表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五方の守護者  作者: 陶花ゆうの
2 姫君が創った勇者
PR
32/96

姫君、語る

 至れり尽くせりの待遇を受けて一夜明け、町に出てみると、エインは無事に連行されていき、彼に奴隷として売られた者も、身元が分かり次第帰されているらしい。アゼナは何食わぬ顔でせっせと噂のばら撒きを開始し、これで勇者の噂の方は収まってくれないかなと、アレンはかなり期待した。


 アゼナは今日はアリーに起こしてもらえたため、一日中ご機嫌であろうと予想がつく。


 これから噂になるだろう高貴な姫君は、食卓でシェリアに給仕された後は恭しい待遇をされ、相当満足げというか誇らしげというか、とにかく幸せそうだった。アリーがいたくお気に召したらしく、何かと傍に呼んでは構っている。居間のその様子を、食堂のアレンが意外そうな顔で見ていると、ユアンがこそっと、昨日地下室でしがみつかれているときも妙に満足げだったと報告した。


「ホントか、それ?」


 すると、何を思い出したのかヴェルガードが低く笑った。アレンは面食らう。


「どうしたんだよ?」


「いや……」

 ヴェルガードは口元に笑みを漂わせたが、ともすれば爆笑に繋がりそうである。爆笑するヴェルガード――想像できないが。

「アレンが昨日言ったことを思い出した」


 アレンはきょとんとした。


「俺? そんな笑えること言ったっけ?」


 ユアンとラデルの問い掛ける視線を受けて、ヴェルガードは微妙な笑い顔で説明した。


「昨日、俺がアレンと一緒にいただろう? そこで押し入った地下室で、アレンがレフを捜させたんだが、そのとき教えたレフの特徴が……」


 とにかく誰に見せても綺麗と思われる顔の奴だ、だったのである。


「……まじで?」


 ユアンが恐れ入った顔で呟き、ヴェルガードは続ける。


「あちらとしても困るだろう? 全部上玉を集めました、となるわけだ」


「なるだろうね」


「アレンもさるもので、他とは格が違うはずだと言い募るわけだ。見たらもう絶対に分かるから捜せと」


「いい迷惑だ……」


 ラデルは嘆息したが、アレンは悪びれず、けろりとしていた。

「なんで? あいつのこと見たまま言ったらそうなるだろう?」


 三人は沈黙し、レフを窺い、頷いた。


「まあ――認める」


「しかもその後、どれも同じくらいの水準で、と言われた瞬間、いないと割り切ったからな」


 ヴェルガードは感心したように言い、また少し低く笑った。ユアンも笑い掛けたが、自分がレフの存在を確信した理由を思い出して、喉の辺りで笑い声が消えてしまった。


 四人の視線を受けていることに気付いていない傾国は、アリーのはにかんだ風な微笑みを、笑みはないながらも嬉しげに、少し眩しげに見ていた。





□□□□□□□□□□□□□□□□





 アリーたちに篤く見送られて向かった次の町では、アゼイラが有する騎士団の一つと鉢合わせた。


「長居の必要ねえよな?」


 アレンが縋るように仲間に訊いたのは、少人数で機巧兵と渡り合っていながら、最も大きな戦果を上げるアレンたちに、身分ある騎士たちがへりくだるような態度を取り、その純粋な敬意が余りにも居心地を悪くしたからである。


 そもそも行き当たったことも計算外である。どんな規模のものであれ、戦力は分散して、より多くの国民に助かる機会を作るべきなのだ。


「ないない」

「えー、せっかくの騎士さんたちが……」


 ユアンとアゼナそれぞれの科白を受けながら、例によってお偉いさんたちの相手を任されるラデルは、「早く出て行こう」と横顔で語った。


 が、そう上手くはいかない。ちょうど町を出たところで、機巧兵が単機、こちらに向かっているのが見えたのである。



「出撃準備ッ!」


 騎士団の副団長と名乗る男が声を上げた。おおおおっ、と鬨の声が上がる中、馬車からひょいと顔を出したレフが呟いた。


「必要ないわ」


 そのまま馬車を降りる。アレンはそれを見咎めて、眉を寄せた。


「言われなくてもちゃんとやるけど――?」



 何しろ騎士団では人死にが出かねない。一方のアレンには遠距離の攻撃手段がある。


 が、アレンたちの詳しい戦闘の様子を知らない騎士団は出撃の準備を整えているようだ。事情を話して下がってもらおうと、取り敢えず交渉担当となりつつあるラデルが口を開く。だがそれに先んじて、振り返って町を、ひいては騎士団を見たレフが声を出していた。




