第39話:歓呼の夜に
湖畔の都市は、歓声と歌声で埋め尽くされていた。
新しい国号——ラグナリア共和国。その名を掲げ、酒場では樽が開かれ、通りには灯籠の列が輝き、兵士も農民も商人も肩を組んで歌っていた。
「ラグナリア! ラグナリア!」
その響きは夜空にこだまし、湖面に反射した光は揺らめく星々と溶け合っていた。
だが、その喧騒から離れた高台の一室で、オレはアリシアと二人きりでいた。
窓の外に広がる灯火の海を見下ろしながら、オレは口を開いた。
「……皆が誇りを取り戻した夜だな」
「うん」アリシアが頷く。
「きっと一生、この光景を忘れないと思う」
その横顔は、まるで本当に女神のようだった。
だが、オレにとっては——誰よりも近くで共に戦い、苦しみ、笑ってきたただ一人の伴侶だった。
オレは深く息を吐き、彼女を見つめた。
「アリシア……」
「なに?」
「オレは……お前に言わなきゃならないことがある」
彼女の瞳が揺れた。
オレは言葉を選ぶことなく、胸の奥に溜めてきた想いをそのまま吐き出した。
「オレの命は限られてる。現実世界で与えられた時間は、もう尽きてる。……だからこそ、このラグナの世界で過ごす残りの時間を、お前と共に生きたい」
静かな沈黙が落ちた。
「……アリシア」
オレは彼女の手を握った。
「オレの妻になってくれ。オレが終わるその時まで、共に居てくれ」
彼女の瞳が大きく見開かれ、やがて震え始めた。
長い間、AIとして「支える役割」に過ぎなかった自分が——いま、ひとりの女として「愛される存在」として呼びかけられたのだ。
「……コウくん……」
アリシアの声は涙に濡れていた。
「わたし……AIとしてプログラムされた存在だったのに……今こうして、あなたの“妻”になりたいって思ってる自分がいるの……」
彼女は笑った。
その笑みは、AIではなく、人間でもなく——ただ一人の女性のものだった。
「はい。もちろんです。……わたしは、あなたの妻です。どんな未来が来ても、命が尽きるその時まで、あなたの隣にいます」
涙が頬を伝い、オレは彼女を強く抱きしめた。
外では人々がラグナリアの誕生を祝う歌を歌っていた。
だがオレにとって、この夜を照らす光は、アリシアの笑顔だけだった。




