〈記録〉にて
それからしばらくしてから、周囲の光を収めて現れたレフを見て、アゼナはリアを拝んだ。罪の隠匿を求める、必死の仕草である。
レフはそれをじっと見てから、とぼけることに決めた。だから、敢えて訊く。
「アゼナ? 何かあったの」
アレンは笑いを堪え、アゼナはぶんぶんと首を振った。
「ないです、ないない。一切何も」
リアがはあっと溜息を零したとき、ラシュカが戻って来た。彼女はレフを見るや、ぱっと顔を輝かせて言った。
「レフ! いつにも増してお綺麗です!」
怪訝そうに目を瞬かせ、レフは尋ね返した。
「それは……回復したのが分かるということ?」
ラシュカは困ったような顔をした。
「ええと……それもあります。あの、それから、ありがとうございますっ、治していただいて!」
レフは一歩引いた。
「別に……」
思い出したように、〈記録〉の外に眼差しを向ける。
「ああ、外の三人にも回復を掛けないと」
「呼んで来るか?」
アレンが言ったが、レフは首を振った。
「いえ、わたしが行きます」
すっと宙に視線を向け、レフは言った。
「イリセの記録を洗い出して。ゼアントという人物について知りたい」
男の声は平坦に答えた。
[確認。そこには貴女の干渉が認められていない記録も存在]
レフは苛立たしげに眉を寄せる。
「それ以外のもので徹底的に探しなさい。それと、わたしの干渉が禁じられていても、閲覧はどうなの?」
[確認中、――待機願う。閲覧は可]
そう、とレフは満足げに頷き、命じた。
「では探しておきなさい」
命令を受理、と男の声が応えた。
外に向かうレフにいきおい四人とも付いて行く。レフは扉を開け、てっきり三人に歩み寄るのかと思いきや、その姿を視線に収めると、空恐ろしいことにその場で回復を詠唱した。三人ともはっとしたように振り返り、レフを見て感謝を表わして手を振る。
「魔力補填、終わったのか?」
レフは少し声を張って答えた。
「あとは調べることだけ」
言いながら、レフは溜息を落とした。
「対策も考えなくては……」
何の対策かは、言われずとも分かる。首都の結界に対する攻撃と、苦痛の命令を使われることに対する対策だ。
アレンは何の気なしに言った。
「何か人質的なものを作られればいいのにな」
レフはぱっと勢いよく顔を上げた。
「アレン、それです」
「え?」
アレンが驚いて声を漏らすと、レフは大変いいことを思い付いたかのように何度も頷いた。
「そうすればいいんです。この〈記録〉を質に取りましょう」
アレンは激しく疑う目でレフを見た。
「……レフ。質の意味が分かって言っているか?」
レフは心外そうにした。
「もちろんです。なぜです?」
アレンは言い辛そうに鼻の頭を掻いた。
「……質に取るものってのは、大抵そのぅ……傷付けたりすることを視野に入れたものになるんだが」
やはりそこはすっぽりと頭から抜けていたらしく、レフは些か呆然となった。そこに、背後から声が掛かる。
[報告、リノ・アイゼルト。記録の検索を終了、接続の可否を問う]
レフははっとしたように半身で振り返り、当然ながらラシュカたちと正面から顔を合わせることになってお互い一瞬ぎょっとしたようだったが、すぐに声に応えた。
「接続を許可」
[命令を受理]
ぶうぅん、と唸るような音がして、レフは丁寧にラシュカとリアの間に隙間を作ってそこを通り、〈記録〉の中心部の方を向いて進んだ。
そのレフに、〈記録〉の一画からまとめて生じた白い光球が、ふわふわと向かって来た。あのとき――レフが自身の心盤に、他のアイゼルトの記録を接続していたときによく似ている。しかしあの時とは違って、レフの心盤にではなくレフ自身にその光球は吸い込まれていく。
レフは眉間に皺を寄せ、与えられた情報を吟味しているようだ。
それからどんどんその雰囲気が困惑したものになっていったので、アゼナが恐る恐る声を掛けた。
「あの……レフ。どうしたの?」
レフは深い溜息を吐いた。
「お姉さまは……」
それから、感嘆しているのか不機嫌なのか判断のつかない声で答えた。
「こうやってわたしが干渉できる状態のものには、碌な情報はありませんね。自分で探すしかないようです」
丁寧な言葉遣いから推して、アレンを含めた全員に言っていた。
「碌な情報じゃなかったのか、今の」
アレンが呟くと、レフは蟀谷を押さえた。
「ええ。――ゼアントというのは、姉にいつも日記の宿題を出していたそうです。外出できない姉の書くことは、ほぼゼアントという人のことだったようですね」
それからちょっと、面食らった顔をした。アレンがどうした、と訊くと、「いえ……」と首を振る。
(『書くことをたくさんくれた人』?)
