受験
ついに青学の受験日の朝が来た。よく眠れなかった。高校受験の時も同じだった。前の日はなかなか寝付けない。緊張していることが自分でも分かる。
パパもママも朝ごはんの間は無言だった。気を使ってるんだなと感じた。でも、何も話しかけてくれなかったことがありがたかった。
「いってきます」
「忘れ物ない? 受験票持った?」
「うん」
と言って、ママにカバンの中の受験票を見せた。
「今日で最後だよね。夕飯は詩の好きなキムチ鍋だからね」
とパパが言う。
「うん、ありがとう」
玄関の鏡に映る、古着屋で買ったコートを着たあたしを見ながら答えた。
***
駅で凛と待ち合わせしていた。凛は古着屋で買ったマフラーと手袋をしている。そういえば今日は寒い。空も雲で覆われている。今、気づいた。
「おはよう」
「おはよう。寒いね。今日、雪降るって天気予報が言ってたよ」
と凛が言った。
あ、天気予報さえ気にしてられないほど緊張してるんだと思った。
「夜、寝れなくて、調子悪いの」
「詩、高校入試の時もそうだったよね」
凛はよく覚えている。
***
青学の渋谷キャンパスに着くと、凛と別れた。試験を受ける教室が別だったから。たくさんの受験生がいる。きっとどこかに湊や蓮もいるんだろうなと思ったけど、すぐに頭から彼らを追い出した。
――今日一日、今日が最後だからテストに集中しよう。
――明日になったら男の子たちのこと考えていいよ。
そう自分に言い聞かせた。
トイレに行ってから、自分の受験番号の席を見つけ、席に着く。受験票、腕時計、筆箱を出した。スマホの電源を切ってカバンにしまった。この瞬間、自分が誰ともつながらなくて一人ぼっちになった気がする。頼れるのは自分だけだ。
試験の問題を持った係の人が入ってきた。
***
全科目のテストが終わった。スマホの電源を入れた。ほっとする。凛にラインして、待ち合わせして帰る。凛が「ピザまん食べて帰ろう」と言うので、いつもの塾の近くのコンビニまで行った。
「これで受験終わりだね! 乾杯!」
ピザまんで乾杯した。
「詩、どうだった試験?」
「わかんない。あっという間に終わった感じ」
「わたしも英語は時間ギリギリだった」
凛と話してるうちに、ついに終わったんだと実感が湧いてきた。
「合格発表の日までは気楽に遊べるね」
「確かに」
とあたしは答えた。
「大学決まったら、わたしは車の免許とる。あ、卒業記念でディズニーランドも行こうよ! 誰と行く?」
と凛はもう頭が切り替わっている。
「クラスの男子たち誘ってみる? それとも湊と蓮を誘ってみる?」
「えー、湊は彩葉と行くでしょ?」
そう、湊はもう、どうでもいいと思えた。どんなに望んでも、あがいても、状況は変わりそうにない。
「いいの? 詩は湊のこと好きだったんじゃないの?」
なんで凛はこんなことをズバズバ言えるのだろうか?
「うん、ちょっとね。でも、彩葉いるし」
あ、言ってしまった。
「彩葉は上智、これから試験みたいだよ」
と凛が言った。なんで知ってるの? と思ったが、きっと蓮とラインして聞いたんだろうなと想像した。
ちょっと気になることがあったので聞いてみた。
「ねぇ、凛って、蓮のこと好き?」
「うん」
やっぱり。
ということは、凛は蓮が好きで、蓮はあたしのこと好きで、あたしは湊のことが好きだった。でも、湊と彩葉は付き合っている。
「じゃあさ、凛は蓮とディズニーランド行けばいいんだよ」
「蓮は詩のことが好きなんだよ。前にも言ったしょ」
「そんなことないって」
そんなことあるんだけど、とりあえずはノーと言わないといけないと思って言ってみた。
「間違いないって。蓮は詩のこと気にしてるよ。やっぱりクラスの男子誘って行こうかな」
「そうだね。卒業記念で、クラスの男子がいいかもね」
うん、それがいい。あたしと凛の友情のためにも。
「あ、雪!」
「天気予報どおり」
と凛が言った。
***
家に帰ると、ママが「どうだった」と聞くので、「あとは寝て待つのみ」と答えた。
「パパ帰ったら起こして」
やはり寝不足だ。
「いいよ。一緒にキムチ鍋食べよう」
部屋に入って、ベッドに倒れ込んだ。
どうしよう? 蓮のこと。
いやいや、あたしは蓮のこと好きなんだっけ?
