。」
「そなたの考えていることを、皆に話して見るのはどうじゃ? 皆の身が危険になることも話せば、用心することもできるであろうしな。
儂も及ばずながら、ちからになるぞ。」
「ありがとうございます。考えてみます。」
舘へ帰ると、俺は、悩んだ末に、アレク国王に手紙を書くことにした。
【 アレク国王陛下に謹んで申し上げます。
俺は、この国に住む人々の暮らしを、良くしたいと思っています。
それは、庶民の立場に立った考え方であり、特定の利権と相反するものでもあります。
もし、陛下が俺の施策を実施されるのであれば、危険にさらされるかも知れない、俺の周りの人々の安全を確保してください。
俺は、貴族も市井の民も、同じひとりの人であると考えます。各々の仕事という役割が違うだけのこと。
その人が偉いかどうかは、その人がなしたことを、周りの人々に評価されて初めて、人々から、偉い人であると言われるのだと考えます。
しかし、俺が成すことで、自分達の生活が脅かされると思う者達が、必ずや現れるでしょう。
その者達の全てに、俺の考えを理解してもらうことは不可能です。
その者達と争い、場合によっては、内戦を引き起こすことになるやも知れません。
その覚悟を持たずには、施策を行うことはできないと考えています。
これが、俺の答えられる全てです。】
手紙を読んだアレク国王は、ランドル宰相を呼び、次のように話した。
「ランドル、コウジ卿と約した法律の改正案は、捗っておるか?」
「文官の総力を上げて、取り掛かっておりますが、何分にも現状の把握から始めなければならず、手間取っております。」
「やはりそちには、荷が重いか。そちは、宰相という役割をどのように考えておる?」
「はあ、陛下のご意向を具体的に実施することが、私めの役目と心得ます。」
「それでは、足りん。足りんのだよ。儂の考え及ばぬこと、知りえぬことを補完し、献策することをしてもらわねば、国が立ち行かぬ。
ランドル、そちの忠節は得難いものと、思うておるが宰相には、不向きと言わねばならぬ。
だから、宰相の任を解く。今後は、儂の秘書官として務めよ。よいな。」
「はあ、陛下の命に異存はございません。しかし、宰相を誰にされるので、ございますか?」
「ハーベストの賢者、コウジ卿じゃ。コウジ卿に任す。そちは、彼の者を全力で補佐せよ。」
「わかりましてございます。全力を尽くします。」
それからわずか一週間後、王城に全ての貴族が招集された。《杜のくまさん鉄道》のおかげである。
「皆の者大儀である。儂はこの国を豊かで住みよい国とするために、国の在り方を維新することを決意した。
そこでまず、宰相をランドル卿に代わり、コウジ卿にすることとした。」
『『『『『おおぅ。』』』』』、どよめきが起きる。
「そこで、皆に言うて置かねばならぬことがある。
これから、コウジ卿が成すことは、儂が命じて、成すことである。
であるから、自分達の権益が無くなるからと申して、コウジ卿を恨んだり、コウジ卿や周りの者に手出しした場合は、廃爵はもちろん、一族ことごとく根絶やしとするから、承知して置け。
コウジ卿、皆に、これから行う施策を説明せよ。」
俺は、一同の前に出ると、用意した原稿を手に話し始める。
それは、あたかも、俺がこの世界に初めて来たときのような、身震いするような出来事だった。




