合格発表(最終話)
青学の合格発表の時間が近づいてきた。ママが横に座って、一緒にあたしのスマホ画面を見ている。
「たぶん、時間になって、ここをポチッとすると結果が分かるはず」
「便利な世の中ね。昔は大学の掲示板で自分の受験番号探したんだけどね」
とママが懐かしそうに話す。
「一分前」
あたしがカウントダウンを始める。手に汗かいてきた。お願い、合格と出てほしい。ママの顔も緊張している。
「30秒前」
合格して凛と大学行きたい。
「10秒前」
受かったら古着屋でバイトしたい。
時間になった。ポチ。
「おめでとうございます! 合格」
「やったー!」
ママとあたしが叫ぶ。立って、抱き合って、何度も飛び跳ねた。
「わぁー、やったー」
涙が出てきた。
「パパにラインする」
とママが言った。
その時、あたしのスマホにも着信が。凛からだ。
「合格した! 詩は?」
やった。
「ママ、凛も合格!」
「へー、良かったね」
「あたしも合格」
と凛に返信。
「パパがおめでとうだって」
「うん」
あ、蓮からライン。
「俺受かったよ。詩は?」
「受かったよ!」
とママには内緒で返信した。
「大学一緒だね」
「うん」
なんかウキウキしてきた。
その後もたくさんのラインが来て、たくさん返信した。ただ、湊からは何も連絡はなかった。仕方ないか。特別に連絡とる仲でもなかったし。彩葉のこともあるから、あたしからラインするのもおかしい。
***
「詩、頑張ったんだね。現役合格ってすごいよ」
とパパが帰ってきて、涙目で褒めてくれた。
「わたしはね、無理かなって思ってたのよ。12月くらいに息抜きとか言って原宿行ってたじゃない。古着のコートとか買ってたから、あまり勉強に集中できていないのかって。だからさ、無理かなって」
「違うよ。このコートがあったから、勉強に集中できたんだよ。ほんと」
と自分で自信を持って言った。
ラインがまだまだたくさん来るので部屋に戻った。
「ねぇ、パパが昔着てたコートって、どうしたんだっけ?」
「あー、アレ。あのコートは、ほら、アイツがお店始める時に返したんだよ。どうやら、あのコートを買った店と取引して店始めるとか言ってた」
とパパが懐かしそうに言った。
「確かグレンチェックだったよね? コートの柄」
「そうだったかな」
と自信なさげにパパがママに応えた。
***
あの時、湊がコート買って、あたしのこと見てくれてたら、勉強に集中できなかったと思う。
蓮がコート買ったので、古着屋行ったの後悔したこと。
蓮が「付き合ってくれ」って言ってくれたけど、「ちょっと待ってて」と言ったこと。
初詣で湊と彩葉の決定的な場面を見て、絶望したこと。
凛が蓮のこと好きだって言うので、あたしは凛の方が大事だと思ったこと。
古着屋の店長がバイト募集すると聞いて、楽しみが増えたこと。
――このコートのおかげかもしれない。受験に集中できたのは。
***
その日、凛から連絡がきた。
「明日ドライビングスクール申し込む。蓮と一緒に行く」
このまま二人仲良くなればいいなと思った。
受験終わるまで待ってて、と蓮に言ったこと。
蓮が忘れてればいいな。
あたしは聞かなかったふり、忘れたふりしておくことにしよう。
あの二人がドライビングスクール行くならと思い、あたしは古着屋に行くことにした。店長にバイトのお願いをしようと思う。
***
一人で原宿に来た。古着屋の前に立つ。
古着屋アップル。
ここでコートを買ってから、あたしの人生は変わったと思う。
誰も着てない服が欲しいと思って、凛と来た原宿で見つけた店。ここなら大学の帰りにバイトに来れる。もっと古着とか珍しいおしゃれな服を見てみたいと思った。
階段を降りて、お店のドアを押した。今日はあたし一人だ。
「いらっしゃいませ。あ、これはこれは。大学決まりましたか?」
店長が聞いてくる。ここに来たのはこれで四回目だ。顔を覚えていてくれてうれしい。