レフは心中で復唱した。それはユヴィリアイゼが十歳のときにゼアントのことを称した言葉だった。
(なぜわたしがアレンのことを言う言葉と同じなの?)
理由などないと分かっている。それでも思わず自問した。姉にとってのゼアントと、自分にとってのアレンは同じ存在なのだろうか、と。
「閲覧して記録を当たらないと……」
レフは呟き、もうアレンたちのことを視界から除外したかのようにすたすたとした足取りで、〈記録〉の一画を目指した。放置されたアレンたちは、相変わらず万術の柱に見惚れて幸せそうな三人と、迷いなく突き進むレフを見比べた。結果、どちらにも付いて行けずに肩を竦め、入り口付近という微妙な立ち位置で適当にぶらぶらし続けた。
[警告、リノ・アイゼルト]
男の声が聞こえた瞬間、吹き抜けの空間の更に向こうから軽い衝撃が伝わって来た。アレンが弾かれたように振り返るのと、声が続けるのが、同時。
[魔力不使用の状態に於いてその重量を支えることは困難]
どうやらレフがまとめて本を落としたらしい。アレンは苦笑して、救出に向かった。
レフは滑稽なほど見事に尻餅を突いていた。が、笑えた状況ではなかった。アレンは一目見て事態を悟り、慌てて駆け寄って彼女を不自然な姿勢から解放した。
レフはぴくりとも動かず硬直していた。
王都の結界が損傷したのだ。その修復のためにレフの動きが一気に制限され、魔力を使おうとしても使えず、抱え出した本を持て余して落としてしまったのだろう。
アレンは本を踏まないように気を付けながらレフを座り直させ、瞬きもしない彼女の全身をざっと見て怪我の有無を確認した。それから手早く本をまとめて重ねておく。両手がその作業で塞がる間、レフを脚にもたれ掛らせておいた。
「レフ、聞こえてるよな? 痛いところがあったら動けるようになり次第言うんだぞ」
レフは動かない。
本の処理が終わったアレンは、レフの肩を腕で支える形で膝を突き、王都の襲撃が終わるのを祈る心地で待った。
痙攣するようにレフが動いた。アレンははっとしたが、レフの硬直は続いている。しかし呼吸が乱れ始めた。明らかに苦しそうだ。以前に一度王都の結界が損傷したことがあるが、今回の方が程度が深い。
「レフ――レフ!」
「アレンどうしたのっ?」
リアの声がして、気配からしてリアとアゼナとラシュカが傍まで来たらしい。
「王都の――」
アレンはレフしか見ていなかったが、焦った口調で答え、アゼナがはっと口を覆った。
「うそ、あんな結界修復してるの? どうしよう」
ラシュカとリアは王都の結界のことを知らないので混乱したようだったが、レフの尋常ならざる様子に、ただごとではないと悟ったようだ。リアは若干引いており、アレンはそのことにどうでもいい神経を逆撫でされた。
レフが瞬きした。一、二度瞬きして、ぎゅっと瞼を閉じる。額に血管が浮き上がった。更に、呻き声が喉の奥から発せられた。
ぴくん、と指先が震える。レフの身体が一際強張り、それから脱力した。
「レフ……?」
アレンは顔を覗き込み、レフがゆっくりと何度か瞬きをするのを見て、ほっと肩の力を抜いた。
「……痛むところはありません」
レフが小さく言った。やはり声は聞こえていたのだろう。彼女はもう一度目を閉じて溜息を吐いてから、まるでそれが何よりも優先することであるかのように言った。
「……アゼレルファは無事です」
アレンは一瞬躊躇ったが、訂正した。
「――今はアージェな」
レフはきょとんとしてから、言い直した。
「そうでした。アージェ。首都アージェ」
「えーっと、どういうことでしょう?」
