勇者、助ける
「レフは?」
そう言って、地下室に現れたアレンは人攫いたちを真っ向から見た。
レフはユアンが現れたときよりも驚いた。アレンは怒りを湛えた目で地下室を見渡し、レフとユアン以外の全員を一歩下がらせるという離れ業を披露した。
「誰だ?」
囁きが聞こえた。誰何する度胸はなく、仲間内で確かめ合おうと思ったらしい。だがそれが聞こえたユアンが、面白そうに笑って言った。
「――真打ち登場だ」
語尾には悪戯っ子の気配が漂う。聞いた人攫いから血の気が引いた。ユアンを見てあからさまに、「おまえじゃなくて?」という顔をしている。
「ユアン」
アレンの声が低く、微かに苛立ちを込めて繰り返した。
「――レフは」
その声に奴隷商人たちが思ったことはたった一つだった。――レフというのが誰であれ、怪我をしていたら自分たちは死刑だ――
レフが静かに注意を引いた。
「ここです」
アレンの視線がレフに定まり、凄まじい激情に染まっていった。そうか、文句を言うために来たのだなとレフは納得したのだが、ユアンは慌ててレフから離れ、アリーはアレンの発する怒気が、彼女の耐えに耐えた神経には辛すぎたのだろう――がくりと首を垂れてしまった。
アリーに最後の止めを刺したのは、アレンだった。
レフはアリーの呼吸を確かめてから、責めるような視線をアレンに送った。その瞬間にレフはユアンの尊敬を勝ち得た。
アレンはごく普通の歩調でレフに向かって歩き出した。無論ただで通すわけには行かず、何人かがアレンに打ち掛かったのだが、一合と持たずに武器を落とされて見送る羽目になった。そうしていとも容易くレフの前に立ったアレンは、剣を引っ下げたまま頭一つ分レフを見下ろして、眉を寄せた。
何を言われようと黙って聞こうと、レフは決めた。物と扱われているならば物として振る舞えばいい。以前のような、心がほっこりと温まるような対応を、求める権利すらないのだということを、アゼイラ王家が自分を覚えていてくれた嬉しさで忘れてしまっていたのだ。けれどももう思い出した。フロースを二度に亘って殺した自分には、物扱いが適切なのだ。
アレンはレフから目を逸らし、最も傍にいた奴隷商人をじっと見た。意識したにしろそうでなかったにしろ、それで立派に金縛りである。そうしておいて、アレンはレフに視線を戻した。冴えた緑色の目が、地下室の僅かな明かりを反射して煌めき、アレンの怒りの表情を引き立てた。レフが目を合わせて首を傾げると、アレンは低い、怒気の凝る口調で言った。
「――大丈夫か」
レフは首を傾げた。口調と内容が一致していないので、どちらかが間違っているのだと判断したためだったが、それを見たアレンは射殺しそうな目で金縛りの奴隷商人を睨んだ。
どうやら間違ってはいないらしい。そう判断を改め、レフは穏やかに口を開いた。もっと早く返事をしてやれよと、奴隷商人に同情してしまったユアンから批判の視線が送られているのだが、そちらには気付かない。
「……大丈夫です」
アレンはレフに視線を戻した。
「痛いところはないんだな?」
レフは頷いた。
「はい」
「何もされてないか?」
アレンは訊き、レフは頷いた。アレンは奴隷商人に視線を移す。
「何もしてないんだな?」
その口調を、何に喩えたらいいのだろう。レフはその口調から、昔の――遥か昔の記憶にある、レフと心盤を交換して覗き込んだ、三番目の姉に激怒する長姉を思い出した。返事を違えたら、嘘を吐いたら、もう取り返しのつかないことになるぞと宣告する声だ。
奴隷商人は激しく頷いた。
「し、してねえよっ! 大体商品に手ぇ付けるわけが――」
「あ?」
レフの感知しなかった何かがアレンの気に障ったらしい。奴隷商人は数回口を開け閉めしてから、言い直した。
「だ、大事な、お客様に……」
レフは混乱して瞬きした。おかしい。商品でいいはずだ。アレンはレフを物と見なしていいはずだ。なぜ怒る?
