隣国の様子
アレンはレフの隣を歩きながら、何度目かに溜息を吐いた。レフが彼に目を向け、真面目に言う。
「四度目です。どうしました?」
アレンはむすっとして答えた。
「だってここに来てから、いいこと一個もないし」
そうだった。
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レデスナに入りたての頃はまだ良かった。
アゼナが大いにはしゃぎ、アレンも何気なく土産物を覗いたりもした。しかしそのうちに、アーリストのような軍事力があるわけでも、アゼイラのように噂で希望が繋がれたりもしなかった、この国の実情が浮き彫りになってきた。
機巧兵が恐ろしい。だからそれに似た、機巧人が許せない。
国境から数えて四つ目の町で、機巧人と人間とで入り口はおろか区画まで分けられていると聞いたときは、レフ以外の仲間たちの口が、顎が外れるのではないかと思うほどに開かれた。
例の誘拐事件から一箇月、レフはもう完全に仲間と見なされていたから、置いていくことも分かれることも論外で、結局人間たちが籤を引き、外れを引いたラデルとユアンが文句たらたらに買い出しに行かされ、残りは馬車と馬とで町を迂回した。
その次の町は機巧人たちが立て籠もっており、逆にレフしか入れなかった。しかしレフに買い物を任せるのはなかなかに危険である。迂回するしかないかと思われたが、幸い(?)機巧兵が二機出て、それを処理したアレンたちは特別に入れてもらえた。
中は殺伐とした雰囲気で、レフが悲しそうにしているので全員が憂鬱になった。
「どこもこうなのでしょうか」
レフは悲しそうな声で言い、助けられるのが人間だけならば来た意味も半分だと、アレンもかなり落ち込んだ。人間、変わるものである。
そしてこの、シェンド侯領に入った。
幾つかの町は迂回し、レフがどんどん悲しげになっていき、実際にレフが心盤の無事を確認するときに覗いてみると、文字は一層滲んで震え、全体的に暗くなっていっていた。
「レフが消えていきそうだな」
ユアンが心配そうに言った。因みに、さすがにレフもアレン以外には心盤を見せようとしないので、心盤の状態を見てしまったアレンの心中は、もっと穏やかならぬものである。
「元気ないよな、無理もないけど」
ラデルも言い、一同がいつレフが泣き出すか、転移して消えてしまうかと、はらはらしながら見守る状態が続いた。しかしレフは断じて泣かなかったし、消えもしなかった。
時々、無事を確かめているにはいやに長い時間心盤を見ているので、とうとう何をしているのかとアレンが恐る恐る訊いてみると、レフは昔の記録を見ているのだと言った。
「昔の……?」
やはり入れる町がなかったので、野営の準備が始まっていた。アレンは他からレフの話し相手を仰せつかり、レフが馬車の中で腰掛けているのを、外に立って、窓から上半身を入れ、窓に腕を預けて見ていた。
「はい。わたしたちは〈記録〉でずっと、外界で経験したこと、今起こっていること、などを書いていたんです」
五組の鵞ペンとインク壺、白紙の束。アレンは納得の色を浮かべたが、同時に首を傾げた。
「俺が行ったときは……」
「ずっと何も書いていませんでした」
レフは言い切った。伸びた分を染めたばかりの髪が、アレンが塞いでいるのとは反対側の窓からちらちらと揺れて差し込む焚き火の明かりに、僅かばかりに透けて輝く。
「千年経てば書くことなんて無くなります。それにもう外に興味もありませんでしたし。――けれど、見たでしょう? 本棚。あれは全てわたしたちが書いたものですよ」
アレンは思い返して身震いした。
「すげえ量だな。俺なんか用がなきゃ字を読もうなんて気にもならないのに」
レフは首を傾げた。アレンは冗談めかして言う。
「けどおまえ、あそこに戻ったら大分書くことあるんじゃねえの?」
