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外国の女神、異世界、そして疲れた放浪者  作者: アラベ幻灯


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5/7

異世界の王様は、壮麗な宮殿を持っているはずですよね?

これがこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。

丘を下りて、数分も歩かないうちに、街は姿を現した。

 

法城は、思わず足を止めた。

 

「……なんだ、これ」

 

建物はどれも高くない。

二階建てか、それ以下。

だが、その形は日本で見てきたものとはまるで違っていた。

 

土でできたような壁。

滑らかではなく、わずかに歪み、手で積み上げた痕跡が残っている。

 

外壁には規則的に突き出た木の杭のようなもの。

窓は小さく、影が深い。

 

街全体が、どこか古い王国の遺構のようだった。

 

だが、死んではいない。

 

人がいる。

 

荷を運ぶ者。

布を広げる商人。

道端で何かを焼く者。

 

声があり、動きがあり、生活があった。

 

ステファニーはゆっくりと周囲を見回した。

 

「……文明はあるみたいね」

 

「でも、変だろ」

 

法城は眉をひそめる。

 

「王がいるって話なのに、それっぽい場所が見当たらない」

 

城。

宮殿。

 

そういうものが、どこにもない。

 

視界にあるのは、低い建物と、土の道と、人の流れだけだった。

 

そのときだった。

 

道の端に、一人の男が横になっているのが目に入った。

 

三十歳前後だろうか。

粗末な服。

腕を枕にして、目を閉じている。

 

眠っているようだった。

 

ステファニーは、その男に近づいた。

 

「ねえ」

 

声をかける。

 

男はゆっくりと目を開けた。

 

焦点が合うまでに、わずかな時間がかかる。

 

「……何だ」

 

「ヨハンス三世に会いたいの」

 

ステファニーは、はっきりと言った。

 

「どこに行けばいいか、分かる?」

 

男は、数秒だけ二人を見た。

 

視線が、法城とステファニーの間を行き来する。

 

そして――

 

わずかに、笑った。

 

その笑みは、からかうようなものではなかった。

 

むしろ、何かを“理解した”者のそれだった。

 

「……なるほど」

 

小さくつぶやく。

 

ステファニーは眉をひそめた。

 

「何が?」

 

男は体を起こし、ゆっくりと座った。

 

「お前たち、来たばかりだな」

 

断定だった。

 

法城が反応する。

 

「……なんで分かるんだよ」

 

男は答えない。

 

代わりに、周囲を軽く見渡した。

 

そして、言った。

 

「王に会いたいんだろう?」

 

「ええ」

 

ステファニーはうなずく。

 

「話があるの。場所を教えて」

 

彼女の頭の中には、すでに“答え”があった。

 

宮殿。

 

歴史の本で読んできた、あらゆる王たち。

 

彼らは皆、城を持っていた。

 

権力は、形を持つ。

 

そういうものだと、信じていた。

 

だが――

 

「見えているだろう」

 

男は、静かに言った。

 

ステファニーは、周囲を見た。

 

街。

 

人。

 

道。

 

「……何が?」

 

男は、わずかに顎を上げた。

 

「それが、王の宮殿だ」

 

沈黙が落ちた。

 

「……は?」

 

法城が声を漏らす。

 

ステファニーも、理解できなかった。

 

「どういう意味?」

 

男は、ゆっくりと立ち上がった。

 

そして、足元の地面を軽く踏む。

 

「この街の通り」

 

指先で、遠くへと続く道を示す。

 

「すべて、ヨハンス三世のものだ」

 

空を見上げる。

 

紫とも灰ともつかない空。

 

「空が、天井だ」

 

もう一度、二人を見る。

 

「これが、宮殿だ」

 

ステファニーは、言葉を失った。

 

理解が追いつかない。

 

概念そのものが、ずれている。

 

「……そんなはずない」

 

彼女は小さく言った。

 

「王には、拠点があるはずよ。統治には構造が必要だわ」

 

男は、わずかに笑った。

 

否定もしない。

 

肯定もしない。

 

ただ――

 

指を鳴らした。

 

乾いた音が、空気に響く。

 

次の瞬間。

 

どこからともなく、人影が現れた。

 

数人。

 

いや、それ以上。

 

同じような服装の者たち。

 

彼らは迷いなく男の周囲に集まり、頭を下げた。

 

低い声で、何かを伝える。

 

内容は聞き取れない。

 

だが、報告であることは分かる。

 

男はそれを聞き、短くうなずいた。

 

そして――

 

ステファニーと法城に向き直る。

 

先ほどまで地面に寝ていた男と、

今、目の前に立っている存在は、

同じ姿のはずなのに、

まるで別のものに見えた。

 

「紹介が遅れたな」

 

静かな声。

 

しかし、その場の空気が変わる。

 

「ヨハンス三世だ」

 

法城の思考が、一瞬止まった。

 

(……は?)

 

ステファニーも、言葉を失う。

 

男――ヨハンス三世は、穏やかに続けた。

 

「歓迎しよう」

 

周囲の人々は、変わらず動き続けている。

 

誰も騒がない。

 

だが、この場所だけが、わずかに歪んでいる。

 

「プロスペリタスへ」

 

その言葉には、重さがあった。

 

「君たちは“本”を選んだ」

 

視線が、二人の手元へ落ちる。

 

まだ持っている、それ。

 

「つまり、誓約を受け入れたということだ」

 

ステファニーが、わずかに息を吸う。

 

「……学者として、よね」

 

ヨハンス三世はうなずいた。

 

「そうだ」

 

一歩、近づく。

 

「君たちは学び、考え、そして支える」

 

「この世界を」

 

短い沈黙。

 

そして、ふっと表情が緩んだ。

 

「だが、難しい話は後だ」

 

軽く手を振る。

 

それだけで、周囲の空気が動く。

 

「まずは祝おう」

 

「新たな来訪者と、新たな誓約を」

 

遠くで、人の動きが変わり始める。

 

準備。

 

何かが始まる気配。

 

ヨハンス三世は、楽しげに言った。

 

「宴だ」

 

その一言は、

どこか自然で、

どこか不自然だった。

 

法城は、何も言えなかった。

 

この世界が、

どこまで“現実”なのか、

まだ分からなかった。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

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