レフは深く考えず、口に出した。
「アレン、わたしは別に商品でも」
そこまで言って今までで一番凄まじい目で睨まれた。ミリウィアを壊滅させようと言ったとき、三流品呼ばわりしたときを上回る。レフもさすがに黙り、しばし考え、もう一度口を開いた。
「アレン、わたしは物じゃなくて?」
アレンの眉間に皺が寄り、呆れ果てた声が言った。
「――何で、物?」
レフは首を傾げつつも納得した。
アレンはレフを矯めつ眇めつし、氷点下の声で言った。
「――そこのおまえ、何もしてないなら手枷は何だ?」
「う……」
奴隷商人が哀れな呻きを上げた。アリーが覚醒し、事の成り行きを理解できないままレフにしがみつき続けた。
アレンはレフの腕を取って手枷を眺め、奴隷商人をじっと見た。
「外せ」
「む無理なんだよっ!」
彼は半泣きだった。
「魔封の枷には鍵はねえし、付けたら専門職じゃねえと外せねえんだ、すいませんっ!」
アレンはユアンを見た。ユアンは両手を挙げた。
「い、いやあの、半日仕事……?」
「ふうん」
アレンは声に一滴の意外さを込め、剣を握り直した。大絶叫が奴隷商人から上がったが、アレンは頓着しない。彼が向き直ったのはレフに対してだった。ユアンがぽかんとし、アリーが硬直する中、レフはやはり表情を動かさない。
「……+【鋭利】+」
アレンは唱え、アリーが違和感を覚えたように顔を上げた。
アレンはレフの手首めがけて剣を振り下ろした。銀の波紋を刻む剣の軌道はレフの両手を切断していたが、この剣は今は剣ではない。鋼の剣としては全くの役立たずであり、今これは、具現化したレフの「鋭利」。レフはその性質ゆえ、己の力で傷つくことはない。
すっぱりと枷が斬られて落ち、一瞬後爆散した。
レフは両手を下ろすと、言った。
「やっとすっきりしました」
そして早速、アリーを自由にしに掛かった。ものの数秒。
アレンは確認の意味で言い回しを変えてもう一度訊いた。
「で、レフ。本当に何も嫌な思いはしなかったのか?」
「嫌な思い……」
レフは考え込み、奴隷商人の嘆願の視線を一身に浴びた。が、それも空しくレフは顔を上げ、数え始めた。
「まず最初、失礼な口を利かれました。それに不安定な陣での転移をさせられて、枷まで着けられました。それにこのわたしを売ろうとしたんですよ?」
アレンの視線は確実に険しくなっていっていたが、この際憂さを晴らしてしまえと思ったのか、アリーが小さな声で言った。
「……まだあります。その人たちレフを、どうすれば売りに出さずに済むか考えていて、それにそのうち、誰の情婦にするかも言い始めました。それに最後は、回して行こうなんて言ってました。完全に本人の意思は無視ですよ? ひどくないですか?」
念押さなくていいから、と奴隷商人たちは思ったに違いない。アレンは無表情に彼らを見て、鋭利を発動させたままの剣を刺突の構えで引いた。
「ちょっと待った!」
ユアンがさすがに割り込んだ。
「アレン、落ち着け。そこの、謝れ」
「すいませんでしたっ!」
アレンは剣を引いたものの、意外そうにユアンを見た。
「何で? 始末しちまえば後々刑吏も楽なのに」
「私刑だからっ。私刑は犯罪!」
ユアンは主張し、レフに視線を移した。
「レフ、訊きたいことが二つあるんだが」
レフはせっせと遠くの機巧人の縛めを解いていっていたが、ユアンに目を向けて首を傾げた。
「なに?」
「まず、何で誘拐された?」
アレンからまたしても無言の怒りが放出されたので、レフが誘拐された状況に腹を立てているらしいと推論する。レフはアリーを見た。
「付いて行かなければ彼女がひどい目に遭うと言われたの。だから付いて来たのであって、誘拐はされていない」
ユアンはにっこりした。
「覚えとけ。その手口は立派に誘拐だ」
レフは驚いたようにアリーを見た。
「そうなの?」
アリーは力なく笑った。
「……そうなの」
「だって見逃す手はないし……」
奴隷商人の一人が要らぬ口を開き、仲間の視線で串刺しにされた。アレンもそちらを見た。手に下げたままの刀身に銀の波が華やかに走った。
「だから人質とって誘拐したと」
ユアンは奴隷商人に同情の眼差しを送った。
「俺が気に入ってないのは、こいつが攫われたその経緯なんだが、それを正当な手段だったと?」
