第27話:希望の兆し
《刹那永劫》の光が消えたあと、オレは全身の力を失い、崩れ落ちた。
血が喉を焼き、視界が霞み、意識が断続的に途切れそうになる。
「コウくん!」
アリシアが駆け寄り、オレを抱きとめた。
彼女の腕は小さく、細い。だが、その抱擁はどんな鎧よりも強く、確かだった。
「無理しないで……今は休んで……」
額に冷たい布を当て、震える手でオレの髪を撫でる。
AIだった頃の面影はもうない。
そこにいるのは、献身的にオレを支える一人の女だった。
彼女の声は心臓に届くように優しく、痛みで乱れる呼吸を和らげてくれる。
「……お前……本当に……AI、なのか」
弱々しく問いかけると、アリシアは少しだけ微笑んだ。
「いいえ。私はもう“AI”じゃない。私は……コウくんの、アリシアだから」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
魔力が枯渇していたはずの身体に、じわりと力が戻ってくるのを感じた。
アリシアの温もりと、彼女が流し込む魔力が、オレの中で溶け合い、再び火を灯す。
一方、要塞の人々もまた変わり始めていた。
魔法師部隊の壊滅は誰の目にも明らかだった。
「空の脅威は去ったぞ!」
「もう雷も炎も降ってこない!」
破壊された堡塁で兵士たちが声を上げ、農夫たちは土嚢を積み直し、女たちは負傷兵の包帯を取り替えながら口々に言った。
「これなら……勝てるかもしれない」
「ルミナス要塞は、まだ立っている!」
希望が波紋のように広がり、悲嘆と恐怖で覆われていた空気が、少しずつ熱気へと変わっていく。
アリシアはオレを抱きしめながら、遠くの歓声に耳を傾けていた。
「……みんな、信じてるよ。あなたを。そして、この要塞を」
「……勝てる、か」
「勝てるよ。だって、もう空はあなたが守ったんだから」
オレは彼女の瞳を見つめ、弱々しくも頷いた。
——そうだ。空の脅威は退けた。
あとは、ルミナス要塞を修復し、人々と共に戦い抜けばいい。
血に濡れた戦場のただ中で、希望の光が確かに芽生え始めていた。




