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古着屋アップル ― コートがくれた小さな奇跡 ―  作者: 岩田 ヒロ


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8/10

初詣

 蓮に「俺と付き合わない?」と言われてから、学校や塾で蓮に会うと、なぜか目をそらしてしまう。これまでは何も意識してなかったのに、目が合うとドキドキする。


 けど、相変わらず湊を見かけると目が追いかけてしまう。そして、彼があたしの方を見ると、目をそらさずに「何か話しかけて」と心の中で叫ぶのだ。


 なんだろう、この気持ちは?


 こんなふうに、あたしは蓮や湊のことを気にしながら十二月が過ぎていった。受験勉強がはかどったかどうかは分からない。模擬試験の結果は青学がギリギリの合格ラインだった。青学を第一志望に決めた。なんとしてでも合格したい。


 毎年恒例の初詣を凛と行って、神様にお願いすることにした。


***


 元旦の朝、凛と待ち合わせし、いつもの近所の神社に行く。既に行列が出来ていて、本堂までは三十分くらいかかりそうだ。


「詩は何お願いするの?」


「第一志望の青学に合格できますように、って。絵馬も書きたいな。凛は?」


「同じ。同じなんだけどさ……あたしたち中一の頃からずっと一緒に初詣来てるよね。高校受験の年も同じ高校受けたし、その時も絵馬書いてお願いしたよね。覚えてる? 今年は大学合格のお願いで、これまた同じ大学。どういう偶然? というか、不思議な縁じゃない?」


 確かに不思議な縁だ。


「詩は大学卒業したらどうするの? 将来の夢とかあるの?」


「特にない。OLして、結婚して、子供産んで……とか?」


「マジで? そんな普通なの?」


「そう言う凛は?」


「大学行ったら、留学とかホームステイしたい」


 そんなことを凛が考えていて、びっくりした。


「マジで。英語とか出来るの?」


「出来るようになりたいから行くの。カナダとかニュージーランドとか」


 凛にはいつもびっくりさせられる。そして、彼女は最後に得をするのだ。


 将来の夢とか言われて、答えるのに困ってしまった。


***


 しばらく列に並んで、少しずつ進んでいく。本堂に向かう長い階段が見えてきた。階段途中で立ち止まると危険だから、階段下で少し待たされ、階段上が空くと数人ずつ上がっていくように神社の人が調整している。


 あっ。


 今、階段上ってるの――湊だ。

 茶色のダウンジャケットに見覚えがある。


 誰かと手をつないで階段を上っている。


 彩葉だ。

 湊を見つめる横顔が見えた。


 目が釘付けになった。二人は階段を上って、見えなくなった。


「今の湊と彩葉だったよね」


 と凛が言う。凛も気づいたようだ。


「あの茶色のダウンジャケット、そうだよね」


「やっぱり、あの二人は出来てたか?」


 なんと答えたらいいか分からない。見なかったことにしたかったのに。


「どうしたの? 詩」


 やばい、固まっていたらバレてしまう。あたしが湊を好きだってこと。


「塾でも仲良さそうだったよね」


 と負け惜しみみたいなことを言ってみた。


「ほら、原宿の古着屋行く時、湊が誘ったけど、彩葉が断ったじゃない。あの時の間が怪しかった」


「え、そん時に怪しいって思ったの?」


「うん」


 凛はすごいなと思った。蓮があたしのことを……って言うのも気づいていた。あたしは全く想像もしていなかった。


***


 本堂の階段の下まで来て思った。

 上ったところで、もし二人と鉢合わせしたらどうしよう。

 「二人でどうしたの?」なんて言えない。


 少しして「どうぞ」と言われ、階段を上る。わざとゆっくり上った。


 上りきったところで二人の姿は見えなかった。凛とお賽銭して、神様にお願いした。


 ――大学合格しますように。


 本当はもう一つお願いするつもりだったけど、やめた。


 凛と絵馬を書いてお供えした。どこかに湊と彩葉の絵馬もあるのかなと思いながら。


「大吉だ!」


 と凛が引いたおみくじを開いて言う。


「学業、順調に進む。待ち人、来たる。おー、今年はいいぞ!」


 あたしのおみくじは、


「凶だ……」


「学業、急ぐな。待ち人、時期尚早。だって」


 最悪だ。


「元気出しなよ。今が最悪で、これからいいことしかないって言うじゃない」


 そんなこと言われても無理だ。


***


 新年早々、あの二人を見かけてショックを受け、おみくじも最悪だったのもあり、元気が出ない。


 帰り道、凛が面倒なことを言う。


「今度、塾で聞いてみようか? 湊と彩葉、手つないで初詣行ってたでしょって。彩葉に“付き合ってるの?”って聞いてみようよ?」


 もうほっといてほしい。


「きっとさ、初詣一緒に行くなんてさ、もうバレてもいいって二人思ってるんだよ」


 そうかもしれない。

 あたしの高校生活は終わった。

 きっと将来、高校時代は思い出したくない時代として記憶されるだろう。


「詩、元気ないね」


「おみくじのせい」


「そっか」


 と凛が心配そうに言った。


***


「ただいま」


 暗い気持ちで家に帰った。


「おかえり! どうしたの暗い顔して」


 とママが言う。


「おみくじが凶だった。学業は急ぐな、だって」


「たかがおみくじじゃない。大吉出るまで引けばよかったのに!」


 あー、そうやって無かったことにすれば良かった。

 だけど、あの二人を見かけたことは白紙には出来ない。


 部屋に入ってスマホを見ると、蓮からメッセージ。


「あけましておめでとう。受験がんばろうね!」


 既読がついてしまったから、何か返信しないといけない。


「あけましておめでとう。初詣行ったらおみくじが凶だった。最悪!」


 と送信。すぐ既読になった。


「気にしないほうがいいよ。詩なら大丈夫!」


 涙が出てきた。

 湊と彩葉を見たことがショックなのか?

 蓮の優しさが嬉しかったのか?

 分からない。涙は止まらなかった。


 スマホを握ったままベッドに倒れた。


***


 次の日から、自分の気持ちにフタをして、勉強に集中した。

 だって、これで浪人したら最悪だ。


 学校でも塾でも、今までと変わらないと思われるように過ごした。

 少し、ほんの少しだけ蓮の顔が見れるようになった気がする。


 あたしが見ると、蓮もあたしを優しい顔で見てくれた。


 こうしてあたしは受験の日を迎えた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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