受験終わるまで考えないようにしようと決めてたことが、ついに考える時がきた感じ。
あたしはきっと蓮のこと好きでもないし、嫌いでもないんだと思う。分かっていたのだ。だから、蓮には――。
あ、ラインに着信。待ち受け見ると蓮と分かった。なんというタイミング。
「詩、パパ帰ったよ! ご飯にしよう」
ママがうれしそうに呼ぶ。これまた、なんというタイミング。
とりあえずラインは気づかなかったことにして、ご飯にしよう。
***
キムチ鍋を食べながら、パパがいろいろ聞いてくる。
「試験どうだった?」
「分かんない。あまり自信ない」
「大学行って、将来の希望というか、夢みたいなものあるの?」
「特にない。あ、凛は海外にホームステイ行きたいって言ってた」
「詩は?」
「特にないけど、バイトして、海外旅行とか行ってみたいかな」
みんな、気が早いなって思った。まずは青学の合否が気になるし、蓮になんて言うかがまずは問題だ。
「バイトは何するの?」
そう、実は気になるバイトがある。募集しているか分からないけれど。
「大学入ったら考える」
シメのうどんを食べて、「眠いからお風呂入って寝る」と言って部屋に引き上げた。
蓮のラインを見る。
「テスト終わったね!」
「うん、でも自信ないな」
と返信した。
「明日、原宿の古着屋さん行かない?」
「二人で?」
「うん」
えっ、どうしよう?
友達から始めようと言うチャンスかもしれないと思い、
「いいよ」
と返事をした。
***
次の日、蓮と原宿に出かけた。凛に悪いと思ったが、“友達から始めよう”と言うためだと思って出かけた。
蓮も古着のコートを着てきた。二人で似たようなコート着てる。試験も終わって、気分は晴れやか。コートいらないくらい今日暖かい。
蓮はいろんなこと話してくれた。
「そういえば初詣で湊と彩葉が手をつないでいるの見かけたよ」
「凛から聞いた。俺も怪しいと思って何度も聞いたんだけど、ただの友達って言うんだよ。でも、友達と手をつなぐわけないよね」
やはり凛は蓮と連絡を取り合っている。早く“友達から”って切り出さないといけない。
話してるうちに古着屋アップルに着いた。お店に入ると店長があたしたちに気づいてくれた。
「いらっしゃい。二人ともコートがいい感じですね。受験終わったのですか?」
「合格発表待ちです。発表聞いたら、天国か地獄かみたいな感じです」
と蓮が答えた。
「そうですか。もうそろそろ春だからコート抜いて、こんなジャケットとかどうでしょう」
と言って、大人っぽいジャケットを勧めてくれた。蓮と一緒にいろいろ試着した。蓮とあたしは服の趣味が同じってことに気づいた。とっても楽しい。
一通り見て、あたしは店長に聞いてみたいことがあったので勇気を出して聞いてみた。
「店長さん、このお店、アルバイトとか募集してますか?」
蓮がびっくりしてる。
「今、二人バイトがいて、夕方とか土日に手伝ってもらってます。でも、一人はこの三月で卒業だから、そろそろ募集するつもりでした」
「あたし、大学決まったらバイト応募してよいですか?」
「いいですよ。女の子がバイト入ると助かります」
「詩、マジで」
「うん、古着好きだし、もっと知りたくて。青学受かったらね」
「青学なら近くていいですね」
と店長が言った。
この日は何も買わず帰った。古着やバイトのこととか蓮と話すと、あっという間に時間が過ぎた。とても計画していた言葉が切り出せない。
「合格発表を待つだけだね」
と言って別れた。
合格発表なんて見たくない。凛に蓮と出かけたことも伝えたくない。このまま時が止まればいいのに。
それでも時間は過ぎていく。
ついに発表の日が来た。
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