第35話:外交団との会見(リュミナリエ王国)
続いて現れたのは、リュミナリエ王国の使節団だった。
絹の衣を纏い、香辛料の香りを漂わせる豪奢な一団。
軍靴で広間に現れたヴァルシェンとは対照的に、彼らは絢爛な姿で場を支配した。
先頭に立つのは、大商館を背景に王国で絶大な影響力を持つ商務卿 マルセリウス・ディオン。
その眼差しは笑っていても、計算と警戒を隠してはいなかった。
「……まずは祝意を」
ディオンは広間に一礼した。
「中央平野の守護者、コウヤ殿。ムナリスの大軍を退け、魔法師部隊と砲列をも壊滅させたその力は、大陸の均衡を揺るがすに足る。貴殿とその民に、リュミナリエ王国は敬意を捧げる」
オレは黙って頷き、促すように視線を返した。
「……我らは既に中央平野の姿を直に見た」
ディオンの声は少し低くなった。
「湖畔の新都市、その中心に聳える市場取引所。あれは何より雄弁だ。貴殿が王権や権勢を誇示するのではなく、“経済”を国家の中心に据えようとしていることを示している」
場に微かなざわめきが走る。
リュミナリエは経済によって大陸を制してきた国。
だからこそ、オレの思想が「最大のライバル」になり得ることを理解していた。
「我らは愚かではない」
ディオンはわずかに笑みを深めた。
「貴殿がもし経済で国を動かすなら、我らにとって最も危うい相手となる。だが同時に、最も大きな“共栄の相手”ともなり得る」
「……つまり、どういう事だ?」
オレが問い返すと、彼ははっきりと言った。
「中央平野が独立国家として歩み出すその時、リュミナリエは正式にその主権を承認し、交易と金融における同盟を結ぶ用意がある」
広間がざわついた。
ヴァルシェンが承認と友好を述べるにとどまったのに対し、リュミナリエは一歩踏み込み、「同盟」という言葉を口にした。
アリシアが小さく呟いた。
「……彼らは本気だね。ムナリスの衰亡を見越して、もう次の覇者を見据えている」
ディオンはさらに言葉を重ねた。
「ムナリスはもはや終焉にある。次にその地を統べるのは、貴殿であろう。我らはそれを拒まぬ。むしろ、その時には最初に共に手を結んでおきたい」
オレはしばし沈黙した。
彼らの言葉の裏にある恐怖と打算を感じ取っていた。
だが同時に、それが「経済の国」リュミナリエにとっては誠実な提案でもあることを理解していた。
「……承った。だが忘れるな。オレたちは自分たちの意志で未来を選ぶ。誰かに金で買われることはない」
ディオンは微笑み、深々と一礼した。
「もちろんだ。だが未来の利益を共にする道があるならば、それは大陸全体にとっての福音となろう」
使節団が退場すると、アリシアがオレに寄り添い、小さく囁いた。
「……商人らしいね。恐怖と期待を同じ秤にかけて、でも最後には“利益”を最優先にする」
「だからこそ、扱いが難しい」
オレは苦く笑った。
「だが、この時代において金と交易は銃よりも重い。軽んじるわけにはいかない」
広間の外では、勝利を祝う祭りの熱気がまだ続いていた。
だが外交の場はすでに、新たな「大陸秩序」の胎動を孕み始めていた。




