表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外国の女神、異世界、そして疲れた放浪者  作者: アラベ幻灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

「神の足元で“種”を置く鳥たち──そして少年は夢の中で“壊れた人生”を見た」 ──プロスペリタス異聞録:第7話「眠りは祝福か、それとも侵入か」

プロスペリタスを巡る旅は、まだ始まったばかりだ。


王・ヨハンス三世の統治するこの世界には、説明できない“秩序”が存在する。


神ウィンフリンゼキの周囲に集まる動物たち。

空を覆う、文字のように崩れた自然。

そして、祝祭の夜に繰り返される花火。


これは「救済」なのか、それとも「観測」なのか。


そして──人は夢の中で、自分自身の真実に触れてしまう。

プロスペリタスの旅路は、すでに“方向”を持っていなかった。


ステファニーと法城ほうきろは、ヨハンス三世の支配する諸州を巡るという名目のもと、ただ「世界の内部」を移動していた。


目的はあるはずだった。

しかし、その目的はまだ言葉になっていない。


神ウンフリンゼキの領域に近づいたとき、最初に異変に気づいたのは法城ほうきろだった。


「……おい、あれ」


そこには“自然”と呼ぶにはあまりにも不自然な光景が広がっていた。


神の周囲に、動物たちが集まっている。


だが、従っているわけではない。


むしろ──“供えている”。


鳥は、空から何かを運んでくる。


その身体は透明な結晶で構成され、光を受けて微かに虹色に揺れていた。


木々は風に揺れているが、その葉は緑ではない。


乾いた黒いインク。


まるで書き損じた文字の破片が枝に貼り付いているようだった。


そして動物たちは、その神の周囲に“種”を置いていく。


理由はない。命令もない。


ただ、それが当然であるかのように。


ステファニーは小さく息を吐いた。


「……ここ、本当に世界なの?」


法城ほうきろは答えなかった。


答えられなかった。


夜。


二人は野営の天幕の中にいた。


風はなく、空は重い紫黒。


だが遠くには、光があった。


小さな町。


そこではまた、祭りが行われているらしい。


空に向かって、火が咲く。


何度目かも分からない花火。


「……ここ、毎晩誰か祝ってるのかよ」


法城ほうきろの呟きは、空気に溶けた。


ステファニーは静かに空を見ていた。


「祝ってるというより……確認してるのかもね」


「確認?」


「“ここにいる”ってことを」


その夜、異変は静かに始まった。


ステファニーは、わずかな物音で目を覚ました。


「……?」


隣を見る。


法城ほうきろが、震えていた。


汗ではない。呼吸でもない。


“何かに押されている”ような動き。


「……やめろ……」


小さな声。


夢の中。


だが、それはあまりにも現実的だった。


ステファニーは迷った。


起こすべきか。


それとも──見てはいけないものなのか。


そのときだった。


意識が、沈んだ。


気づくと、そこは夢の中だった。


ステファニーは立っていた。


しかし、身体は彼女のものではない。


世界は歪んでいる。


そして目の前に、少年がいた。


法城ほうきろ。


もっと幼い。


しかし、その背後には“別の時間”が重なっている。


怒声。


机。


点数。


期待。


沈黙。


壊れた呼吸。


「なんでできないんだ」


「まだ足りない」


「お前のためだ」


それは言葉ではなく、構造だった。


逃げ場のない構造。


少年は笑っていない。


泣いてもいない。


ただ、壊れないまま壊れていた。


ステファニーは気づく。


これは記憶ではない。


これは──“繰り返し”だ。


終わらなかった時間。


休むことを許されなかった存在。


法城ほうきろは、夢の中でも働かされていた。


どこにも逃げられないまま。


ステファニーは一歩、踏み出そうとした。


この世界では、神は救うのではなく「見ている」。

そして、人は救われたあとで初めて、自分が何から救われたのかを知る。

ステファニーが見た夢は、ただの過去ではない。

それは、プロスペリタスという世界そのものの“構造”の一部である。

次回──「観測されることの代償」。

法城ほうきろはまだ、“目覚めていない”。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