第25話:囮の戦い
空は火と雷で満ちていた。
数百のムナリス魔法師が一斉に詠唱し、炎槍が矢のように降り注ぎ、雷撃が空を裂く。
それは空そのものが敵意に染まったかのようだった。
「散開! 要塞に近づけさせるな!」
中央平野の魔法師隊長が叫び、三十にも満たぬ魔法師たちが身を翻す。
彼らは劣勢を承知のうえで飛び立っていた。
炎龍を討ったコウヤの存在を知りながらも、自分たちの役割は「主役」ではなく「囮」だと理解していたのだ。
「こっちだ!」
若き魔法師が炎弾を放ち、ムナリスの先頭部隊を挑発する。
直後、彼は雷撃を受け、空に散った。
「隊形を崩すな! 敵を引き寄せろ!」
別の魔法師が仲間を庇いながら炎槍を放ち、数人の敵を巻き込む。
しかし彼もまた数で押し潰され、炎に呑まれた。
それでも彼らは退かない。
要塞を背にして戦えば、一部が抜けて要塞を攻撃しに行くのは必至だった。
だからこそ、中央の空域へと誘い込み、敵を「一塊」にしなければならない。
「奴ら、集まり始めたぞ!」
観測所からの報告が要塞に届く。
実際、ムナリスの魔法師部隊は怒りに駆られ、散発的に突撃しては仲間を失った。
敵が減ったわけではない。
だが確かに、部隊の重心は一点に集まりつつあった。
犠牲を払ってでも「まとめる」こと。
それが、味方魔法師たちの使命だった。
オレは要塞上空に浮かび、ラグナを纏いながらその光景を見下ろしていた。
「……まだだ。まだ足りない」
領域展開魔法——オレに残された切り札。
これを放てば広範囲を一掃できるが、消耗は凄絶で、何度も連続しては使えない。
だからこそ、一度で敵の主力を叩き潰さねばならない。
空中で散っていく味方の姿を見ながら、拳を握りしめる。
「耐えてくれ……お前たちの犠牲を、無駄にはしない」
アリシアの声が胸に響く。
「コウくん。みんな、あなたを信じてる。……だから、あなたも彼らを信じて」
そうだ。
彼らは“未来を守るための餌”として散っているのではない。
自分の意思で囮となり、勝利を呼び込むために飛んでいる。
「……分かってる」
オレは深く息を吐き、燃え盛る空を睨んだ。
——今、この犠牲を受け止めてこそ、オレはラグナの力を振るえる。
やがて、ムナリス魔法師部隊の大半が中央空域に集まり始めた。
炎と雷の奔流が一点に集中し、味方の小隊は次々と砕かれていく。
その犠牲の先に、ただ一度きりの「機会」が生まれつつあった。
オレはラグナの魔力を解き放つ感覚を掌に集め、静かに呟いた。
「——来い。これが、お前たちの終焉だ」




