第33話:外交の季節
ルミナス要塞が歓呼に包まれてから数日。
オレとアリシアは、一旦中央平野の中心地——湖畔の都市に戻っていた。
砦の修復や補給線の確認をマクシムたちに任せ、評議会の要請に応じた形だ。
街は戦勝を祝う祭りで熱気に満ちていた。
市場では即席の酒場が並び、農民も商人も歌い踊る。
「ルミナス要塞は落ちなかった!」
「中央平野は自由を掴んだ!」
そんな声が夜空に響き渡り、灯籠の火が湖面に揺れていた。
だが、オレは浮かれてはいられなかった。
戦いは終わっていない。ムナリスは未だに国として存続している。
休戦状態にある今こそ、次の手を考えねばならない。
そんな矢先、評議会からの報告が届いた。
「コウヤ様、各国の使節団が中央平野を訪れております」
「……各国?」
「はい。協商関係にあるヴァルシェン王国、リュミナリエ王国、カルドミア王国。それぞれが外交団を派遣し、正式に会談を求めております」
想定していた流れだった。
ルミナス要塞での勝利は、単なる防衛成功ではない。
老大国ムナリスを打ち破ったという事実は、大陸の秩序そのものを揺さぶっていた。
だが、報告の続きにオレは耳を疑った。
「……そして、もう一つ。アストレア連邦からも密使が来ております」
「……なんだと?」
アストレア連邦。
北方の大陸を支配する、冷徹な軍事国家。
これまで接点など一切なく、むしろ中央平野の存在など気にも留めていなかったはずだ。
その彼らが、密かに接触を求めてきているという。
「使者は表立っては姿を見せず、水晶を通じての密談を望んでいるとのことです」
アリシアが隣で囁いた。
「……つまり、連邦はもう中央平野を“勢力”として認めたってことだね」
「だが、何を狙っている……?」
オレは唇を噛んだ。
炎龍を倒し、ムナリスの魔法師部隊を殲滅し、ルミナス要塞を守り抜いた。
それは協商国にとっては「頼もしい仲間」だが、連邦にとっては「未知の脅威」にも映るはずだ。
宴の喧騒が外から響く中、オレは地図を広げた。
ヴァルシェン、リュミナリエ、カルドミア——そしてアストレア。
大陸の強国すべてが、今この瞬間、中央平野を注視している。
「……外交の舞台が始まる」
オレは低く呟いた。
「銃弾よりも言葉が重くなる戦いだ。ここで誤れば、どんな要塞も守れなくなる」
アリシアが頷き、オレの手に自分の手を重ねる。
「大丈夫。あなたなら乗り越えられる。だって、もう“誰かの用意した未来”をなぞるだけの人じゃないんだから」
オレは深く息を吐いた。
勝利の宴の最中にありながら、心の奥底に渦巻く緊張は消えなかった。
——戦場は変わる。
だが、戦いは続いていく。