ラシュカが口を挟んだ。
レフとアレンで首都の結界のことを話し、ラシュカは単純にレフを尊敬と労りの目で見たが、なまじ規模が推し量れる上に機巧人嫌いのリアは完全に化け物を見る眼差しだった。化け物並みの魔力を持っていることはアレンも否定しない。
レフは本が無事だったことに安堵し、積んでおいたアレンに礼を述べて調べものを続けた。本を取り出し、開いて、閉じて、仕舞う。あるいは内容を他のものと参照する。そんな作業を延々と続ける。アレンはまた同じことがあったらと思って心配だったし、レフからも邪魔だと言われなかったのでその近くにおり、ラシュカとアゼナは気を利かせて離れ、リアは近くにいる義理が無いので離れていった。
レフは長い髪を時折鬱陶しそうに払いながら本を注視し、その立ち姿は一幅の絵のようで、侵しがたい神聖さを感じさせた。そしてその板についた仕草は、こうやって彼女が千年を過ごしてきたのだということを彷彿とさせる。
レフが千年掛けてもイリセの記録をこうして見なかったのは、イリセ以外の姉が全員、この辺りの棚を調べたすぐ後にここを出て行ったからだ。
もしも、自分までここを出れば、ここは廃れてしまう。
出なければいいのだけれど、出ないでおこうという自制が働くだろうか。
そんな危惧が頑強な壁となって、レフが長姉の記録に手を伸ばすことを封じていた。その彼女も、一旦ここを出たのだからもう躊躇うことはない。記憶の中の姉たちが探っていた場所を、漠然と探してみる。見慣れない年号にぶつかれば、その前後をよく読む。
一、二刻ほどしてから、レフは気になる箇所を見付けてそこを読んだ。信じられずに何度か瞬きをする。
「――質問がある」
それから出た声は酷く淡々としていた。手に持つ本に視線を固定したまま、彼女は聞き慣れた声が応えるのを待った。
[承る]
声は応えた。レフは少しだけ顔を上げ、冷静に訊いた。
「把握しているのは全記録だったわね?」
[肯定]
レフは本を閉じた。
「イリセ・アイゼルトはわたしに嘘を吐いたことがあるか?」
声は乾いて何の躊躇いもない。
[肯定]
レフェアイゼは宙に視線を向けた。
「その嘘はわたしの心盤に関係すること?」
男の声はやはり、彩りに欠け無機質。
[肯定]
アレンが驚いたように姿勢を正すのが背中で分かった。レフは本を抱き締めた。問う声はあくまでも冷静。
「ここに書いてあることが本当だとすると、わたしの苦痛はお姉さまのものなの?」
男の声は初めて即答を避けたが、それは返答をまとめるのに時間を要したからのようだった。
[――記録から推察、肯定]
レフは更に問い詰めた。
「わたしの名前は」
[リノ・アイゼルト。これ以上は許容外]
レフは苛立ちの余り肩を跳ね上げたが、もう分かっていた。
百年想えと言われれば、千年想うと返すほどの思慕。
それが己の名の由来であり、自分を苦しめ続けた欠陥の正体であり、ユヴィリアイゼが敵に回った原因である。
思えば姉は一度たりともレフェアイゼのことを欠陥品と言わなかった。――それはそうだろう。この苦痛が彼女の一生を表わしているのだから。冗談でも嘘でも、欠陥などとは言えなかったに違いない。
レフは本を震える手で慎重に本棚へ戻し、次の本に手を掛けて深呼吸した。
嘘を吐いて苦しめて、最も大切な存在のために利用さえして、それでもユヴィリアイゼが愛してくれたことに違いはない。それだけは絶対だ。特にレフェアイゼのことは、いっそう大切にしてくれている。
「レフ、どうした?」