レフは意外そうな顔をしたが黙っていた。人質にされたアリーは責任を感じたのか、真っ青になっている。
「いっいえ違います! 結構目が眩んでました、すいませんっ!」
奴隷商人が必死に言い募り、それを思い切り馬鹿にした目で見てから、アレンはレフを振り返った。
「レフ」
「はい?」
レフは欠伸交じりに応え、その様子に苦笑してから、アレンは言った。
「迷惑だ。二度と誘拐されるな」
面と向かって言われ、自身も特に嫌ではなかったので、レフは頷いた。
「はい、そのようにします」
「で、レフ。二つ目なんだが……」
ユアンが言って、奴隷商人たちを示した。
「こいつらの元締めがどこにいるか知らねえ?」
奴隷商人たちの、無言の悲鳴が上がった。
ユアンが元締めの居場所を吐かせに掛かり、そうしている間にラデルとアゼナの誘導のため地上に留まっていたヴェルガードも、二人を連れて下りてきた。アゼナはひしっとレフを抱き締め、半泣きで言った。
「良かった、レフ、無事!」
「大袈裟だな」
アレンが呆れて言っていたが、誰がこの反応を引き出したと思っているのだろう。
アリーはまじまじとアレンの腰の剣を見ていたが、レフを振り返って恐る恐る尋ねた。
「ねえ……気のせい? これからあなたの気配がする」
レフは一瞬目を泳がせたが、見事に開き直った。
「――機巧人にはやはり分かる?」
「魔術師で第一世代だからだと思うけれど。ねえ、どういうこと?」
アリーは食い下がって尋ね、アレンも彼女の方を見た。レフはアレンは見ずに、アリーを見て淡々と言った。
「彼はわたしの使用者だから」
アリーはアレンを見、レフを見、あんぐりと口を開けた。
「うっそお……。使用者設定してる人なんて初めて見たよ。へぇ……。ねえ、その使用者の人、設定のときにだいじょ」
「アレンはわたしの使用者です」
レフが動転したようにやや的外れなことを言ってアリーを遮り、なぜかちらっとアレンを窺った。アレンは妙に思ったが、それよりも気になって、レフに小声で訊いた。
「――使用者って、おまえたちでなくても設定できるのか?」
この場合のおまえたちはアイゼルトを指す。レフはほっとした顔をしてから、その顔を顰めて答えた。
「出来ます。その場合使用者は、アイゼルトの使用者と違って、該当機巧人の魔力を使えるようになります。――ですが、言ったでしょう。普通の機巧人の心盤は体内にあります」
この答えも小声だったので、アリーには聞こえなかっただろう。アレンは微妙な顔になった。
「ってことは……俺、おまえの心盤に触ったよな――?」
レフは溜息を吐く。
「わたしたち以外ですと、心盤を一旦取り出さなくてはなりません。つまり――修復できるとはいえ身体に穴が開くわけです」
それに、と、鬱々とした様子で言葉を継ぐ。
「使用者を設定するということは、自分は単体では役立たずだと見られるということです……」
「はあっ?」
アレンは思わず声を大きくした。
「いや、おまえの場合逆だろ?」
レフは暗い顔だった。
「ですが他の機巧人からはそうは見らません……」
アレンは片手で顔を覆い、呻いた。
「――髪を染めさせたりして悪かった。また戻すか?」
レフは元気のない様子で首を振った。
「……いえ、結構。もう仕様がないことです……」
「悪かった」
アレンがもう一度謝ったとき、ユアンが戻って来た。
「元締めの居場所吐いたけど、行くか?」
アレンは躊躇し、レフを見た。
「疲れたよな?」
レフは首を傾げた。
「いえ? ずっと座っていられましたから」
しかしアリーはそうはいかず、奴隷商人たちが壁際に並ばせられて地下室からの出口が見えた瞬間、一気に安堵が押し寄せて来て腰が抜けてしまった。しかし脱出させねばならないので、アレンがどうしようかと思っているうちにユアンが黙って背負ってしまった。機巧人嫌いのユアンが! とアレンは驚愕したが、かく思う自分は使用者である。世の中、色々と変わっていくものであり、アレンはもう、自分が機巧人嫌いであるという確信はなかった。
アリーたち救出された人々を地上に連れ帰り、アレンたちはこの町にいるらしい元締めの下に向かった。町の北側にいるらしいので、町を縦断する形になる。
「無事で良かった!」
