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第31話:永劫を穿つ光

 地鳴りが続いていた。

 ムナリスの砲列は炎を吐き、空気を震わせ、要塞を揺さぶり続ける。

 轟音のたびに石が砕け、塹壕が潰れ、負傷兵の悲鳴が響いた。


 「このままじゃ……もたない!」

 兵士たちが叫び、誰もが唇を噛んでいた。


 だが、その中心に立つオレは静かに空を仰いでいた。

 「……行くぞ、アリシア」


 「ええ」

 彼女は短く頷き、オレの手を握り締めた。

 魂が触れ合い、互いの魔力が重なっていく。


 オレが装備するラグナが装甲を展開し、背から巨大な光翼が広がった。

 「領域展開……」

 オレは深く息を吸い込み、喉が焼けるような感覚の中で詠唱を紡ぐ。


 「刹那を超えて、永劫を穿て!」

 雷鳴が大地を震わせる。


 「オレが選ぶ未来はここにある!」

 視界の全てが白光に染まり、時間が凍りついた。


 「領域展開——《刹那永劫》!」


 瞬間、空が裏返った。


 要塞の上空に広がった光の領域は、無数の刃を孕んだ奔流となって降り注ぐ。

 光刃は大気を切り裂き、砲列を飲み込み、炎と鉄を一瞬で灰燼へと変えた。


 「う、うわああああっ!」

 砲兵たちの叫びは刹那で途絶え、陣形そのものが消滅する。

 長大な砲身は真紅に焼け、溶け崩れ、黒煙と共に虚空へ消えた。


 光の奔流は止まらない。

 銃剣を握り突進していた歩兵の群れも、突撃姿勢のまま光に飲まれ、影すら残さず霧散した。

 騎兵の列もまた、疾駆のままに消滅し、馬の嘶きが空虚にこだました。


 それはまるで「軍団という概念そのもの」を否定する光景だった。

 巨大なキノコ雲が立ち上る。


 要塞に籠る兵士たちは、銃を握ったまま呆然と空を仰いでいた。

 「……消えた……」

 「全部……消えた……!」


 砲撃音も、雷鳴も、叫び声も、もう聞こえない。

 残っているのは、静寂と、灰燼だけ。


 光が収束し、領域が閉じた。


 オレは全身から力を失い、空から落ちかけた。

 「コウくん!」

 アリシアが駆け寄り、抱きとめる。

 その腕に支えられながら、オレは地上を見渡した。


 かつて数万が整列していた戦場は、黒い焦土へと変わっていた。

 砲列は影も形もなく、歩兵の陣形は壊滅。

 ムナリスの誇る虎の子の主力は、一撃で消え去ったのだ。


 沈黙を破ったのは、兵士の震える声だった。

 「……勝った……のか?」


 やがて、その声は大きな歓声へと膨れ上がった。

 「勝ったぞおおおおお!」

 「ルミナス要塞は守られた!」


 人々は叫び、泣き、抱き合った。

 彼らは理解していた。

 ——この瞬間こそが、中央平野が独立を勝ち取った証であると。


 だが、オレはその歓声の中で目を閉じた。

 意識が闇に沈みそうになる。

 「……まだ、終わってはいない」

 その呟きを、アリシアだけが聞き取った。


 彼女はオレを強く抱き締め、耳元で囁いた。

 「ええ。これからだよ、コウくん」


 空に漂う光の残滓が、ゆっくりと消えていった。

 それはまるで、神々の理不尽がまた一つ終焉を迎えたことを告げる黄昏のようだった。


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