レフは驚いたように目を瞠ったが、嬉しそうに頷いた。
「そうですね。――あなたのことも書きますね」
「おお、是非是非。俺が最初に【掃討波】付きの剣を思いっ切り振ったことなんかも書いていいぞ」
「わたしが王宮で迷子になったとき、怒鳴りつけたことも書きますね」
「……そんなにひどくは怒鳴ってないぞ。誘拐されたときの自分の状況なんかも書いとけ」
「献立の内容を教えてくれていることも書きますね」
「おまえに起こされるときのアゼナの、すっさまじい悲鳴のことなんかもな」
レフは楽しそうではあったが、アレンが言った諸々のことを、書きますねと柔らかく言うだけで、それを約束しようとはしなかった。
(ああ、そういや訂正してなかったな)
初対面の時、約束というのは機巧人には出来ないものであると言ったことを。
レフは約束したことをきちんと守っているというのに。あれが二人の間の、唯一の約束――ひいてはレフが生涯に交わした、今のところ最初で最後の約束だった。
今はどのときの記録を見ていたのかと訊くと、レフは少し決まり悪そうにした。
「最後の方――です。わたしの」
アレンは礼儀正しく言った。
「見ていいか?」
レフは相手の正気を疑うような、最早お馴染みの表情を浮かべた。
「――いいものではありません」
「何でそんなの見てるんだ?」
アレンが心底不思議に思って訊くと、レフは顔を伏せた。
「今とどちらが辛いか比べていました」
アレンは呆れた。
「おまえな、こういうときは、いい思い出を引っ張り出してきて気分を盛り上げるもんなの」
レフは目を瞠る。
「……そうなんですか?」
心盤を見下ろし、あの、彼女が唯一醜く見える表情をした。つまりは彼女の、今の笑みを浮かべた。
「これは多分、いいものではないと思います」
見ます? というように心盤を傾ける。アレンは目を凝らして読んだ。
――アーシェド十年初夏の月三日目。ゼアのお姉さまは帰って来ない。 アーシェド十年初夏の月四日目。お姉さまはいない。 アーシェド十年初夏の月五日目。誰かと話したい。アーシェド十年初夏の月六日目。これは多分、フロースにしたことへの報いなんだろうとは思う。でもとても寂しい。――
アレンが黙ってしまったので、レフは慌てたように心盤の上に手を載せた。その手を退けると、文字が変わっていた。
――アゼイラの勅使が来た。今か今かと待っていたのでとても嬉しい。レナのお姉さまには一昨日勅使が来ていたので、出発したお姉さまにも至急報告。外界で会えたらいいと言ってくれた。やっぱりとても優しい。すぐに発ちたい。国王は今どんななのだろうと思って、勅使を、名前はオーヴェルというのだけれど、質問攻めにしてしまった。喋るのを渋るのでわたしのことが嫌いなのかと思ってしまって、そう訊いたらとんでもないと笑ってくれた。曰く「あんまり突っ込んだこと話したら不敬になっちゃいますよ」とのこと。不敬は何かと思って訊いてみた。礼を欠くことなのだそう。その日のうちに魔法陣を完成させようとしていると、残っているゼアのお姉さまが手伝ってくれた。明日からお姉さまを一人にしてしまうのが心配……わたしだったらここに一人でいるのは、きっと耐えられないと思う。それともやってみれば案外出来るのかな? 喜ぶべきはお姉さまがそんなに長く一人でいないだろうこと! わたしはすぐに戻れるだろうから。お姉さまの手際がいいので、夜には転移できそうなのだけど、あまりに遅くなってしまってオーヴェルが寝てしまっていて、お姉さまと一緒になって笑い転げてしまった。人間は本当にころりと寝てしまう。転移は明日になりそう。グリズド百三年春の月十日目のこと上に記す。
