プロローグ:黒 黒の不思議の国の少女
不思議の国。国を支配する邪悪なハートの女王によって過酷な暮らしが絶えない場所。絶望に溢れたこの世界に、堕落者と呼ばれる一人の少女がいた。
彼女の名は「アリス」。灰色の髪色に黒のドレス、紅い瞳が特徴的なゴスロリを思わせる程ダークな少女である。年齢は中学生~高校生くらいといったところだが、小学生に見間違えられてもおかしくはない体つきである。彼女が堕落者と呼ばれているのは、数年前ハートの女王に戦いを挑んだが敗れ、魔に支配されてしまったからである。
「実によき光景じゃ。お前は本当に良き下僕じゃな」
王座に座り、アリスを見下す女王。彼女こそがこの国を支配するハートの女王である。 良き者は部下にして甘くし、使えない者は打ち首にして処刑するというとんでもない女王だ。 権力の高さから、誰も彼女に逆らうことは出来ない。それはアリスの存在によって絶対となった事である。現に、以前アリスはハートの女王との戦いに敗れ、光を失い、完全に黒の心で染まってしまったからである。
「ありがとうございます、女王様」
アリスは無表情のまま深くお辞儀する。 アリスにとってハートの女王は、存在価値そのもののようなものだからだ。だから、アリスはハートの女王の指示に逆らう事はまずない。
「さあ、そんな使える下僕に指示を新たな与えよう。使えない下僕どもを処刑してこい」
「───かしこまりました」
アリスは女王の指示に逆らわない。たとえそれが、人を殺すという事だとしても。
アリスは他の下僕達の働く場所に行った。使えない者は処刑。目線はアリスからの目線である。アリスの目線はそう甘くはない。更に女王の命令のため、使えないと思った者は一瞬のチャンスも与えず首を斬って処刑する。 少しでも仕事を休んだ者も同じだ。アリスに処刑された者は軽く百人を超える。だがそれはハートの女王にとっては良き事であった。
「アリスよ」
一仕事を終えたアリスに、後ろからハートの女王が声をかける。
「ふむふむ、十四人か。さすが我が一番の下僕じゃ」
「ちっ、何が一番の下僕だ,,,,,」
下僕の一人が、ボソっと呟いた。が、それすらハートの女王とアリスは聞き逃してはいなかった。二人に目線を向けられた瞬間、ほんの一瞬にして下僕は冷や汗でびっしょりになっていた。
そして、女王の命令はただ一つ───
「アリス、処刑じゃ」
「かしこまりました」
ハートの女王の命令で、アリスは無表情のままその下僕に近づく。まるで心のないロボットのように。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!ほら、俺頑張ってたじゃん!ちゃんとやってたじゃん!な!さ、さっきのは土下座して謝る!ホント謝るから!で何でもすっから!!だから、だから──」
焦り、早口で喋る下僕の言葉は、途中で途絶えた。 そこに残ったのはアリスによってはねられた下僕の首と、残った体だけだった。自分の斬った死体を、無表情の顔で見つめ剣を納めた。
「おぉ、さすが良き光景を見せてくれるなアリス。今日もここは血色に染まっておる!なんという美しい色なんじゃ」
人が死んだ。それをハートの女王は悲しまないどころか逆に喜んでいる。 この光景が美しく素晴らしいと。
「そういえば、ハッタとかいう帽子屋とヘイヤとかいうウサギ男についてだが、あいつらは牢屋で苦しんでおる。実に良き光景じゃ。これもアリスのおかげじゃ」
ハッタとヘイヤ。以前アリスとともにハートの女王に戦いを挑んだ帽子屋とウサギ系少年である。敗北後、アリスとは違って下僕になることを拒否してしまったため、「最高の苦しみを味らわせてやる」と、二人まとめて牢屋に入れられた。 地面は泥で出来ており、柵は鉄製。すぐそばには処刑道具がある。
「アリス,,,,,目を覚ませ」
ハッタはかすかな声で言うが、それはアリスの耳に届くことはなく、アリスは無表情な顔で苦しむ二人を見下していた。
「今日も良くやったな、アリス」
「感謝いたします、女王様」
アリスはいつものようにお辞儀をした。
「アリ,,,,,ス,,,,,」
鉄柵を掴みながら言うハッタの声に耳をむけず、ハートの女王とともにハッタの視界から消えていった。
命令は次の日も、また次の日も処刑命令ばかりである。処刑者が増えて人手が足りなくなれば、国の住民を無理矢理引っ張りだして下僕にする。
「アリスよ、使えない者を処刑しろ」
「アリス、使えない者の処刑じゃ」
と、幾日もアリスは下僕の処刑を行い、ついにはその数千人に達していた。
アリスはハートの女王の命令とあれば何であろうと従う。 下僕の間では、ハートの女王はもちろん、アリスまでもが恐怖の人物となっていた。
「アリスよ、使えない下僕を処刑してこい」
そして今日も、何人かの下僕達が処刑される。地面が血の色で染まるのだ。
最近、ハートの女王にとって邪魔でしかない存在がある。それは、パラレルワールド。つまりこことは正反対の平和な世界である。
平和というのが大っ嫌いなハートの女王は、一刻も早くこの世界を消してやりたいと思っていた。
「アリス!」
「はい」
女王はいつになくイライラしていた。足をドンドンと音を発てながら揺らし、右手で頭をかじっている。 そんな女王の前でも、アリスは一切の感情を面にだすことは無い。
「白の世界とかいう邪魔でしかない世界を消せ!」
イライラしているせいか、アリスに体するハートの女王の口調が普通の下僕を扱っている時と同じくらいに荒い。
「かしこまりました。どうやって白の世界に行けばいいでしょうか?」
「白ウサギが時計を持っている。その白ウサギから時計を奪ってそれを鏡にあてるのじゃ。そうすれば道が開く!白ウサギは殺してしまっても構わん」
「───かしこまりました」
アリスはハートの女王の命令が終わったとわかると、すぐに城を出ていき白ウサギを探しに行った。
白ウサギは神出鬼没だ。どこに現れるかわからない。そのため、アリスにとってはこれまでにないくらいに難関な命令なのだ。更に時間をかけてしまえば女王怒りをかってしまう事となり、処刑されるのも確実だ。
「はぁ,,,,,はぁ,,,,,」
しかし、運のいいことに白ウサギがアリスの目の前を横切った。
「ねえ」
と、一瞬アリスは声をかけたが、ハートの女王の言葉を思い出して腰にある剣をぬいた。殺すつもりだ。
ピョンピョンと跳ねる白ウサギを追いかけ、そしてアリスは白ウサギを斬った。跳ねているため、首を斬ることは出来なかったものの、致命傷は与えているため白ウサギは苦しみその場に倒れた。
「これ、もらう」
アリスは白ウサギがもつ二つの時計から一つを盗み、近くにあった家に入った。誰の家かは知らないが、今は留守らしい。
アリスは鏡に時計を写し、ゲートを開いた。
「女王様、行ってまいります」
そう言って、彼女はゲートの中へと入っていった。
「う,,,,,」
白ウサギは大量の血を流しながら地面をズリズリとはっていた。今の彼に立てる力はないはずだ。
白ウサギは水溜まりに時計を写してゲートを開き、その中に落ちていった。
そして白の世界。
白ウサギは空をから叩き落とされた。そして、その衝撃で完全に死亡してしまった。
それから、白ウサギのもとにありす達が来るのは数分先の事である。




