第24話:魔法師部隊の出撃
翌朝、空は不気味な静けさに包まれていた。
「……来る」
アリシアが呟いた瞬間、南方の空が裂けた。
幾百という影が、一斉に浮かび上がった。
空に広がる漆黒の軍旗。煌めく炎と雷をまとった人影。
——ムナリス魔法師部隊。
その数は数えるまでもなかった。
「……三百、いやそれ以上……」
観測兵が声を震わせる。
「ルミナスに集められた我らの魔法師は三十に届かぬ……」
戦力比は十倍以上。
老大国ムナリスがなお他国と渡り合えたのは、この空を制する力あってこそだった。
魔法師たちは一糸乱れぬ隊列で進み、詠唱の声が大気を震わせた。
炎の矢が幾百と重なり、雷槍が空を裂いて要塞を狙う。
「魔法弾幕、来るぞ! 全員、掩蔽に入れ!」
マクシムの怒号と同時に、炎と雷が石壁を叩き、堡塁を砕き、塹壕を焼き尽くした。
要塞の石壁が崩れ、兵士が炎に包まれ、悲鳴が谷を駆けた。
「これが……ムナリスの魔法師軍……!」
兵士たちの顔から血の気が引いていく。
だがその時、要塞の反対側から少数の影が舞い上がった。
「出撃だ!」
先陣を切ったのは、かつてムナリスの宮廷で失脚した老練の魔法師。
その背に続くのは、諸国の立場を捨て、中央平野に未来を見出した亡命の魔法師たちだった。
「数は足りぬ! だが、俺たちが逃げて引き付ける!」
「中央平野に未来を! ルミナスを守れ!」
彼らは炎弾を放ち、雷光を迸らせながら、巨大な敵陣に飛び込んでいった。
だが勝ち目はない。
彼らの役割はただ一つ——敵を引き付け、少しでも時間を稼ぐこと。
オレは拳を握り締め、要塞の天守からその光景を見つめていた。
「……始まったな」
「ええ」アリシアが隣で頷く。
「この戦争は、空で決まる」
分かっている。
数十対数百では、味方の魔法師は長くは持たない。
彼らが散り、空が完全に敵に奪われれば、要塞はただの棺桶になる。
だからこそ——オレの出番だ。
オレは深く息を吐き、ラグナの装具を纏った。
黒鉄の装甲が軋み、魔力の奔流が体に収束する。
炎龍を討ったときと同じ——いや、それ以上の覚悟で。
「アリシア」
「分かってる。もう、コウくんが空に出るしかない」
彼女はオレの手を強く握り、その魔力をオレに重ねた。
「行こう、コウくん。ルミナス要塞の空は、あなたが守るしかないの」
——次の瞬間、オレの身体は轟音と共に宙へと躍り出た。
ムナリスの魔法師部隊の群れに向かって。