「必要ない。下がれ」



 威厳に満ちた声だった。命令に慣れた、指揮官の口調だった。


 騎士団は二の足を踏んだが、アレンたちも驚いて彼女を見遣った。レフは明らかに優越感に満ちた目で騎士団を見、言い切った。



「出陣の必要はない。そこで見ていなさい」



 青い目が、間違いなく意思と矜持を持って彼らを見据え、立ち姿は崇敬の視線を集めるに十分だった。


 その彼女がふと振り向いて、アレンを見て首を傾げた。


「アレン?」

「お、おう?」

 思わず返事の語尾が上がったアレンを訝しげに見ながら、レフはゆっくりと言う。

「機巧兵が接近しています。この距離ならば【掃討波】が適当かと思われますが、何をしているんです?」


「そりゃおまえが――」

 言い差して、アレンは首を振った。ここのところ、機巧人に対する偏見が完全になくなったからか、レフが普段と違う顔を見せると思わずじっと見てしまう――普段の顔がどんなものなのか、はっきりと分かる程、レフを見ている。



 アレンは機巧兵に向き直り、発声した。



「――+【掃討波】+」



 ミリウィア以来初めて使った掃討波だったが、おっかなびっくりだったことが幸いし、威力は抑えられ惨劇は避けられた。


 あっさりと消し飛んだ機巧兵にどよめいた町の方へ、勇者を勇者たらしめた高貴な姫君についての話をしておいた。



【掃討波】は剣をぴくりと動かすだけで、単機の機巧兵ならば吹っ飛ばすどころか消滅させることが出来ることを、アレンは今回で学習した。




 一方、レフは掃討波が役に立ったことで嬉しげだった。


「なんで【掃討波】が好きなんだ?」


 騎士団に(主にラデルが)挨拶を済ませ、出発したときに馬車の窓越しに訊いてみると、レフは少し考えた。


「――【掃討波】が、わたし固有のもの、だからです」


 アレンは剣の柄をつついた。

「【鋭利】は違うのか?」


 レフはこくりと頷く。


「はい。【鋭利】や【防護】や【封印】などは全てのアイゼルトが持っています。ですがそれぞれ固有のものもあって、わたしの場合はそれが【掃討波】です。他の四人に比べて、威力は折り紙付きですよ?」


 アレンは速足になりかけた馬を諌めた。


「そういえば、戦闘色では他より強いって言ってたな?」


 レフは頷いて、アレンを見た。

「わたしの【掃討波】は誰の攻撃より強いですし、防御でも、機巧人の攻撃を受けないという性質としての防御壁(シールド)が、他のアイゼルトの攻撃にまで及んでいるのはわたしだけです。わたしたちアイゼルトは、一般の機巧人の魔術の類から身を守られていますが、わたしの場合は他のアイゼルトの、アイゼルトとしての力からも守られています。――魔術からは、守られていませんけれど」


 アレンは一瞬考え、冗談半分で言った。


「つまり、他のアイゼルトと喧嘩したらかなり有利なわけだ」



 レフはなぜか目を泳がせた。


「そう――ですね。でも姉たちの固有の力もすごいんですよ」


 レフはアレンと目を合わせて窓枠に手を掛けた。熱く語れる話題らしい。



「三番目の姉の【嵐壁】が一番好きです。あんなに優しい人はいません。それに長姉の【重力鎚】は本当にすごくて。二番目の姉の【剣戟域】は見たことが一度しかないのですけれど、あれは少し怖かったです。すぐ上の姉の【矢雨息】は見られませんでした――あれは方向の特定が出来ないのですって」


「なんか恐ろしい名前が色々あったぞ」


 アレンは思わず言った。使用者設定のために詠唱の部分も理解できてしまうのだ。レフは拗ねた顔をする。

「全て長姉が決めた名前と性質です。ですからアイゼルトの死後は、その固有の力は長姉に還ります」


 それを見て、アレンは疑わしげな声を出した。


「……もしかしておまえ、相当なお姉さんっ子か」


 レフは虚を突かれた顔をした。それがおかしくて、アレンは思わず笑ってしまった。





□□□□□□□□□□□□□□□□





 レデスナに入ったのはそれから一月後、冬の月が過ぎ晩冬の月に入ったときのことだった。一月分の日程を、レフの魔法陣で稼いだ計算である。アゼイラ国王の手形が関所で威力を発揮し、アゼナは初めての外国に大はしゃぎだった。


 南に来たとは思えないほど、気候に差はない。冷たい風はアゼイラと同じ匂いを含んでいた。レフにとっては昔と変わらぬ匂い――、彼女に言わせるとここは、旧アゼイラ領なのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