後ろから声がした。アレンだ。心配そうな声色で、何だか常に傍にいる気がするが、不思議と鬱陶しくない。
「いえ、少し驚いたもので」
レフは答え、本を引き出した。
知りたいのは、前回の大掃除の様子だ。どこで、いつ、実行するのか。手掛かりがなくては追い縋れない。
開いた頁にはゼアントの健康状態が長々と書き連ねてあった。一瞥しただけで分かる、悪性の魔術の気に中てられた症状で、まだ末期ではないようだったが進行はしているようだった。確かにこれは助かるかどうか微妙だっただろう。
首を振って、他の本を探す。またゼアントの名前に遭遇した。眉を顰めてから、はっとした。
「ゼアントの命日は?」
声に出したその問いに、男の声が応えた。
[ルーヴナ三百三十五年、晩春の月二十一日]
「その日に決行する可能性は高い!」
レフは思わず叫び、一拍置いてから声は告げた。
[リノ・アイゼルト。イリセ・アイゼルトの関連事項を訊く理由は?]
レフは目を眇めた。
「反問の理由は?」
男の声は沈黙した。レフは眉を顰める。
「……自主性はないはずなのだけど……おかしいわね」
そう言ってまた本に目を落とす。年代を遡り、ややあって〈記録〉創建の記録にぶつかった。しかしその直前の記述はどう考えても幼少期の記録で、どうやら製本するときに順番が狂ったらしかった。
レフは溜息を吐き、その本を棚に返し、その隣にあった本を抜いた。後ろからぱらぱらと捲っていき、やっと前回の大掃除――すなわち人間の三分の一と全ての機巧人を葬った過去の記録に行き着いた。
その前後を読み進め、記憶消去の魔法陣の起動に、最も都合のよい場所の記録に辿り着くと、レフはその本を開いたままで歩き出し、吹き抜けの空間に戻った。
机の上に本を置き、宙を見て指示を出す。
「座標を検索。ルイル帝国――旧ルイル帝国、アーデット高地」
[命令を受理。検索中、――待機願う。映像展開の是非?]
レフは軽く頷いた。
「是」
机の上にまたしても光が漂った。それが先程と同じ形を取り、やがてそこに大陸が映る。それが一拍ごとに一箇所が拡大されていき、やがて大陸中央、砂漠地帯よりもやや北方の一箇所が大写しにされた。そこに映ったものに、それを見たアレンやアゼナやリア、ラシュカは驚愕したが、レフは全く動じなかった。むしろ、満足げに言った。
「――当たり」
そこには無数の機巧兵がいた――そして何より注目すべきは、それ以上の数の機巧兵の残骸だった。
黝い筐体がばらばらになっていて、その破片が何かを形作るように並べられている。ぎっしりと隙間なく積み重ねられた破片が、線となって紋様を描いているのだ。光を弾いて鈍く輝くその様は、一種壮観だった。
「――何だこれ」
ユアンの声がした。アレンが振り返ると、ユアンたち三人がぽかんとした顔でそこに立っていた。
「何で機巧兵で魔法陣書いてんだ?」
「これ、魔法陣なのか?」
アレンが訊き、ラデルが曖昧に頷いた。
「そう思う――古い感じはあるから、何のためのものなのかまでは分からないが……まだ未完成みたいだね?」
レフはこくんと頷いた。
「ええ、未完成。これは記憶消去のための魔法陣」
それから、どこか面白がるような顔をした。
「お姉さまも考えたこと。確かに機巧兵は魔力を含むから、普通に魔法陣を書くよりは楽でしょうけれど」
それから、少し考えるように目を閉じた。持ってきた本の頁を撫で、ふっと目を上げるとアレンを見た。
「アレン――王都に戻っても構いませんか?」
「おまえだけで? 俺たち込みで?」
アレンが逆に問うと、レフは考え考え言った。