オーヴェルを叩き起こして、朝のうちに王宮へ行ったのだけれど、アゼレルファは本当に賑やか。目を回しそうになっていると国王のエドリアルが会いに来た。やっぱり機巧兵を討伐してほしいとのことなので、引き受ける。機巧兵は本来わたしたちの命令に従うはずなのだけれど、遠隔地からはその限りではないのかな……。ゼアのお姉さまにも勅使が来たらしいので、〈記録〉が空になってしまった。心配でお腹が痛いとオーヴェルに言ってみると、よく眠れるというお茶をくれた。ものすごく美味しかったのでねだってお裾分けしてもらった。持って帰ったときにお姉さまたちに飲んでもらおうと思っているの。こんなこと考えてるとお姉さまたちに会いたくなってしまった。わたしは本当に、お姉さまたちのことが大好き。(この記録はお姉さまたちに見られないようにしないといけない。でないと百年はからかわれ続けるから)グリズド百三年春の月十一日目のこと上に心盤経由で記す。――
「こちらは楽しそうでしょう?」
レフは言った。アレンは「そうだな」と言おうとして、しかし何も言えなかった。
レフにとって、今回の機巧兵の発生は初めてではないということ。〈記録〉に辿り着いた勅使はアレンが初めてではないということ。前回はレフがごく普通に驚いたり、ちょっとしたことで笑ったり、誰かを質問攻めにしたり、お腹が痛くなったり、お茶が美味しいからとお土産にしたりして、今はしないということ――そうしたことが身体の内側を鈍く噛んで、ちょっとの間声が出なかった。
なぜだろう。
レフは不安そうにアレンを見ている。アレンは慌てて言った。
「いや、そうだな。俺も色々思い出してた。それでこの、お茶は喜んでもらえたか?」
レフは困ったような顔をし、アレンは慌てた。
「いえ……。〈記録〉に戻ったとき、わたしは――その、怪我をしていて。持って帰っているどころではありませんでしたから」
「そ、そうだったのか」
アレンは急いで話題をずらした。
「この、オーヴェルって人。優しかったか?」
レフは懐かしそうにした。
「はい。でも困らせたかも知れません。気になることはどんどん訊いていたので」
アレンは眉を寄せた。
「――俺は、訊かれてもいいけど」
レフは少し戸惑ったようにした。
「そうなんですか?――けれど、どうしてでしょうね。以前は何を見てもうるさいくらい何かを感じたり思ったりしていました。その記憶が確かにあるのです。それなのに今は何を見ても、そういうものかと納得してしまう」
アレンはまたしばらく黙ったが、今度は本当に気になることを尋ねた。
「そのオーヴェルって人は、おまえの使用者だったのか?」
きょとんとして、レフはアレンを見た。
「いいえ? わたしは使用者を設定するのは今回が初めてです。以前は上手く【掃討波】を制御できていましたから」
何とはなしに、アレンはほっとし、注意深く話題を戻した。
「――へえ。そういえばそのお茶、何て葉だったんだ? 今でもあるのかな?」
レフは眉を寄せ、真剣に考え込んだ。アレンはその余りの悩みように怯んで、慌てて言った。
「飲んだら分かるだろ。また何かの機会に飲めるかも知れねえなっ」
レフは顔を上げた。心の底からの口調で言った。
「また飲みたいです」
それからしばらく言葉を探していたので、アレンはレフが口を開くのを待った。レフは悩んでから、躊躇いがちに口を開いた。
「……暦、なんですけど」
アレンは眉を上げた。
「暦?」
これはまた意外な話題を振ってくるものである。
「今はオルオナ五十七年だけど」
「それは把握しています。今より以前のことですが、――オルオナの前はエリルートでしたね?」
アレンは町学で学んだ知識を総動員した。
「えーっと、そう、そのはず」
暦の区切りは、今はもう亡んだ、かつて大陸中央に栄えたルイル帝国が定めていた。その皇帝が改元するまでは大陸全土で同じ元号を使い続けていたわけである。しかし今から数年前に帝国が滅び、これからは元号が変わらないのではないかという予想が立っている。あるいは、ルイルの王位を簒奪した新興エテリア帝国が決めるのか。どちらにせよ、かなり遠い地での話なのでアレンは無関心である。
