第30話:第二次総攻撃
南方の地平線に、黒い波が再び広がっていった。
砦の上に立つオレの耳に、低く地を揺るがす音が届く。
「……来たな」
ムナリス軍の再編成は予想より早かった。
失った魔法師部隊の穴を埋めるため、今度は虎の子の本国主力を呼び寄せたのだ。
陣形の奥に見えるのは、巨大な砲列。
幾十もの長大な砲身が陽光を反射し、鈍い光を放っていた。
「長距離砲だ……!」
兵士が息を呑む。
それはヴァルシェンが恐れてきた砲兵ドクトリンの象徴というべき、通常砲のアウトレンジから一方的に放たれ、直上から相手を破壊する兵器体系である。
ムナリスはもはや体面も捨て、国家の威信をすべてこの一戦に賭けてきたのだ。
轟音が走り、大地が震えた。
初弾が要塞の外郭に着弾し、石壁が砕け散る。
次いで第二射、第三射……。
ルミナス要塞の厚壁ですら、その威力を完全には吸収できず、塵と炎が巻き上がった。
「修復班! 崩れた部分を急げ!」
「負傷者を後方へ!」
砲撃の雨が降り注ぐ中、兵士たちは必死に走り回っていた。
それでも誰も逃げ出さなかった。
「空は守れた! 今度は地を守る番だ!」
彼らは互いに叫び、必死で士気を繋ぎ止めていた。
オレは砦の上で、膝を押さえながら立ち尽くしていた。
体内の魔力はまだ完全には戻っていない。
肺は焼けるように痛み、視界は霞んでいる。
《刹那永劫》の代償は、想像以上に重かった。
「……だが、撃つしかない」
あの砲列を放置すれば、ルミナス要塞は数日も持たない。
魔法師部隊を失った今、ムナリスの切り札は砲兵。
その主力を叩かなければ、この戦争に勝ち目はない。
「コウくん!」
背後からアリシアの声が響く。
振り返ると、彼女の顔にも疲労が色濃く刻まれていた。
だが瞳は揺らいでいなかった。
「あなたの身体はまだ……! 無理をすれば——」
「分かってる」オレは短く答えた。
「でも、やるしかない。……オレがもう一度《刹那永劫》を放つ」
アリシアは言葉を失い、やがて唇を噛んで頷いた。
「……なら、私も全てを注ぐ。コウくんが倒れても、この平野は絶対に守る」
彼女の手を握る。
その小さな掌から、暖かな魔力が流れ込み、枯渇しかけたオレの魂に火を灯した。
砲撃の炎が再び大地を揺るがす。
煙の向こう、ムナリスの歩兵が銃剣を構え突撃してくるのが見える。
その背後には無数の大砲が吠え続けていた。
オレは息を吸い込み、ラグナを纏った。
重厚な装甲が身体を包み、背に光の翼が展開する。
視界の霞は晴れ、心臓の鼓動が高鳴る。
「……さあ、来い」
声が低く響く。
「もう一度、《刹那永劫》を穿ってやる」




