第38話:ラグナリア
湖畔の広場は、人で溢れ返っていた。
市場取引所を囲む石畳には、農夫も、商人も、かつて流民だった者たちも、子どもから老人まで、幾千もの人々が集まっていた。
鐘が鳴り渡り、太鼓が鳴り響き、熱気は祭りのそれを超えて「歴史の場」を予感させていた。
オレは評議会の面々、アリシアと並んで高壇に立った。
人々の視線が一斉にこちらへ注がれる。
「……中央平野の民よ!」
オレは声を張り上げた。
「我らは炎龍を討ち、ルミナス要塞を守り抜き、ムナリスの大軍を退けた! 辺境と呼ばれ、虐げられ、逃げ惑っていた民が、自らの力で勝利を掴んだ!」
歓声が広がり、拳が天に突き上げられる。
だがオレは手を上げ、静めた。
「だが、勝利を掴んだ我らには、新しい名が必要だ!」
「国号だ!」
群衆の中から声が飛び、広場はざわめきに包まれた。
オレは深く息を吸い込み、宣言した。
「この大地、この未来、この意志を抱く我らの国の名は——」
「——ラグナリア共和国だ!」
一瞬の沈黙。
だが次の瞬間、広場は爆発した。
「ラグナリア! ラグナリア!」
老いた女が涙を流し、少年が声を枯らして叫ぶ。
商人たちは互いに肩を抱き、兵士たちは銃を掲げた。
辺境民と呼ばれた人々が、初めて自分たちを「誇りある民」として名乗れる瞬間だった。
アリシアは隣で微笑み、そっとオレの手を握った。
「……コウくん。これで人々は、自分たちの未来を名で呼べるね」
だが、オレは声を強めた。
「——だが勘違いするな!」
広場が静まり返る。
「真の建国宣言は、まだ先だ! ムナリスが崩れ落ち、我らがその運命に決着をつけぬ限り、この国は未完成だ! 今はただ、名を掲げただけにすぎない!」
人々は息を呑み、だがすぐに大きな歓声が湧いた。
「ラグナリア! ラグナリア!」
その声は湖面を震わせ、夜空にまで響いた。
オレは人々の熱狂の中で、静かに心に刻んだ。
——ラグナリア共和国。
それはまだ「約束」にすぎない。
だが必ず、この名にふさわしい国を築いてみせる。
そして、ムナリスとの決着をもって。
本当の建国宣言を——。




