第28話:ムナリス地上軍の再攻勢
空が静まってから、わずか半日。
ムナリスの軍旗はなお南方に林立していた。
魔法師部隊の壊滅は、彼らにとって想定外の惨劇だったはずだ。
だが、老大国の軍令部は方針を転換できない。
「歩兵を押し出せ」「銃剣で突破せよ」——ただそれだけを命じ続けた。
「敵歩兵、前進!」
伝令の声と同時に、要塞前の峡谷に黒い波が押し寄せる。
銃剣を装着した歩兵たちが、太鼓の音に合わせて行進を続けていた。
「……時代錯誤だ」
オレは歯を食いしばりながら呟いた。
「撃て!」
マクシムの号令と共に、要塞の銃眼と塹壕から火線が走った。
機関砲が唸り、迫撃砲が炸裂する。
数百人規模で進撃していた歩兵列は、瞬く間に血と泥の山へと変わった。
それでもなお、後方から押し出される兵士たちが突進を繰り返す。
「おろかな……」
兵士の顔に恐怖はなく、諦めに似た表情だけが貼り付いていた。
命令に従うこと以外、彼らには選択肢がなかった。
やがて太鼓が鳴り止み、騎兵の角笛が轟いた。
「……まさか」
オレの視線の先、峡谷の出口に銀の槍と黒馬の群れが現れた。
——ムナリスの誇る騎兵部隊。
世界的にはすでに旧式化した兵科だ。
火砲と機関銃が戦場を支配する時代に、騎兵突撃は自殺に等しい。
だが、老大国はその伝統を捨てきれずにいた。
「突撃ぃっ!」
将校の怒号と共に、騎兵が山道を駆け下りてくる。
だが峡谷は狭く、展開する余地がない。
「狙い撃て!」
要塞の銃眼から一斉に火花が散り、馬もろとも兵が崩れ落ちた。
機関銃の連射が肉と鉄を引き裂き、蹄の音は悲鳴にかき消された。
「……これが、まだ戦術だと信じているのか」
オレは奥歯を噛み、握った拳を震わせた。
それでもムナリスは攻撃を止めなかった。
歩兵突撃と騎兵突撃を繰り返し、そのたびに血の河を広げていった。
要塞の防御は揺るがなかった。
だが守る側もまた、弾薬と体力を削られ、死傷者を増やしていく。
「コウくん!」
アリシアが肩を貸し、オレを支えながら砦の階段を駆け上がった。
消耗で足が動かず、視界が霞む。それでも退くわけにはいかなかった。
「……オレが前に立たなきゃ……兵たちの心が折れる」
アリシアは黙って頷き、腕を強く回して支えた。
砦の上でオレは立ち止まり、兵士たちを見渡して声を張り上げた。
「見ろ! 奴らは古い戦でしか戦えない! この要塞を抜けることは決してない!」
疲れ切った兵たちの顔に、それでも火が灯る。
「ルミナス要塞は落ちない!」
「撃ち続けろ! 俺たちが未来を守るんだ!」
歩兵が倒れ、騎兵が屍を積み重ねても、ムナリスの攻撃は止まらなかった。
だがその愚直なまでの力押しは、逆に兵士たちに確信を与え始めていた。
「……勝てる」
「本当に……勝てるぞ!」
銃声と歓声が交錯し、血に染まった戦場の中に、わずかながら「希望」という名の炎が芽生え始めていた。