レフは真顔で言った。
「では、これからわたしが遡って諳んじますので、間違いがあったら訂正してください」
アレンは焦った。分からない。
「あ、ちょっと待って。――ラデル!」
呼ばれたラデルは、さてはアレンがレフを泣かせたか、というような顔で来たが、用件を聞いて拍子抜けした。
「別にいいよ」
「良かった。俺はでたらめ言われても分かんねえもん」
アレンはあながち冗談でもなく言い、レフはそれを相手にせずに諳んじ始めた。
「オルオナ、エリルート、シェレン、ファセルト、セリオク、アレネット、ローレアン、キオレイジュ、レアンノ、セイルアン、アーシェド、アリウト、クレイナル、――デセルト、グレイアル、オシェルン、ウルア、デイセト、セロコック、セルイ、ゼル、八百年間のアテラン、グリズド、エードア、フルエイル、デル、アスレイテ、デアン、フェルアン、アッセドア、ケルデナ、リウ、ルイヴア――ですね?」
「アテランって長かったんだなー」
アレンは呑気に言い、ラデルは言った。
「そりゃ、皇家の混乱期を含むからね。――レフ、合ってるよ」
レフは意外そうにした。
「足りないとか、余計なものが入っているとかはない?」
「ないよ」
ラデルは驚いたように言った。レフははあ、と言って会釈した。
「そう。わたしはそんなに物を忘れているわけではないのね」
アレンが口を挟んだ。
「おまえ、年寄みたいな心配してるのか?」
レフはきょとんとしてから、「いえ……」と呟く。ラデルは野営の準備の完了を報せた。
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その数日後に機巧兵を始末しながら辿り着いた領都アドルでは、特に入り口を分けているということもなかったので、半信半疑で入ってみた。
すると中には機巧人が殆どいない。いるとしても辛うじて第二世代か。しかしそろそろ宿で休みたいところではあるので、レフの了解を取ってから宿を押さえ、馬と馬車と荷物を置いて、久々に全員で買い出しに出た。
アレンはレフの隣を歩きながら、何度目かに溜息を吐いた。レフが彼に目を向け、真面目に言う。
「四度目です。どうしました?」
アレンはむすっとして答えた。
「だってここに来てから、いいこと一個もないし」
レフは首を傾げる。そして、小さく頷いた。
「そうですね」
レフは黙っていれば人間のように見える(レフに言わせると、人間は黙っていれば第一世代に見える)ので、浮くこともなく買い物が出来たが、こうも見事に機巧人がいないと、さすがに妙だと思わざるを得ない。人に訊くことを考えなくもなかったが、町人たちは雰囲気からそうだと察せられる第二世代をもあからさまに避けている。
「なんか、レイファとは無視の力量が違うな?」
ユアンが気味悪そうに言ったが、アレンも同感だった。
「シェンド侯は何してんだろうな」
貴族や領主は、内心はどうあれ表向きは機巧人への差別を諌める。それが、アゼイラの常識だった。アゼイラの王室が親機巧人派だからである。ゆえにアレンたちは、ここが外国だということも忘れ、領都でこのような振る舞いが許されている意味が分からなかったのである。
「レデスナはまだ差別の緩い王国だと聞いていたけど、この数箇月で情勢が変わったのかも知れない」
ラデルが難しい顔で言い、ここしばらくで擦り切れた衣服を繕うための端布が入った袋でアゼナに突撃されて、くぐもった呻きを上げた。
「はい、これ持つ!」
ラデルは反射的に袋を受け取った。それから、嫌な予感に苛まれている顔でアゼナに訊いた。
「あのさ……、アゼナ。裁縫できるの?」
アゼナは心外な、という顔をした。