「はい、青学受かりました」
「おー、おめでとうございます。他の子は?」
「前回一緒に来た男の子も青学受かって、それから最初に二人で来た女の子も同じ青学受かったんです。もう奇跡みたい」
「それはよかったですね」
「きっと、このコートのおかげなんです」
「そんなことはないですよ。実力でしょ」
「このコート着てから、不思議なことが起きたんですよ。それがきっかけでうまくいった気がするんです」
「何、不思議なことって?」
言っても分からないだろうから、はしょることにした。
「いや、何でもないです。あの、こないだ話したバイトの件、まだ募集してますか?」
「まだ正式に募集してません。誰かがバイトのお願いって来るの待ってました」
と意味深に笑っているように見えた。
「あ、あたし、お願いしたいんですけど」
「いいですよ。まずは履歴書持ってきて。バイト時間やバイト代も説明してからね」
「そ、そうですよね」
「おーい、ユースケ。こちら新しくバイト入るかもしれない子」
と店長が奥に声をかけた。奥から若い店員さんが現れた。
「うっす」
うわ、全身古着っぽいの着てる。あたしもバイト始めるとこんなかっこしちゃうのかもしれない。
バイトの面接の日程を決めて、お店を出た。大学生活やバイトの始まりにちょっと興奮している。外は暖かい。もうコートはいらない季節がやってきた。
凛や蓮と大学の中を歩いているのを想像した。
***
彼女が店を出ると、店長はほっとした様子だ。何度か彼女にお節介をしたけど、勉強とか受験とかはなんともならないと思っていたからだ。それにしても、あの子がバイトしたいと言い出すのは想定外だった。
「店長、あの子バイトに入れるなら、もっと女もの輸入した方がいいんじゃないですか?」
「うん、そうするつもり。あ、でも、女の子がバイトに入ると男のお客増えるかもよ」
「すみませんね、僕が男だからお客さん増えなくて」
「そうじゃないって。よし、女もの増やして、女のお客さん増やせるようにしよう」
と店長がうれしそうに答えた。
***
その時、一人のお客さんが入ってきた。店長が「いらっしゃいませ」と声をかける。若い大学生くらいの男の子だ。ちょっと色気がある子だと店長は思った。
その子はジャケットを物色し始めた。
「春物ですか?」
「いや、ライブで着る服探してまして」
「ボーカル?」
「一応」
と自信なさげな返事を聞き、なるほどと店長は思って、
「ユースケ、ロックっぽいジャケットあったよね」
「あ、はい、はい」
と言って、ユースケがちょっと派手なジャケットをいくつか持ってきた。
店長はその中のいかついジャケットを持って、
「これ、ロンドンで昔流行ったジャケットです。着てみます?」
「あ、はい」
彼が袖を通すのを手伝った。彼が鏡の自分を見つめる。
「お似合いですよ」
と店長が言う。
彼が鏡の中でニコッと笑った。目が合った店長は頷いていた。
***
数日後、蓮から連絡がきた。
「湊は青学落ちて、浪人することになった。彩葉は上智に合格したらしい」
あの湊が落ちたなんて。彩葉はなんて慰めるのだろうか。卒業式で顔合わせたら何と言えばいいのかしら。来年、青学よりもいいところ受かるよって言えばいいのかしら。
あたしの湊への気持ちは、だいぶ冷めてると気づいた。
思い通りにならないこともあるけど、
思ってもみなかったことも、あたしを待ってるんだと思った。
これからもそうなのかもしれない。
誤字脱字、校正しました。
読んでいただき、ありがとうございます。
古着屋アップルは、
「服が人を変える瞬間」
「高校生の揺れる気持ち」
「小さな奇跡」
をテーマに書きました。
感想やレビューをいただけると、続編やスピンオフを書く励みになります。
詩の大学生活編、店長の過去編など、広げられる世界がまだまだあります。
これからも応援よろしくお願いします。




