第34話:外交団との会見(ヴァルシェン王国)
湖畔の大広間に、重い軍靴の音が響いた。
現れたのは、ヴァルシェン王国の使節団。
灰色の軍服に金の徽章を付けた壮年の将校——使節団長 エルンスト・カール は、まっすぐにオレを見据えた。
その背後には数名の参謀が控えている。いずれも鋭い目をしており、戦場の硝煙を知る者の空気を纏っていた。
「……中央平野の守護者、辺境伯コウヤ殿。いや……もはや新国家の首領とお呼びした方が良いかな?」
カールの声はよく通り、広間を震わせた。
「まずは、ルミナス要塞におけるご勝利に敬意を表する。ムナリスの大軍を退け、あまつさえ魔法師部隊と砲列を壊滅させたと聞く。まさしく大陸の戦史に残る偉業だ」
場に低いざわめきが走った。
ヴァルシェンの軍人が、正面から他国を褒めるなど滅多にないことだった。
「……あの戦いを見ていたのか」
オレは静かに問い返した。
カールは頷き、目を細めた。
「我が国の情報将校が前線に潜り込んでいた。いや、我々だけではあるまい。アストレアもまた同じだろう」
「……なるほど」
オレは合点した。
——だからこそ、ヴァルシェンもアストレアも震撼している。
《刹那永劫》が示した対空と対地の絶大な破壊力は、従来の兵器体系を根底から覆すものだった。
砲兵に依拠してきた両国にとって、それは「均衡を一撃で崩す力」として映ったに違いない。
「我が国は長きにわたり、アストレア連邦と血を流し続けてきた」
カールは言葉を選びながら続けた。
「砲兵と要塞戦術をもって均衡を保ってきたが……コウヤ殿の力は、それを一瞬にして打ち砕いた。あれを目の当たりにして、もはや軽んじる国は一つもあるまい」
広間の空気が重くなった。
賞賛の言葉の奥には、恐怖と警戒が隠されていた。
「……で、ヴァルシェンはどう動く?」
オレはあえて踏み込んだ。
カールは口角をわずかに上げた。
「今すぐに攻守同盟を求めることはせぬ。我らとて軽挙は避ける。だが、もし中央平野が独立国家として立ち上がるのならば、ヴァルシェンはその主権を認め、友好関係を築く意志がある」
「……つまり、承認を約束する、と」
「そうだ。互いの利益のために」
アリシアが横で小さく囁いた。
「……つまり、“敵ではない”と今のうちに言い切ったってことです」
オレは頷き、カールを見据えた。
「承った。だが、オレたちは誰の庇護にも下らない。あくまで、中央平野は中央平野として歩む」
「それでよい」カールは即答した。
「自らの未来を選べる国家であること——それこそが、我らが敬意を払う理由だ」
謁見が終わり、使節団が退出していく。
その背中を見送りながら、オレは深く息を吐いた。
「……脅威と見られても、承認は得られた」
アリシアが微笑み、頷いた。
「ええ。最初の扉は開いたよ。あとは、他の国がどう出るか」
——銃弾の代わりに言葉が飛び交う戦場。
その幕が、いま静かに開かれたのだった。




