エピローグ
静かな会議室に、ホログラムの光が淡く浮かび上がっていた。
机を囲む仲間たちの顔に、青白い映像が反射する。
それは、〈Cocoon〉に残されたログ——コウヤがラグナ世界で過ごした記録だった。
「……ここだ」
中原が操作し、場面が切り替わる。
映し出されたのは、湖畔の都市で人々に「ラグナリア共和国」という国号を宣言するコウヤの姿。
勝利に歓呼する民衆、その中で彼は堂々と立っていた。
だが次に再生された場面に、一同は息を呑んだ。
広場の熱狂の夜、喧騒を離れた一室で、コウヤはアリシアに向かっていた。
「……オレの妻になってくれ」
その言葉に、涙ながらに頷くアリシア。
AIとして生まれ、コウヤと共に歩んできた存在が、この瞬間、確かに「女性」として愛を受け入れていた。
ログの音声が途切れ、室内に沈黙が落ちた。
三谷が小さく呟いた。
「……やつ、ほんとに、あのアバロス―いや、アリシアと……」
香坂は目を潤ませ、両手を胸に置いた。
「……ずっと一緒だったんだもん。最期まで、支え合って……」
北条は腕を組んだまま、長い沈黙の後に口を開いた。
「現実で時間を奪われた煌也が……仮想世界で、自分の時間を選んで生きたんだな」
誰も反論しなかった。
中原が映像を止め、仲間たちを見渡した。
「……彼は、ゲームプランナーとして“世界を創る”ことを選び……最後には、その世界の中で、一人の男として生き抜いた。
AIと、人と。理不尽に抗い、未来を自分で選んで」
島崎が苦笑しながら目頭を押さえた。
「オレらが作ったゲームの外で、あいつは……あんな物語を完結させちまったんだな」
記録は止まり、会議室は静寂に包まれた。
だがそれは、悲しみではなかった。
胸の奥に湧き上がるのは、確かな誇りと感慨だった。
——天城煌也。
彼は現実では病に倒れたが、ラグナ世界で「未来を選ぶ者」として生き、
そして、アリシアという存在と共に「夫」として歩む道を選んだのだ。
仲間たちは黙って席を立ち、夜の街へ出た。
現実の空に星が瞬いている。
その光は、まるでラグナリアの湖畔で灯った歓呼の灯火のように、彼らの胸を温かく照らしていた。
——これが、彼の「刹那の果て」に見出した物語。
そして、その物語は彼の死後もなお、ここに生き続けていた。




