断章 彼女の記憶 終
予約のミスで、全話と同時刻の予約となっています。
申し訳ありません!
五百年経ってそこを出た。この世界がいつ終わるのか見ようと思ったのだ。
五百年後、ケステアイゼが追って来た。どうやら記録を繋ぎ合わせて、ユヴィリアイゼの真意に気が付いたらしい。
彼女はユヴィリアイゼを、自分たちを忘れたのかと言って責めた。機巧兵の試運転を考えていると告げると、なぜそんなことをするのかと激しく詰った。そして妹たちのことを案じた。
忘れたことはないと否定して、機巧兵のことについても精一杯の説明をして、〈記録〉へ戻るようにと伝えたけれど、ケステアイゼは既に老いていた。長旅にも転移にも、最早耐えられなかった。
ケステアイゼの死は悲しかったけれど、宣言通り、機巧兵の試運転をしてみた。彼らは穢れではあったけれど、従順な遺産たちはやはりゼアントを思わせてくれた。
それが妹たちの手で片付けられてから五百年して、今度はシェリアイゼが会いに来た。言われたことに思わずかっとなってしまって、ケステアイゼの剣戟域を行使していた。
何の抵抗もしなかった彼女に、本当に久し振りに泣いた。
五百年してセレアイゼが追い着いた。彼女もやはりユヴィリアイゼの真意に辿り着いて、なぜだか止めに来たのだ。
どうしてもそれは出来ないと伝えると、残った一人、レフェアイゼのことを案じた。なぜなのか分からなかった。彼女は思慕の子、傷付けるわけがない。
セレアイゼは全てをユヴィリアイゼに捧げたとも言ったけれど、ユヴィリアイゼにはそうは思えなかった。
捧げるというのは、彼女自身がゼアントにしたようなことを、ゼアントがユヴィリアイゼにしたようなことを言う。
妹たちには、思慕も恋も約束も、そんな概念は一切教えていなかったけれど。
想うことも焦がれることも知らなくていい、そんなの下手に手を突っ込めば苦しむだけだ。約束など以ての外。破られたときの空しさや切なさといったら。
セレアイゼとはしばらく一緒にいたが、やがて〈記録〉に戻ると言って去って行った。
その後の顛末は分からないが、二年余りしてから彼女の矢雨息が戻って来たのを感じた。悲しかったはずなのだが、涙は出なかった。
ただ、馬鹿なことをしたと思って八つ当たりに詰った。
守り抜こうと思ったのに、妹たちは掌から零れ落ちるようにして離反していく。
そうして今度こそ一人になった。
――いや、今更か。孤独などとっくの昔に享受している。
独りになったのはあのとき、ゼアントを失ったときだ。
◇◇◇◇◇◇
ユヴィリアイゼはやっとのことで立ち上がった。不完全な転移のせいで身体が痛い。
ここがどこかは分からないが、そんなことは気にもならない。転移式を起動できれば、当日であろうと行動は起こせるのだ。
今はただ、思い慕う守護に敵対された痛みだけを。
目を固く閉じて必死にその事実を受け容れていると、すぐ傍で驚いたような声が上がった。
「イリセ・アイゼルト?」
ユヴィリアイゼはそちらにのろのろと視線を動かし、微かに表情を動かした。その拍子に涙が零れた。
「……ルイ?」
ルイは呆然とユヴィリアイゼを見ていた。
「ど――どうしてここに? 末の……リノ・アイゼルトをお迎えに行かれたのではなかったんですか? それに何で……」
ここはレデスナか。そう判断し、ユヴィリアイゼは両手で顔を覆う。
「レフェアイゼは――」
彼女は呟いた。この言葉を吐くくらいなら血を吐く方がずっと楽だった。
「――あの子は離反したの」
ルイの顔色が変わった。