ラデルとアゼナが何度も繰り返し、レフは一体何のことだろうという顔をしてアレンに小突かれた。
その安心した、緩み切った雰囲気の侵入者に、元締め改め町の有力者のエインの部下は驚いたに違いなく、前衛が叩きのめされてそれには恐怖が加わった。アレンにはここで容赦してやる気は更々なく、代表のアレンがそうなのだから他も同調して当たり前だった。
エインの住居は、屋敷というにはやや物足りないが十分に広く、しかしラデルはこういった建物の造りは熟知している。殆ど迷うことなく、エインの居室の控えの間に全員を案内してのけた。
その頃には侵入者の知らせは行き届いていたとみえ、エインは手練れを集めて徹底抗戦の構えを見せていた。
アレンたちは露骨に面倒そうな顔になり、その中でアレンは仲間を振り返り、どうでもいいのだがといった口調で訊いた。
「誰がやる?」
暗に一人で足ると言われ、集められた者たちの頬が恥辱に染まったが、アレンたちのうち誰一人、一向に頓着しなかった。
「はーい、やるやるっ」
アゼナが挙手して飛び跳ね、アレンはちょっと微笑んだ。
「じゃあ頼んだ」
「了解っ」
元気よく返事をして、アゼナは前に出た。
アレンたちは観客と化し、小柄な少女に大の男たちが十数人、ばったばったとやられていく様を楽しんだ。アゼナは止めは容赦し、昏倒に留めていたが、あれは数日痛むだろうなとアレンは思った。アゼナは観客が楽しんでいることに気付くと、更に楽しめるよう演出までし、わざと背後を取らせて倒れた振りをする、というようなことまでやった。完全に遊んでいる。
数分でエインまでの道を開き、アゼナは得意満面でアレンのところに戻った。
「すごかったでしょ、あの倒れ方!」
「すごかったすごかった」
アレンは言って、居室に続く扉を開け放った。
ここにもまだ数名の護衛がいたが、既に腰が引けている。つまりは不戦敗である。アレンはそれらをちらりと見、奥で僅かに震えているエインに普通の歩調で歩み寄った。
「えー、おっさん。ここは潔く諦めて、刑吏に捕まってもらいたいんだけど」
エインは真っ赤になった。
「この私に、縄に付けだと!」
アレンは段々申し訳なくなってきた。
「そういうこと。なんかおっさんの方は人生懸ってるのに、俺たちにとっては通りすがりって申し訳ないんだけど、おっさん、手ぇ出した商売が悪かったな」
「通りすがり……?」
エインは呆然と繰り返した。アレンは頭を掻く。
「そうなんだよ。――売られた人たちを奪還するために何箇月も掛けて準備して蜂起、みたいなことを想像してたんならますます悪いんだけど。でもこっちも、仲間誘拐されて黙ってる道理がねえし」
レフさえ放っておけば良かったのになと、ラデルが呟く。アゼナは何だか嬉しそうににやにやしている。アレンは周りの護衛に顔を向けた。
「えっと、そっちの人たちも。相手が悪かったと思って深く悩まないように」
「だよねー」
アゼナがしみじみ言った。
「日頃の相手は機巧兵だもん。しょーがないしょーがない――あ」
余計なこと言うな! という視線が集中し、アゼナは笑顔を固まらせた。エインは唖然としてアゼナを指差す。
「機巧兵を相手に、だと。そんなことは出来な――」
ここで噂を思い出したらしい。呆然と口を開ける。
アレンはふつふつと湧き上がる恥ずかしさを堪えた。帰る、と言い掛けたが、ここは人違いで紛らわせるか、とも思う。ユアンと目が合い、視線で助けを求めると、ユアンははっきりと言った。
「ばれたな」
アレンは内心で悶絶した。護衛たちの間にはざわめきが走っている。
「そんな、馬鹿な。勇者がここにいるだと……」
「勇者が使っているという機巧人はどれだ?……」
「なぜこんなことにまで手を出す? 機巧兵とは関係ないはずだ……」
アレンはそちらを睨んでしまった。
「てめえら話聞いてたか。俺の仲間がてめえらに誘拐されたんだって」
発言のせいで勇者はこいつだと特定されたことに気付き、軽い眩暈を覚える。ラデルは同情の眼差しを寄せ、そっと囁いた。
「もういっそ開き直れば?」
アレンは真っ赤になった。
「出来るか!」
「仕方ないよ」
ラデルは懇懇と説いて聞かせた。
「だったらいうけど、この先変な風にレフの噂が広まったらどうする」
アレンは顔色はそのままに眉を寄せた。
