第36話:外交団との会見(カルドミア王国)
最後に現れたのは、カルドミア王国の使節団だった。
鮮やかな刺繍が施された長衣を纏い、独自の宗教文様を刻んだ装飾を携えた一団は、重厚な気配を漂わせていた。
ヴァルシェンの剛直さとも、リュミナリエの絢爛さとも違う、誇りと独自性に満ちた雰囲気だった。
使節団長は、壮年の貴族にして外務卿 サリム・ハディール。
鷹のような眼光を持ち、言葉を選ぶ間も相手を測るように視線を向けてきた。
「……まずは祝意を」
サリムは深く一礼し、ゆったりとした口調で言葉を紡いだ。
「辺境伯コウヤ殿。貴殿がルミナス要塞を守り抜き、ムナリスの軍勢を退けたこと、その報は既に我が国にも届いている。カルドミアは、その勇気と才略に敬意を表す」
オレは軽く頷き、相手の様子を探った。
賞賛の言葉の裏に、慎重な探りが混じっているのを感じた。
「我らは古来より、ムナリスと国境を接してきた。時に戦い、時に交易し……その歴史は長い」
サリムの目が細められる。
「だが今、そのムナリスが衰亡に向かっているのは明白だ。いずれ、あの広大な領土は空白となろう。その時、誰がそれを継ぐのか——」
言葉を区切り、こちらを値踏みする視線が突き刺さる。
「……もしそれが貴殿ならば、カルドミアは強大な隣国と相対することになる」
サリムの声音には、わずかな緊張が滲んでいた。
「それが吉と出るか、凶と出るか……我らはまだ測りかねている」
広間が静まり返った。
その曖昧な言葉には、敵意も、承認も、同盟の意思も含まれていなかった。
「……つまり、カルドミアは様子見か」
オレは率直に口を開いた。
サリムは微笑み、首を横に振った。
「様子見とは違う。我らは敵対するつもりは毛頭ない。だが、軽々しく同盟を結ぶこともまた、我らの矜持に反する。
——貴殿がどのようにムナリスの“後”を治めるのか、それを見極めたいだけだ」
アリシアが小さく囁いた。
「……要するに、彼らは“漁夫の利”を狙ってる。ムナリスが完全に崩れた時、何を奪い、何を守るか——それを測ろうとしてるんだね」
サリムは言葉を継いだ。
「ただし、一つだけ確かに言えることがある。北方の砂漠を越えた先にあるアストレア連邦……彼らの動きは我らにとっても脅威だ。もし貴殿がその矛先を牽制できる存在であるなら、カルドミアは必ずしも傍観者ではない」
オレはしばし考え、静かに答えた。
「承った。だが、オレは誰かのために戦うわけじゃない。中央平野のために戦い、この地を守る。それが結果として誰を助けるかは——歴史が決めることだ」
サリムは目を細め、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど。だからこそ、貴殿は“脅威”であり、また“希望”でもあるのだろう」
会見が終わり、カルドミアの使節団が退出していく。
その背を見送りながら、オレは小さく息を吐いた。
「……一番読めない相手だな」
「でも、読めないからこそ、柔軟に動ける」
アリシアが答える。
「敵にも味方にもなり得る。だからこそ、気を抜いちゃいけない」
——外交戦は銃弾以上に、心を削る。
オレはそう実感していた。