「出来ればアレンだけでも来てほしいのですけれど。今のわたしは一人で出歩いて、動けなくなることもあるわけですし」
「分かった全員で行こう」
アゼナが間髪入れずに言い、アレンをぎんっと睨んだ。アレンがレフに手を出すことを果てしなく警戒している眼差しだが、転移陣を使って行くのだろうからそんな暇はない。
レフは頷いてから、自分の格好を仏頂面で見下ろした。確かに町娘の格好で国王に謁見するのは相応しくはない。また溜息を吐き、レフは頭を振ってから顔を上げる。
「機巧兵をアーデット高地に追い込む。イリセ・アイゼルトをアーデット高地から動けなくしたい。術式の準備を」
[命令を受理]
「それと転移陣のためにわたしが使えるように、魔力の貯蓄を開始して」
[命令を受理]
浮かんでいた映像が掻き消えた。代わって、レフ以外には――アイゼルト以外には理解できない術式の羅列が浮かび上がる。レフはそれを見て、指先で触れては変化させ、あるいは大きく、小さくさせ、その術式は数拍のうちにレフを取り囲むほどの量になった。
レフは声で指示を出していた。その姿は堂々として、生き生きとしていて、ここが彼女のいるべき場所だと、周囲に知らしめるかのようだった。
「レフ、綺麗だねぇ」
アゼナがしみじみと言った。アレンは心から同意した。レフは神々しいばかりに美しく、無数の術式に取り囲まれて、この世のものではないかのような錯覚さえ受けた。
しかしよくよくレフの言葉を聞いてみると、デリト平原に爆破の術式を待機、だとかいう物騒な言葉も聞こえてくる。確かに追い込むつもりのようだ。
「大陸全域に誘導の術式を。この魔力は〈記録〉から出して」
レフは口早に指示を出しながら、その口を休めることなく魔術を行使したようだ。唐突に彼女の衣服が仄かに光ったかと思うと、軽く両腕を挙げた彼女の格好が一変していた。
緩く流れる白い古風な衣装。アレンが彼女に初めて会ったときに着ていたものと、ほぼ同じものだった。
白い衣装の上に銀の髪を流し、青い目を上げて指示を出す彼女の姿は、あのとき――王都を守る結界を起動させたときと同じく、女神のようにも見えた。時折次の手を考えるように顎に手を添えて、その仕草は美しいというよりも愛らしい。
「二千年前の記録を参照、わたしが所有者の権限を持っている機巧兵を洗い出して」
[命令を受理、――待機願う]
「その間に探査の術式の精度をもう少し上げなさい」
[命令を受理。――検索完了、貴女が所有権を持つ機巧兵の識別紋様を表示]
レフの目の前に、全ての機巧兵にあるあの濃銀の刻印が複数浮かんだ。その数は百数十。レフが過去に屈服させた機巧兵の多さを物語っている。
「それらの機巧兵に干渉して、攻略しなさい。最優先命令者をわたしに設定して」
[注意、リノ・アイゼルト。イリセ・アイゼルトの意思に反する恐れのある命令]
レフは不機嫌に目を細めた。
「分かっている。姉も了解のことと思いなさい」
[――命令を受理]
やがてレフは、作業を終えたような吐息を漏らして、その華奢な手首を一振りして術式を収めた。それから、何かをじっと考えるような顔をして、僅かに俯いた。しばらくそうしていたが、はっとしたように顔を上げ、アレンを含む全員に言った。
「――上手くすれば姉を高原に留めることが出来ると思います。未完成の陣を守るのが今の姉の最優先事項のはずですし。それと王都の結界の件も、行けば解決できるかと。要は強度を上げればいいわけですから」
そうか、とアレンは頷く。レフは何かを含んでいるような顔で、淑やかに言った。
「では、転移陣を作成しましょう」