「レフの……?」
「そう」
ラデルは力を込めた。
「勇者は機巧人の使用者であると、いつか噂に昇るだろう。今だって少しは認知されてる。でもさっき言ってたけど、使用者を決めるのはあんまり名誉なことじゃないらしいし、下手したら道具扱いで噂になるよ」
アレンは顔色を変えた。
「いや、それは」
ちらりとレフを見ると、聞いていない振りをしつつ挙動不審になっている。そういえばエリウで顔を顰めていた者たちもいた。あれらは機巧人で、銀髪の意味を知らず、使用者を設定した者を馬鹿にしていたのかも知れない。
「機巧人がどう思うかはもうこの際変えられない。でも、レフが喜ぶかどうかは別として、時代の趨勢は人間にあるんだ。ここはそれを利用して、レフの名前につく傷を最小限に」
「おまえ、嫁入り前の娘に言うようなことを……」
「どうでもよろしい。で、後はきみ次第だよ、アレン」
ラデルは凶悪なまでに知的な声音で言い、アレンも思わず考え込んだ。
確かに見る人が見れば、アレンの剣の性質に気付くだろう。アレンが機巧人の使用者だと気付き、噂に付け加えられていくだろう。そうなればレフは確かに傷付く。
アレンはレフを見て、かなり悄然としているのを認めて呻いた。
「まじかよ……」
溜息を一つ吐き、本当にこれは勇者なのかと疑う目をしているエインたちの前で、レフに小声で訊く。
「今の、聞いてたか」
レフは生気のない声で答えた。
「はい」
「こうなったら、一蓮托生でおまえにも恥ずかしい思いをしてもらう。いいな?」
レフは瞬きした。
「は……?」
アレンは顔を上げ、エインたちに向かって、内心消えたいと思いつつ、宣言した。
「確かに俺は勇者だが、てめえら誰を誘拐したか分かってんのか。こいつは元は銀髪だ。つまりは俺を勇者にまで押し上げた、いわば勇者を創った高貴な姫君だ。てめえらそれを売ろうとしたんだぞ」
自分で「勇者」と発声する度に、一度の戦闘よりも確実に体力を蝕まれていく自覚がある。連中の顔色が確実に変わったのを見届けてから、アレンは踵を返した。
「戻ろう。後は刑吏が来るだろう」
部屋を出てから、アレンは据わった目で断言した。
「これから、レフの紹介はあれでいこう」
アゼナが吹き出した。
「アレン、自分より肩書きすごくしたね。任せて、絶対広めるから!」
「頼んだ。目標は、打倒勇者だ」
とうとうレフが口を挟んだ。
「わたしがアレンを打倒してどうするんですか」
アゼナがまた笑った。アレンはそれを見る。
「何か嬉しそうだな?」
くすぐったそうにアゼナは笑った。
「だってー、気付いてない? アレンがレフのこと仲間って言ったの、今日が初めてだよーっ」
アレンは記憶を手繰って、頷いた。
「ああ、そうだな」
「まあ大分前からそんな気がしてなかったことはない――」
ユアンが言い掛け、アレンに乱暴に肩を組まれて詰まった。
「――んだよっいってぇなっ!」
「おまえ、いい奴だな」
嬉しそうに顔を覗き込まれ、ユアンはその頭を叩いた。
「なんだよ、今更か?」
「いんや、それこそずっと昔から」
もう夜が更けてきていたので、どこに泊まるかという問題が持ち上がったが、何とシェリアとアリーがアレンたちを待っていて、泊めてくれると言い出した。シェリアに涙ながらに礼を言われ、正直娘さんのことは頭から抜け落ちていましたと言えず、アレンの顔は強張った。
家に通されてからも、レフは思い切りアリーの視線を避けていたが、しらっとした顔でラデルが、レフの髪を染めさせたりしなければこんなことにはならなかったのに、と悔やんでみせた。
(狸……)
アレンはこっそり思ったが、アリーは訝しげな表情だった。
「染めた?」
ラデルは悔やんだ表情のままで頷いた。
「そうなんだ。彼女、地毛は銀色で、目立つから」
アリーの顔から、一切の表情が消えた。一歩下がり、急速に畏怖の色に染まる目でレフを見る。
「銀、色……?」
レフはこくりと頷き、相手の反応を息を詰めて待った。アリーはくるりと振り返り、声を張り上げた。
「お母さんっ! どうするのっ!? リノ・アイゼルトがここにいる―ー!!」
レフはかなり誇らしげにした。
フロースのことと、自身が機巧人の親であるということは、レフの中でしっかりと両立されているのである。