「できるよ? あたしだって元々は普通の庶民だったんだからね。――レフも一緒にしようねっ」
アレンたちは何とも言えない顔をしたが、当のレフは真面目に言った。
「経験がないのだけれど」
「教えたげる、教えたげる」
アゼナは囀るように軽やかに言った。ヴェルガードがたまりかねて忠告した。
「針で指を突くと痛いからな?」
レフは彼に視線を移してから、頷いた。
アレンたちが気付いたことの一つに、レフが痛みを訴えないということがある。乗っている馬車が転倒したときも、全く声を上げなかったほどだ。だから針で指を突くというのも、蚊に刺される程度のことなのかも知れない。
日が傾く頃に宿に引き上げて夕食をその食堂で摂り――レフはやはりまだ献立を見ても中身が想像できていないので、アレンが安全圏を教えてやっている――、食後はそのまま席に陣取ってアゼナが裁縫を始めた。混雑していないから出来ることである。カウンター席は埋まっていたが、その他はかなり空いている。
アゼナの手つきは確かに慣れたものだったが、レフに教えながらのため、全く進んでいない。レフは、綻んだところを他の布で補強するというやり方に、地味に感動したようだった。たどたどしく針と糸を使うレフを、他の四人が微笑ましく見て、アゼナがあれこれと手を添える。食堂の席でこんなことをされるのはありがたいことではないので、一度給仕が注意に来たのだが、レフの顔を見て何も言わずに撤退した。レフは怪訝そうだったが、美人は正義であると、他の五人は思いを同じくした。
一刻ほど裁縫道具を広げた(レフが何回か指から出血した)後で、レフが唐突に顔を上げた。
「どうした?」
アレンが尋ねると、レフは心ここに非ずといったようで呟いた。
「――感知して……」
ユアンが眉を寄せた。
「何を?」
レフはユアンと目を合わせた。
「機巧人がいないから、感知の術式を仕込んでおいたの」
ユアンの顔が強張った。
「仕込み式の感知の術式って、相当魔力を消費するんじゃなかったのかなー……」
「機巧人がいたのか?」
アレンが割り込んで尋ね、レフは頷いた。
「きっと第二世代です。でも場所が曖昧で転移できません――少し外します」
そう言って立ったので、アレンは慌てて追いかけた。
「一人でぶらつくなってば」
アレンが付いていれば大抵のことは何とかなるので、四人は手を振って見送った。
アレンはレフに付いて行く形で外に出て、レフが迷いなく歩くのでほっとした。場所が曖昧だと言っていたので、初手から躓かれたらどうしようかと思っていたのだ。
「どこか、大体は分かるんだな?」
レフは頷く。
「はい。近くだと思います」
アレンは頷き返し――、感覚として、かなり物騒な気配を捉えた。表情が一気に険しくなる。一方のレフはこのような気配には鈍感なので、ひたすら感知の術式が発動した場所を指している。まさに物騒な気配の方向である。嫌な予感を抱え、アレンは低く言った。
「その第二世代――今相当やばいんじゃねえの」
レフはアレンを見て、意味を取りかねたような顔をした。
二人は暮れなずむ支道を進み、人通りのなさにアレンは違和感を覚えた。ここは栄えている商人都市だから、夜中まで人通りが絶えなかったとしてもおかしくはないはずだ。
「こちらです」
レフは人通りのことは一切感知せず淡々と言って、大通りにアレンを誘導した。大通りに踏み込んだ瞬間、アレンはかなり濃厚に害意を感じた。
「なんかやばいことが起きてんぞ?」
アレンは言って、レフを半歩追い越した。大通りにも人影はないが、この近くで誰かが危機に陥っていることは確かだ。そして度外れた偶然でもない限り、レフのお目当ての第二世代が追われる側か追う側に回っているのだろう。レフの精神衛生上、追う側であることを願う。
緩く蛇行してシェンド侯の館へと上っていく大通りを急ぎ足で進んでいるうち、
―−遠くで人影が出現した。




